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第七話 お人好し ①

 工芸品を思わせる紋様が無数に重なる目の前の壁。柵門の向こう側では、杖を携えローブに身を包んだ者達が行き交う。


「――魔術都市レグミスト。ここで何だ……石板?を調べるんだったか?」


「はい、恐らくコレに刻まれているのは発動刻印だと思うので、それが何の魔術か分かれば楽園へと至るヒントになるかも知れません」


「ここに居る凄腕の“加工師”にそれを調べて貰うんだっけ?」


 加工師と呼ばれるその者達は、魔鉱石の加工、術具の作成、発動刻印の彫刻などを専門に行う魔術師とは切っても切れない縁を持っている。

 魔術が広がるこの大陸では小さな村や、中規模都市、様々な場所で多くの加工師が活躍しているが、ここレグミストで加工を担うとある姉弟はその中でも別格であるとの事で有名だ。


「では早速、目的の店を探しましょうか」


 ――遂に足を踏み入れた大陸最大の名を関する魔術都市。

 早くも一行の目の前では、問題?が発生している。


「師匠、セシィあの人の所行って来るね」


 走り出そうとするセシィの手を掴み引き留めるトゥリオに、フランは訝し気な表情を向ける。


「トゥリオさん?」


 大通りに面した建物の前で座り込み、必死に何かへ呼び掛ける女性の元に向かおうとしたセシィを何故引き留めるのかをフランが問い掛ける。


「分かる、分かるぞ、困ってる人を……って事だろ?だが見てみろ」


 トゥリオが女性を指した時には既に、瞳を涙で潤していた。そんな彼女をやはり放っては置けないとセシィが、もがいている間に歩き出そうとしたフランだったが、いとも簡単にもう片手で捕まえられてしまう。


「あれは困ってる人じゃなくて“困った人”だ。多分、様子を見るに色恋沙汰か何かだろう。放って置いてやろう」


 色恋沙汰……と断定は出来ないが確かに「なんで無視するんですか?」や「約束してたじゃないですか!」と聞く限りでは人間関係のもつれを匂わせる様な台詞が幾度か飛んでいる。その台詞や浮かべる涙目で、トゥリオに抑え込まれていた二人も納得したのか“今回は”と言う事で、大通りを抜けるべく進み始めた。

 しかしそれでもフランは世話好き、お人好しの性格からか目を離せずにいた。そうして手を引かれながら横を過ぎ去ろうとした時――


 その場から離れようと力無く立ち上がった女性とフランの視線が重なる。


「あ!その恰好はもしかして!」


 三人、いやフランの元へ駆け寄って来るなり、彼女の手を握り絞める。そして、さっきの涙目はなど想像できない位に瞳を輝かせている。


「アナタ、魔術師ですよね!そうですよね?そうに決まってますよね!」


 勢いに押されながらも、コクッと頷くと女性は歓喜の叫びを上げる。その豹変ぶりにトゥリオは勿論、セシィも引いていた。


「で、アナタの言う通り私と、あとこの()も魔術師ですが……何か困りごとでしょうか?」


「よくぞ聞いてくれました!では――」


 トゥリオ曰く、困った人であるその女性はソーニアと名乗り、レグミスト(ここ)にある魔術学院で講師の手配をしている人物だった。どうやら、その講師を手配する上で何かトラブルがあったらしく、大通り人目も気にせずあの様だったらしい。


「そこで!……魔術師の方であれば今回の講義を代行できるのでは?とアナタ達に声を掛けさせて頂きました!」


「講師と言っても……科目は何ですか?」


「魔鉱石です!」


 その言葉とほぼ同時だった。“魔術師では無い”トゥリオが目を逸らすのは当然だが、その横で少し恥ずかしそうにセシィも目をそらしていた。


「えぇーと、お二人は……」


 フランが苦笑いを見せながら事情の説明を始める。

 フランの下で魔術師となったセシィだから当然、彼女から教育を受ける……受ける筈だった。一応誤解を生まない様に弁解するフランの傍らでセシィの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。


 何を隠そう彼女、魔術の中でも少々枠から外れた精霊魔術に関しては飛びぬけたセンスを持っている。その反面、所謂“座学”に関してはからっきしだ。フランが教えなかった訳では無い……寧ろ魔術学院よりも丁寧かつ熱心に取り組んでいたが、彼女はその時間を昼寝の時間と勘違いしていたらしい。

 

「ししょー、やめてよー」


 真っ赤に染めた顔面を見えない様、フランの背に押し付けながら彼女の口を塞ごうと必死だ。


「と、言う事で私だけで良ければ協力しますが……」


「えぇ全然問題ありません!ご協力頂けるだけでも!」


「じゃあ、二人は先にお店を探して貰えますか?その間に私はサクッと済ませて来るので!」


「だな。ほらセシィ行くぞ!」


 引き剥がされたセシィは姿が見えなくなるまで両手で顔を覆っていた。


「それでは行きましょうか……えーと」


「フランチェスカ、フランで構いませんよ」


「じゃあフラン先生、今日はお願いしますね!」

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