第九話 贋作と大商会 ③
ロメオの案内で村の外へと向かう一行。暫く進み、街灯の明かりが見えなくなった頃、目の前にそれは大きな湖が広がる。
暗がりの中でも底が見える澄んだ水面、そこに映し出される大空の満月、極めつけに湖の中心には戦列艦を彷彿とさせる極大の船体、側面には風車の様な羽が幾つも並んでいる。
「オイまさか、あれがアンタらの飛空艇か?羽推進式の最新型じゃねぇか!」
「おうよ!さっ、行くぞ!」
ロメオが飛空艇に合図を送ると、ギシギシと音を立てながらゆっくりと折りたたまれた木板、もとい収納式の橋がフラン達の元へ伸びる。
「ようこそ、ルーチェランツァ号へ!」
整然とした艇内は上等な宿を彷彿とさせた。
暫し中を歩いてみれば、乗組員の身だしなみは清潔そのもので、チラリと覗く寝具に皺の一つも無く、乱れを微塵も感じさせなかった。加えて輸送中であろう荷物、これらが据えられる荷室には全て徹底的な管理が施されている。
そんな中の一室、無数の刀剣や鎧が立ち並ぶ部屋に宝物を見つけた少年の目をしながら一人が吸い込まれていく。
「おーい、トゥリオさーん……ダメですね、全然聞こえて無いです」
「兄ちゃん見る目は無ぇが、あぁ言ったモンが好きなのは確かな様だな」
「勝手に入ってしまって良いんですか?」
「構わねぇよ。じゃあ、嬢ちゃん達はコッチでディナーとするか?しっかり休んで明日の夜に備えないとな」
「セシィお腹ペコペコだよぉ」
そうしてロメオ引率のもと二人が連れて来られたのは、一つの階層を丸々使った広々とした食堂。
しかし食事の定刻を過ぎてしまっているのか、だだっ広い空間はがらんどうだ。微かに良い香りは漂っているが……。
「ロメオさん?」
「まぁまぁそう焦るな。ほら厨房の方へ」
暖簾をくぐった先の厨房、更にその奥の一部屋。
絢爛豪華な装飾、備え付けられた椅子や机の全てが一級品。それはまさに会長が御座すに相応しい場所。
「生憎と船室が満室でな。ここで良ければ使ってくれ」
「でもここってオジサンの部屋じゃないの?」
「俺には、操舵室っつう特等席もあるからな、心配しなくて良い。それじゃ、あとで夕食を運ばせるから楽しみにしておいてくれよ」
「はーい!」
セシィの元気な返事に豪快な笑顔を返事をし、ロメオが部屋を後にする。
興味を惹かれる物が無数に存在する中、あまりの美しさに手を触れられずに、退屈を感じていたのも束の間、シェフが豪勢な料理の配達に現れる。
次々と目の前に並べられる大量の料理。全てが据えられると同時に二人の手が一斉に伸びる。
空腹、そして二人だけの空間故か行儀の悪さなど気にも留めず、夢中になって絶品の数々を頬張る。
前菜、スープ、肉や魚のメインディッシュ。全てを平らげるに、そう時間は掛からなかった。
「師匠美味しかったね!」
「至高の味とはこの事ですね」
そうして至福の満腹感を得た二人。ふと目に入るフカフカのベッド。
食欲が満たされた後にやって来るのは眠気。二人は贅沢と幸福の絶頂を味わうべく、ベッドに飛び込んだ。
◇◇◇◇◇◇
「――さてと……師匠、準備完了だよ!」
「ありがとうございます。ではセシィ、申し訳ありませんが留守番を頼みますよ?何かあったら空に向けて魔術で合図を」
「りょーかいです!」
暗闇の中、四つの人影をガラスに囲まれた蝋燭の小さな火が映し出す。
「では、ロメオさん何かありましたら……トゥリオさんシャキッとして下さい!」
フランが呆れた目つきを向ける先には、地に膝を着くトゥリオの姿。返って来るのは言葉では無く嘔吐きばかりだ。
「車酔いか?兄ちゃん、そんなんでよく車を借りようとしたな」
「うるせぇよ……緊張してんだよ」
「リオ兄、それじゃあもっと情けないよ!」
「セシィ、やめてあげなさい」
夜の静寂、ヘタに物音を立てれば目前の敵地に気取られてしまう状況で、不快音を響かせ続ける事数分。どうにか持ち直し決行前の最終確認……ロメオから“お守りが”渡される。
「魔映石ですか?」
「そうだ。ソイツの片割れを俺が持ってる。断面に映った物がコッチでも見える様になってるから、ヤバそうだと判断すれば飛び込む」
「心強いですね。では行ってきます!」
蝋燭を手放せば自分の位置すら分からなる夜暗の中、夜の帳を掃ってしまいそうな光を放つ、無機質で巨大な建物へと足を進める。嫌に耳を突く、葉擦れ、衣擦れの音を耐えながら一歩、また一歩と慎重に。
やがて目の前に立ち塞がる大扉。怪しい物はありませんとばかりに見張りは居ない。
「流石に正面は不味いよな?」
「えぇ、裏口か何か……せめて人目に付きにくい窓があれば良いのですが」
「それなら良いのが!」
トゥリオは建物の天井を示す。
窓の外側から中を伺うに、幾つかの天窓が設けられている様だ。
「どうやって屋根まで登るんですか?」
「【禁解】の魔術さん、極限まで魔力の分散がしない様に魔術を発動した場合の感知範囲は?」
「そうですね……私の手が届く範囲位ですかね?」
「決まりだな!」




