第十一話 途絶えた連絡 ①
「なんだもう発つのか?いやぁ、商会の旦那、嬢ちゃん達が来なかったらどうなってた事か――」
崩落事故より二日、手厚いもてなしですっかりと疲労を忘れ、出発に備え支度を終えた一行は最後の最後まで感謝の言葉に囲まれていた。
「復旧まで手伝って貰って……感謝してもしきれないな」
「いえいえ、しっかりともてなして頂いた以上、これ位は当然ですよ」
「ホントにお前は真面目だな。わざわざ自分から疲れる様な――」
「はーい、リオ兄ストップ!それ以上言ったらメッだよ!」
じゃれ合う二人を横目に微笑みながらフランは、見送りに来てくれていた人達へ“例の事”を訪ねていた。
裂割塊石、大きな魔留石、これと言った特徴は無いものの特異な存在。その目に写した者が居れば、小さな噂程度が流れても良い筈なのだが……。
「んー、すまねぇが見当も付かないな……ティメント村なら或いは……」
「ティメント村ですか?そこに何か手がかりが?」
「いや、手掛かりって訳じゃ無いが――」
彼から発せられたその村は、大陸北部への流通にて中間地点を担う大規模な村だそうだ。行商人による多様な品は勿論、大陸中の情報すらもこの村に集まると言う。
「何かしらの手掛かりが得られそうですね。ありがとうございます、一旦村へ向かってみますね!」
「おう、情報が無くても賑やかな村だ。折角なら楽しんでくると良い」
こうして次の目的地が決まった。
大陸の全てが集まると過言では無いその場所へ向かうべく、未だにじゃれ合う二人を引き剥がす。見送りに出向いてくれた人達への礼を済ませ、少々険しい街道を歩き始める。
途中、落石や立ち往生してしまった荷車などによる足止めを食らってしまい、時間は掛かってしまったものの三人は無事に〈ティメント村〉へと辿り着いた。
話に聞いていた通り多くの人が行き交い賑やか……それどころか――
「なんか慌ただしいね。商人の人達も商売どころじゃないって感じ?」
「そうですね、一先ずどんな状況か聞いてみましょうか」
少しばかり異質な慌ただしさ、状況を把握するために聞き込みを始めようかとしたその時だった。三人の元へ、息を切らした男達が数名駆け寄って来る。
「お前さん達、そのナリ旅隊だろ?一つ頼みを聞いちゃくれねぇか?」
「頼みですか?まぁ構いませんが……」
男達の差し迫った雰囲気に圧倒され、つい二つ返事を返してしまったフラン。いつも通り、トゥリオは不満を浮かべ大きく息を吐いている。
しかし、彼等の“頼み”とやらを聞いた途端に三人の表情が一気に引き締まる。
「オイ、ソイツは本当か?」
「あぁ、周辺集落との定期連絡が途絶えてな。調査に行った衛兵団の小隊が帰って来ない……一人もだ」
彼の放つ言葉でトゥリオの顔から不満は消え、代わりに見せる面持ちは真剣そのものだ。衛兵団に所属していたトゥリオだからこそ、事の重大さを痛感しているのだろう。
「小隊って事は最低でも二十人以上か。フラン、この件はかなり危ない匂いがするぜ」
「そうみたいですね。トゥリオさんのそんな表情初めて見ましたよ」
「こうしちゃ居られないね!早速助けに行かなきゃ!」
「そうだな。アンタら取敢えず、知ってる事を全部教えてくれ」
得られた情報は僅かな物だった。
先ずは、ここ〈ティメント村〉より北部に位置するベリトーソ連峰の裾野から中腹付近に点在する幾つかの集落と三日前から連絡が途絶えている事。そして連絡が途絶える数日前から何かの吠える声が響いていた事。
衛兵達の未帰還と言う不安を煽る事実も相まって情報の不十分は否めないが、致し方ない様だ。
「行くしかありませんね」
「じゃあ出発だね!」
急を要する依頼とは言え、中腹まで至るには険しい道を進まなければならない。加えて裾野までの道程も決して楽なモノでは無い為、一つ気合を入れ歩き出そうかとした矢先に現れた老人。
三人の目にはその人物が“神”の様に写った。
「待ちなされ、過酷な道には彼等が……ディスアーリが。そう“翼獣”が大きな助けになるじゃろう」
三匹の翼獣を連れたその人物は、フラン達へ手綱を渡し、後は何を言うでもなく背中を見せ、気づけば姿を消していた。
「いやぁ助かるぜ!そんじゃ、サッサと片付けるか」
「ありがたいですが、一体あの人は……」
「ホントに神様だったりして」
突然のサプライズで体力の温存が確立した上、適度に緊張が解された一行は最高のコンディションで村を発つ。




