第十二話 トレジャーハント ①
時刻は昼過ぎ。未だ三人は寝床に顔を伏せている。
目を覚ましていない訳では無い。熱がある訳でも無い、昨晩食べ過ぎて起き上がれない訳でも無い……起き上がれないのは事実だが。
「誰か立てる奴いねぇか?」
「膝と、腰と……背中と全身がバッキバキなので無理ですね」
「戦いに山登り……休憩なしで下山はチョットきつかったねぇ」
先の出来事により三人の身体は絶えなく悲鳴を上げている様だった。寝床から立つのは勿論の事、寝返りすらも遂行するのには、気概の無い悲鳴を上げなければ辛い程だ。
そんな三人が、あれよこれよとしている間にも無益な時間は瞬く間に過ぎ、傾いた太陽は夕方を示す。
流石に不味いと、重たい体に一発気合を入れ、立ち上がろうとしたその時――扉を叩く音が響く。続いて聞こえた声は、覚えがある老人の嗄れ声。
「邪魔してもよいかの?」
「おう、鍵は開いてるはずだ」
扉の先から現れたのは声と同じく覚えのある姿。あの時、神様のように見えた件の老人。
どうやら一向に部屋から出てこない三人が気掛かりで、尋ねて来てくれたようだが……。
「お爺さん、どうしてここが?」
「どうしても何も、ワシは此処の主じゃからのう」
老人、元より主人の話によれば、フラン達とは昨日も顔を合わせているらしいのだが、極度の疲れが原因なのか幾つか記憶が抜け落ちてしまっている様だ。
「と言う事はあれも覚えとらんかのう?」
「あれってなぁに?」
主人は断腸の念を顕にしながら語り始めた。
先ず報告を終えた直後の三人は、村の人々に放ったと言う。
自分達は英雄だ。早くもてなせ、と。
それから極上のもてなしを提供すべく、ここへ連れて来られたそうだが、極限に達した空腹のせいか、門口で寛いでいた翼獣にかじりついたらしい。
そんな“ヤバイ奴等”をなんとか引き剥がし、食事を振舞ったが、その際も食い散らかすは飲み散らかすはで、大層悲惨な状態だったとの事だった。
「……」
「……」
「……」
顔を真っ赤に染める三人。言葉を返す事も出来ず、流れる沈黙を主人が斬り裂く。
「――まぁ嘘じゃけどな」
満面の笑みを浮かべている。悪戯が大成功した幼子の様に無邪気で輝かしい笑顔だ。
「……ホントに?セシィ達、翼獣に噛み付いたりしてないの?」
「本当じゃ。迎えの馬車で大人しく寝ておったわい」
安堵の息、そして迫真の演技で披露された作り言への文句が飛び交う。ひとしきり、思い思いの言葉を放ち終わった頃、主人が部屋を訪ねた“もう一つ”の目的を明かす。
その目的とは、三人が今もっとも必要としているモノであり、主人はその道の所謂プロだそうだ。
「自分で言うのは何じゃがの……巷では按摩の神様なんて呼ばれておる」
「良いのですかそんな技を……しかもタダって」
「……うん?タダとは言っとらんけど」
ここの主人は誰かを笑わせる事にも情熱を常日頃注いでいる様だ。三人が僅かに残念そうな表情を見せた瞬間に「冗談じゃ」と、ネタバラシ。タイミングが完璧なばかりに、今度は溜息も文句も発する間も無く笑いだけをかっさらう。引き際にも手慣れが表れている。笑い声が鎮まる頃、さてとと袖を捲り神業の披露へ移る。
「ほう、剣士さん良い身体をしておる。強靭ながら柔軟さを持つ、鍛え抜かれた美しい筋肉じゃ。きっと脳ミソもこんな感じなんじゃろうな」
「最後のは余計だ!」
「――お嬢さん、華奢に見えるが軸がしっかりとしておるな」
御業の下に三人の身体はすっかり元通りに。重さと痛みは消え失せ、今にも走り出してしまいたいと思わせる程に身体は軽くなっていた。
「ほっほっほ、どうじゃ?これが巷で噂の神業じゃ!」
「痛みが嘘の様ですね」
「うんうん。前よりも身体が軽いかも!」
「そうか、そうか。で――」
突に真面目な顔を見せる主人。ぴょんぴょんと飛び跳ねていたセシィが立ち尽くし、皆がそろって息を飲む。
「お代は勿論無料!好きなだけ休んで、次の旅に備えるんじゃぞ!」
颯爽と去って行く主人。扉が閉まる音、そして腹の音が鳴り響く。
気付けば太陽は姿を隠し、代わりにまん丸の月が浮かんでいる。一行は軽い夕食を済ませ、再び寝床へ転がり込む。
そうして気兼ね無く寝返りを打てる幸せに浸りながら迎えた朝日との再会。
「――準備万端!身体も万全!天気も最高!これ以上と無い出発日よりだね!」
「ですね!サクッと火山の方へ――といきたい所ですが、トゥリオさんの剣はどうしましょうか?」
「あぁ?これか、そうだな……ここから北西、ルフォンド渓谷の途中に都市がある。そこに寄って調達するか」
「〈都市プリカトランテ〉ですね。それならルートも決まりですね」
次の目的地への道程も決まった。長い旅路になりそうだが、体力の回復は十二分、新たな情報を得て意欲も溢れ出んばかり。
足取り軽やかに村を発つ。




