第十話 崩落事故 ①
ラゴフェード大陸上空――
「いやぁ、命を張った甲斐があったってモンだ!」
「師匠、師匠見て!ほら雲が下にあるよ!」
「セシィ、あんまり身を乗り出すと落ちちゃいますよ」
多くの商人達を苦しませた贋作の出所を突き止めた一行は、ロメオとの約束通り飛空艇に乗せて貰い越境するべく空の旅を楽しんでいた。
しかし、楽しい時間は束の間で飛空艇が高度を落とし始める。どうやら目的地は間近の様だ。
「嬢ちゃん達!もうすぐ着陸だぜ。あそこがミネラ高地だ」
ロメオの示す方向には鉱山の中腹を切り拓いた平地。鉱山作業員たちの居留地であり、隣領のロザティ領との境になっているのがこの〈ミネラ高地〉だ。
「さ、着陸だ。しっかり掴まってろよ?」
更に高度を落とした飛空艇は山の頂上を見上げる高さ、やがて地上へ降りれば、僅かな衝撃が身体に伝わる。
地上へ伸びたタラップに歩を進めた三人。その後ろ姿に離愁の眼差しをロメオ、そしてルーチェランツァ号の乗組員たち。
「嬢ちゃんたち、達者でな。何か困り事があればいつでも頼ってくれよ!」
「はい!ありがとうございました……では早速なんですが――」
フランは新たに得られた情報である“大きな魔留石”について尋ねてみた。
ところが、良い答えは返って来なかった。
されどフランが感じたのは落胆では無かった。寧ろ、大陸中を旅する商人ですら心当たりがないと言う代物、それを何故パレンバーグが求めるのか?そんな好奇心が彼女の背中を強く押した。
「また何か分かったらファベロでも飛ばそう。じゃあ気ぃ付けろ!旅路に幸あれってな!」
「では私達は商会の繁盛を願っておきますね!」
「おう、ありがとよ」
踏み締める地面に少し懐かしさを感じながら、一歩ずつ飛空艇から遠ざかる――訳にはいかない様だ。
顔から血の気の引いた男が、物凄い勢いで三人の横を通り過ぎ飛空艇へと駆け上がる。男は甲板に着くなり、絶え絶えにロメオへと何かを訴える。
ロメオの目つきにが一変し、彼の野太い大音声が響けば甲板、艇内がどよめく。
「只事じゃなさそうだな」
「だね!」
踵を返す三人。飛空艇に戻るよりも早くロメオの声が響き渡る。
坑道内での崩落事故だそうだ。多数の怪我人、内部に取り残された作業員を助けに行った者も戻らない状況との事だった。
「手貸してくれるか?」
「もちろんです!」
「流石に断れねぇな」
ロメオと共に坑道の入り口へ向かった三人の目に飛び込んだのは惨状だった。事故の恐怖からか、錯乱状態の者も多い。
しかし、不幸中の幸いなのか命が危ぶまれる程に重傷を負っている者は居ない様だ。
「ひどい状況ですが、最悪って訳では無いですね……ですが――」
「さすが師匠だね、セシィもそう思うよ……オジサン?確か崩落事故って言ってたよね?」
フランとセシィが違和感を抱き、目を向けているのは塞がれた坑道の入り口。
「あぁ、ガス突出なら火事を防ぐ為に空気を遮断するが、そもそもこの山じゃガスは採れない」
「考えても仕方ねぇ、無事そうな奴に聞いてくるぜ」
違和感の正体を突き止めるべくトゥリオが聞き込みをしている間に、三人は可能な限りの治療を作業員へ施す。
艇内の積み荷、乗組員を惜しみなく動員し、脱出できた者達は事無きを得た。後は内部の状況を確かめるだけとなった頃、トゥリオが戻って来る。
浮かべる表情はどうも芳しく無さそうだ。
「中は数段酷い状況らしいぜ。魔術での発破作業中に“流路”を破壊したらしい」
「流路って事は……」
マナの通り道である“流路”の破壊。それは即ち、大量にマナが突出した事を意味する。
「一回目の魔術で破壊したにも関わらず、二回三回とぶっ放したらしい」
「壊魔粒子で溢れかえってるでしょうが、見過ごす訳にはいきませんね」
「既に壊触になってるらしい」
フランが想像している坑道内の状況は“最悪”だが、このまま放置すれば只々状況が悪化していくだけだ。
一つ深呼吸をしたフラン、その横では鏡写しの様にセシィが同じく大きな呼吸を。
二人の腹は決まった様だ。
「トゥリオさん、作業に当たった魔術師の情報は?」
「ソイツがさっぱりでな……一人だった事しか分からない」
(一人で任務に就けると言う事は【解者】以上。これだけの損害があれば、相応の罰が与えられる……逃亡も在り得ますね)
あくまで可能性に過ぎない考察だが、念には念をとトゥリオに衛兵団と魔術協会への連絡を頼み二人は入口へと向かう。
「セシィ、何があるか分かりません……自分の身は自分で」
「はい!」
砂埃の舞う暗い坑道、二人が足を踏み入れて暫くすると、背後の光が再び姿を消す。




