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第二話 強襲、そして新たな出会い ②

 脇目も振らずに壁上を目指すフラン。しかし壊触(ロット・レデレ)もそれ目をにして立ち止まる訳では無い。

 それこそが、壊触の脅威――僅かながらに残された知能は魔術を認識、理解を可能とする。


 だが、対応策を講じる術を持たない為、振りきるのは容易だが――


(数が多いですね……)


 群れを成して襲って来たとなると引き剥がすのには苦労する。そこでフランが選んだ次の手札は――


「赤髪の方。受け止めて下さい!」


 あと数段、と言った所でフランは壁上目掛け跳躍を見せる。直後、空中で身を(よじ)り、唱える。


解除(スパツィオーネ)……走錨波濤ヨ飲ミ込メ(レ・オン・アコラ)!」


 足場を消滅させると同時にフランが放った詠唱。唱えに応じ、急激な収束を見せた魔力は無数の雫を形成し、やがて環流となり壊触を飲み込む。

 “良し”と宙を舞いながら小さく拳を握るフラン。そして間も無く、壁上から声を上げていた碧眼赤髪の人物が彼女を受け止める。


「おっと……嬢ちゃん、随分と大胆な戦い方をするな」


「えぇ、まぁ。それより、逃げた人達は無事ですか?」


「二人の助けが無ければ危なかったけどな」


(良かった。取り乱してる人も居ないみたいですね)


 そう胸を撫で下ろしたのも束の間。波濤に飲み込まれた筈の壊触たちが、再び立ち上がり関所の門に押し寄せて入る。


「オイオイ本気(マジ)かよ――嬢ちゃん達、パゴット側に防御魔術は張れるか?」


「うん!任せて」


 意気込むセシィに合わせ、二人で即座に防御魔術を張り巡らせる。


輝々鏡壁(ドレッキオ・)万物ヲ反射セン(リフレット)


 壁の側面を覆った散光は、次第に集まり強固な壁を形成する。


「これで暫くは持つでしょう」


「助かるよ。取敢えず隊長を呼んでくるから待っててくれ」


 赤髪の男はそう言いながら、床扉の先へと駆けて行く。残された二人が、壁下を覗き込むと見るからに頑丈さが分かる、門扉が悲鳴を上げていた。


「師匠、大丈夫かな?」


「すぐに破られる事は無いでしょうが、早めに対処しなければまずいですね……」


 既に隣領側で誘導を行っていた衛兵が人々の避難を完了させている。扉が破られるだけなら問題は無いが、それと同時にこの狂者たちへ自由を与えてしまう。勿論それを許す訳には行かないのだが――


「やはり数が多いですね。あと一人か二人ほど援護が居れば良いんですが……」


「確かに……いち、にぃ、さん……全部で十七体、ちょっとキツイかも」


 リスクを承知の上で戦闘に踏み切るのも良いが、幸いにもここは領境の関所。ある程度の戦力は期待できるだろうと思っていた矢先。


「嬢ちゃん、待たせたな!」


「「……?」」


 口ひげが特徴的な壮年の男性と、甲冑に身を包んだ人物。


「ああ、スマンな。俺だ」


 角の生えた奇抜な鎧に思わず戸惑う二人を誤解させまいと、面を跳ね上げ顕になったのは見覚えのある碧眼。


「アナタでしたか」


「おう!……アモス隊長、この二人が手を貸してくれた魔術師です」


 “隊長”と呼ばれるその人物は二人を前にするなり、右拳を胸に当てる衛兵式の敬礼をして見せる。


「此度の助力、この〈アモス・ロッソ〉が師団長に代わり感謝する」


 そんな振る舞いにフランが謙遜を見せる中、セシィは嬉しそうに照れる姿に少しばかり場の空気が和みを見せる。


「して、トゥリオよ状況は先の報告と相違無いな?」


「えぇ、避難は済んでるものの、依然として壊触たちが壁に貼り付いています」


「フム、コチラの戦力は二人……力を貸してくれるか?魔術師の二方」


 アモスの言葉に驚きを隠せずにいるフランを差し置いて、揚々とセシィが申し出を受け入れてしまう。


「ちょ、セシィ……」


「ん?だって師匠、困ってる人は助けるでしょ?」


「それは、まぁ……そうですが。戦力が二人って……」


 大人数の増援を期待していたフランは、余りの少なさに肩をすくめるも“引けない”この状況で思わず溜息が零れる。

 どうやら、先程の避難および安全地帯までの護衛に殆んどの人員を割いてしまった結果、こうなってしまったらしい――


「で、その指示をしたのがアナタですね?」


 赤髪の男、トゥリオへ少し呆れた視線を向けるフラン。アモスとフランの溜息が重なる。


「トゥリオよ、二方が協力してくれなかったらどうするつもりだったんだ?」


「いやぁ……サイアク、俺一人でも行けるかな?って」


 誤魔化しなのか、実力あってのものかは定かじゃないが、あれやこれやと言い訳を並べるトゥリオへ説教を続けるアモス。非常事態とは思えないやり取りを繰り広げる中でフランの頭に浮かぶ一つの思い。


(もう、放って置こうかな……)


「あのぉ、二人とも?そろそろ扉が限界ですけど……」


「お、おぉスマン。つい盛り上がっちまった。と言う事で隊長、説教はまた後で!」


「忠告しておくが、今回はただでは済まんぞ」


「はいはい、分かりましたって。じゃあ銀髪の嬢ちゃんは俺と前衛に、金髪の嬢ちゃんは隊長と一緒に俺達の援護って事で頼むぞ!」


 唐突に見せたリーダーシップで返事に迷うフランとセシィだが、アモスの放った疑いの一つも見せない“構わん”との一言に釣られ、二人も同調。各々が剣を、杖を構える。

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