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第十一話 途絶えた連絡 ②

 岩場を越え、砂利道を越え、林道を越え。そうして飛行を続ける事数十分、最低地の集落へと降り立つ。


「さてと……ひでぇ有様だな」


 鼻を突くのはキツイ獣臭と血液の匂い。辺りの立ち木や家屋には無数の爪痕と貫通痕。そして無残に斬り裂かれた遺体の数々。

 惨たらしい景色に一同、口元へ手が伸びる。


「大丈夫ですか?」


「……うん。ヒドイね、魔物の仕業かな」


「その可能性は高いな。猛獣だとしても、ここまで執拗に壁を引っ掻いたりはしない筈だ」


 集落全体に散らばる多くの手掛かり。一行は散開し更なる調査を始める。

 瓦礫や食い荒らされた残骸を掻き分け、見逃さぬよう目を凝らし周辺を歩く。嫌な臭い、時折足元にグニャリと伝わる気持ちの悪い感覚に耐えながら。


 調べ始めて暫く、トゥリオの呼び声で召集が掛かる。


「どうしましたか?」


「どうも数が合わない様な気がしてな」


「数ってどう言うこと?」


 トゥリオの見解では、遺体の数と生活の痕跡が合わないらしい。

 食器や衣服、荒らされた食料など、貯蓄と考えてもこの集落の規模から見るに、潤沢を通り越して過剰すぎる位だそうだ。


「って事は、住んでた人が食べられちゃったってこと?」


「食べ物が無ければ、それもあり得るんだが……」


「食料は潤沢……つまり、逃げられた人達が居るかもしれない」


「推測だけどな。で、二人は何か見つけたか?」


 セシィとフランの調査結果は魔術師らしいモノだった。

 そんな二人が目を付けたのは至る所に付いた“貫通痕”。痕の対角線上に(つぶて)、矢尻などは残っていない。穴の周囲に濡れた跡や染みが無い事から、水の魔術は除外。炭化の痕跡も無い事から火の魔術も除外。兵器と二属性の魔術が排され、残るは闇と光と無の属性。


「無の属性は知っての通り狭範囲の魔術には適しません。で、残るは闇と光」


「闇のマナや魔力は分散しやすいから硬質な物には歯が立たないね!つまり?」


「光の魔術を使えて、強力な爪を持つ魔物って事か?」


「そうですね。そしてそんな特徴を持つ魔物は一種……狼の魔物(ルーフェロー)で間違いないでしょう」


 元凶の特定が済み、一行が導き出した解決策は群れの討伐。数の把握が出来ない状態で、一抹の不安は残るが、こうしている間にも襲われてしまう可能性は十二分。急ぎ、次の集落へと向かいたい所だが――


「上から見た感じだと、着陸が難しそうですね」


「かと言って置いて行く訳にもいかないだろ?」


「リオ兄、残念だけど……」


 悲壮感たっぷりで語り掛けるセシィにフランは思わず吹き出す。

 それもそのはず、移動を助けてくれたディスアーリは非常に高い知能を有している為、自身の帰る場所を覚えるなど造作も無い。


「んだよ。じゃあ放しても勝手に帰ってくれるんだな?」


「はい、(あるじ)の顔もしっかり覚えますし、鼻も利くので心配いりませんよ」


 フランの言葉から得た安心と惜しさから複雑な表情で翼獣達へ別れを告げるトゥリオ。向かった先が村である事を確認し、一行は次の集落へと進み始める。

 意外な事に大きな障害は無く、集落へと辿り着いたが、目の前に広がる光景は先程と大差は無かった。亡骸は女子供問わず、豊かな生活の証は無残にも荒らされ、凄惨な現場が残されている。


「人が人を恨んだとしても、ここまではやらねぇな。集落(ここ)の奴等は狼の魔物(ルーフェロー)に何かしたんだろうな……」


「いえ、それは無いと思いますよ」


「うんうん。だってルーフェローの大半は、おバカさんだからね」


 何とも大雑把な説明にポカンとしているトゥリオへ、ヤレヤレと言った様子でセシィが更なる解説を始める。


「――つまり、知性と引き換えに魔術と身体能力を手に入れたと?」


「そう言うこと!そこに獰猛な元々の性格が合わさってるから、今回みたいな事件も珍しくは無いんだよね」


 うんうんと頷き、納得している様子ではあるが、同時に事有り気な面持ちを見せている。

 その理由は親切な解説の中にあった、ルーフェローのとある生態。それは群れでの行動に意義を持っていないと言うものだ。


 生き物が群れで暮らす理由は狩りや育児と様々だが、その行動に対して意義を持たないという事は、一個体でそれ等全てを賄う事が可能である事の裏返し。従って、やはり群れの全てを討伐しなければ、被害が已む事は無いのだが……。


「そんな奴等の中でも、束ねるリーダー的なのが居るんだろ?三人で対処出来るのか?」


「心配いりませんよ。リーダーと言っても、他より身体が少しばかり大きいだけなので。さっ、行きましょう!」


 改めて現在地と、その周辺を探索し、魔物や生存者が居ない事を確認し、三人は更に山道を登り始める。

 勾配は大きいが、ある程度の整備がされていた為、一行は思いのほか順調に中腹まで距離を縮めていた。


「丁度中間地点くらいですかね?」


「少し休憩しよっか」


「そうだな……ちょっくら用を足して来る」


「良いんですか?そんな無防備を晒して。村を発つ前はあんなに警戒していたのに」


「そりゃあ、生き残ってる奴が居る可能性が高いからな」


 ここまで常に硬い面持ちを続けて来たトゥリオだったが、いつの間にかその表情は少しばかり緩みを見せていた。


「で、可能性が高まったって言うのは……何か理由でも?」


「衛兵の死体を見なかったろ?だが、戦闘の痕跡はあった。て事はつまり?」


「衛兵さんと、住んでる人達が戦いながら逃げてるって事だね!」


「今の場所から考えるとかなり登ったところかもしれないがな。可能性は高いと思うぜ……ともなれば、身も心も緩むってモンだ!じゃあ覗くなよ?」


 二人の冷たい声が重なった。

 “見る訳が無い”と……。

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