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第二話 強襲、そして新たな出会い ①

 グリマーニ領 城塞都市グランオリバより北へ数キロ――


〈リジョナ平原〉



燭光、灯セ(ルーメ・センブレ)


 グランオリバ出発から歩き続けて数時間、すっかり日が暮れ夜闇に満ちた草原を煌々とした一つの光が照らす。明かりを灯してもなお心細いのかフランの腕にしがみついたままのセシィが、何処に向かっているのかと尋ねる。


「そうですね、先ずはこの石板に刻まれた刻印を調べたいので、大陸最大の魔術都市に向かおうかと……」


「魔術都市……レグミストだね!」


 先程までの心許なさが吹き飛び、少々うわずった口調になるセシィだが、それも無理はない。魔術都市レグミストとはその名の通り、魔術に長けた大都市、魔術師の聖地とも言われる場所でもある為だ。

 そんな聖地には魔術に関する書物は勿論、フランやセシィが持つ大杖(スタッフ)等の術具そして、魔力や魔粒子(マナ)を注ぐと特定の魔術を発動する《発動刻印》を彫り込む“加工師”等々とにかく魔術に関するモノであれば手に入らない物は無いと言える様な場所。


「この刻印……きっと発動刻印だと思うですが、私もそんなに詳しいわけでは無いので、専門家に聞くのが一番でしょうから」


「レグミストかぁ、有名な魔術師さんとか会えるかなぁ?」


 セシィのうわずった様子は声だけに留まらず、しまいには夜闇の中をスキップし始めてしまう。少しばかり気が早いセシィの手綱を取りつつ、フランは目の前の森林を指差す。


「リコモルト森林、あそこの中心辺りに関所が有るのでそこから越境しましょうか」


「はぁい!」


 本当に聞いてるのか?と心配になりながらもフランははぐれない様にとだけ念押し、揚々と先を往くセシィの背中を追って森林を目指す。


 ◇◇◇◇◇◇


 立ち並ぶ木々が深い夜影に一層、濃い影を落とす。ざわざわと揺れる葉が少し不気味さを感じさせる広大な森林地帯。


〈リコモルト森林〉


「セシィ、足元気を付けてくださいね」


 人通りの多い街道だが、複雑に隆起した木の根によって所々の石畳が乱れてしまっている。少々悪い足元に注意を促したフランだったが、その忠告もむなしく勢い良く地面へとダイブ――


「いったぁー……」


「ほら、言わんこっちゃない。立てますか?」


 差し伸べられたフランの手にすかさず掴まり立ち上がる。フランは自身の腕に掛かる重さで彼女の成長を感じながらも、何処かに残る幼さへ心配を隠せずにいる。

 そんなフランの思いを知ってか知らずか、今度はしっかりと明かりを灯し先頭を行く。


 そこからまた暫く、月の明かりも遮る深い森を進んだ所でセシィが立ち止まる。


「師匠、何か聞こえるよ?」


「どうしたんですか?急に……」


 耳を澄ませるセシィにならい、フランも周囲へ耳を傾ける。木々が奏でる葉擦れの音色、飛び立つ鳥の羽音、そして……僅かに聞こえる警鐘の音。


「何処からでしょうか?そこまで遠くは無い様な……」


 絶えず届き続ける鐘の音、位置を探ろうと感覚を研ぎ澄ますフランの肩をセシィが揺さぶる。その後直ぐ示した方角には魔術による灯りと、それに照らされた領土を遮る隔壁の上部。


「領境の方ですね。微かに悲鳴も聞こえました……急ぎましょう!」


 ――駆け出す二人の少女、街道を外れ最短で騒ぎの元を目指す。木々の間隙(かんげき)、往く手を阻む倒木を易々と躱しながら走る。


 ◇◇◇◇◇◇


 悲鳴と助けを求める声、逃げ惑う人々……追いかける人であった者達。血走った(まなこ)と、正気を失い言葉ならざる声を発するその者達。


壊触(ロット・レデレ)……しかもこんなに大勢の……」


 壊触(ロット・レデレ)――魔術の発動によって生じる、構造が破壊された壊魔粒子(ロット・マナ)に触れた者達の総称。人間、動物、魔獣など種を問わず触れた者は正気を失い、ただ周りの生物を襲い続ける。

 助ける方法は無く、対処の方法は一つ――


「セシィ!生存者を逃がします。戦闘の準備を!」


「はい!師匠!」


 逃げる人々に迫る壊触(ロット・レデレ)、フランは静かに杖を構える。


光柱立シ、天ヲ貫ケ(エルーチ・レストロ)


 詠唱の終了と同時、地面に無数の光点が閃く。それから一呼吸、点の全ては(きらめ)く柱となって天高く雲を貫く。

 それは巻き込まれた壊触も同様だ。体の一部、若しくは全身……光に包まれた部分は跡形も無く消え失せる。


「セシィ、今の内に関所の方へ!」


「りょーかいです!」


 セシィの誘導に従い連なる人々を背にフランは再度、杖を構え先程の文言を――

 しかし依然として、壊触達は姿を現す。


(これだけの数……かなり大規模な魔術を使った様ですね)


 次々と湧き出てくる狂者を前にしながらも冷静に次の一手を案ずる彼女へ向かって、壁上から一人の男が呼びかける。呻き声に混ざり言葉は聞こえないがフランを呼び寄せている様だった。


「……ーい……コッチヘ」


 だが、まだ避難が完了していない。今ここで自分が壁の方へ向かえば、あの人達に危害が及ぶと考えた彼女は三度、地面から光を乱立させる。立ち込める砂埃、湧き上がる狂者の咆哮……それらが已む頃に、丁度避難が完了する。


「潮時ですね」


 フランは壁に向けて杖を掲げる。あらゆる魔術を使いこなす彼女が次に選んだ一手。


支踏、支場ヲ成セ(パヴィ・ファーレ)


 壁に向け、階段状の光が灯る。逃亡、否……撤退。

 壁上に居る人物との合流及び体制の持ち直しを図るべく、淡い光を放つ階梯(かいてい)を駆け上がる。

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