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第十二話 トレジャーハント ②

 ◇◇◇◇◇◇


 出発してから二度目の休憩。岩へと腰かけ、宿屋の主人から出際に貰った軽食を頬張る三人。


「フラン、あとどれくらいだ?」


 地図を広げ、暫し見つめ――道程の既に半分を超えている。目的の〈都市プリカトランテ〉まではそう遠くない様だ。それを聞いたトゥリオの表情へ明らかな悦が浮かぶ。


「リオ兄ってたくさん剣を持ってるんだよね?それでも、新しい剣を買うのって楽しみなの?」


「もちろん!倉庫のはあくまでコレクションだしな。実際に使う相棒を選ぶ時ほど楽しいモンは無いぜ」


 彼の輝く瞳を見れば、その楽しさとやらは語るまでも無いだろう。そしてそれが要因か、ここまで歩む彼の足下は今にも躍り出してしまいそうだった。

 そんな童心が前面に押し出されている彼の心情を察してか、フランとセシィは残りを口いっぱいに詰め込み、出発を急ぐ。


「そろそろ行きますか?」


「そうだね、あと半分頑張っちゃおう!」


「じゃ、再出発だな!」


 再び大地を蹴り始めた三人。ゴツゴツとした岩場を抜け砂利道へ、更に進めば間も無く平坦な舗装路へ。

 軈て姿を現すのは、パックリと割れた山間部に築かれた建築群。古式の建物、吊るすは鈍色の看板、其れら此れらが抱かせるは覚えが無い筈の旧懐。


〈渓谷都市プリカトランテ〉


 早速一行は、鍛冶屋を探すべく都市の人々へと聞き込みを始める。

 主要街道に築かれた都市と言う事もあり、様々な素材や技術を用いる職人がごまんといるそうだ。だからこそなのか、トゥリオも行く先々で、普段見せる事の無い難しい顔を浮かべている。


 そうして続けた忙しない目移り。遂に見つけた一店。


「……いらっしゃい」


 職人気質を具現化した様な店主は、ぼそりと三人の来店を歓迎、一瞬だけ視線を向けるがすぐに槌を鋼へ打ち始める。


「とりあえず拝見させて貰うとするか」


 金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く店内、新たな相棒探しが始まる。

 手に取ってみては一振り、棚に戻しては次の候補へ。術具でも扱っていれば違うのだろうが、幾度かそれを繰り返している内、二人は退屈に苛まれていた。


 とうとう限界に達しようかとしたその時、熱風を放っていた作業場から店主が姿を現す。正に今、打ち上がった一本の剣を手に。


(あん)ちゃん、気に入ったのはあったか?」


 店主の問い掛けにトゥリオは申し訳なさそうな顔をしながら答えた。

 残念だが……と。


 それでも店主は嫌な表情を見せる訳でも無く、彼の所感を頷きながら聞いていた。


「――コッチの棚は全部鋳造だろ?振らせて貰ったが、同じ長さの筈なのに重心がバラバラだ。コッチは鍛造だが砥ぎがイマイチだ」


 容赦の無い彼の感想に店主の面持ちが段々と変貌していく。それは怒りや呆れ等では無く、的確過ぎる見解への関心を表していた。


「よく分かってるじゃねぇか」


「ここの品は全部、旦那が作ってるのか?」


「俺ぁそんな(なまくら)は打たねぇ……店を持てねぇ弟子達のだ」


 店主のそんな言葉にトゥリオはニヤリと口角を上げる。

 何やら高度なやり取りが行われている様だが、ほったらかされた二人は限界を迎えたのか店先に腰を下ろし、虚空を見つめていた。もう少し長引けばフラフラと散歩でも始めてしまいそうな雰囲気だが、トゥリオは掴みかけた一隅のチャンスを掴むべく店主へ食ってかかる。


「じゃあ、旦那は一体どんな業物を打つんだ?」


 鼻を高々に、店主は先程打ち上がった剣をトゥリオへ差し出す。


「芯とガワ、それぞれ違う鋼を使って鍛えた剣だ。遥か遠くの島国で使われる製法を生かしている」


「ほう……それじゃあ、ちょいと――」


 刃を掲げ、一振り二振り。空を裂く音が静まり返った店内に響く。続けて素振りを何度か――決まった様だ。


「端数は切ってやる。五千ラルだ」


「妥当……いや、安い位だな!ほら丁度だ」


 無事に取引を終え、店主へ別れを告げようかと言うその時「嬢ちゃん達を呼んで来い」と呼び止められる。突な言葉に口をポカンと開くトゥリオだが、言われるがまま再び二人を中へ呼び戻す。


「どうかされましたか?」


「あぁ、退屈させてばかりじゃ申し訳ねぇからな。とっておきの面白い話を聞かせてやる」


 妙な言い回しで感じた、きな臭さに少々顔をしかめる一人と、愛らしい瞳を素直に輝かせる一人に語られるは“迷窟”の言い伝え。ここ渓谷都市が存在するルフォンド渓谷に数ある洞窟の内、とある一つの話だそうだ。

 迷窟と呼ばれるその場所は、字の如く複雑に入り組んだ深い深い洞窟らしい。飲み込まれ二度と姿を見せなかった探検家、魔術師も数え切れないと言う。


 しかしそんな中でも、やっとの事で脱出に成功した者達も存在する。そんな彼等が口を揃えて言うのが「化かされた」の一言。


「――確かに興味深い話ですが、先に何がある訳でも無いんですよね?」


「それが有るんだよ……東の国の剣士が残した、極東の曲刀と呼ばれる宝物がな」


「剣士?かたな?見つけてもセシィ達じゃ使えないし……でも……」


 フランとセシィの目線が重なり合い、互いに頷き合い、声が重なる。

 化かされたと言うのには興味がある、と。


「魔術の類でしょうか?それとも剣士が持ち込んだ極東で伝わる未知の術でしょうか?」


「気になるね!どうする?」


「少々寄り道になってしまいますが、たまには良いでしょう。あそこでウズウズしてる最年長も居る事ですし」


 指を差された旅隊の最年長は紅潮した顔を手で覆っていた。


「トレジャーハントだねッ!店主さん、その洞窟はどこにあるの?」

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