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第六話 魅惑の味 ③

「お邪魔しまーす!」


「失礼しますね」


 迎えられた三人の目の前には整頓された、一人で暮らすには少々寂しい位に広々とした室内。


「一人でここに?」


「まぁね」


「リオ兄早速、調理しちゃおっか?」


「そうだな……えーと……」


「リッキーだ」


「リッキー、台所借りるぞ!」


 セシィとトゥリオが意気揚々と台所へ向かい、二人きりになったフランとリッキー。少し緊張しているのか“あっち”と指を差しでリビングへと案内されたフラン。

 しかし、緊張していたのは彼だけでは無くフランも同様だった。出発前リディアにからかわれていた様に、パレンバーグと行動を共にしていた頃、他人の前ではフードを深く被り顔を覆い隠してしまう程の人見知りで恥ずかしがり屋だった。


 だがそんな恥ずかしさ以上に今ここへ流れる耐えがたい静寂を打ち破るべく、フランはテーブルの下で小さく拳を握る。


「あの……両親や兄弟は?」


「兄弟は元々居ない……父ちゃんと母ちゃんは“殲滅戦”の時に死んじまった」


「殲滅戦……二一五九年、フィニガーレ岳の戦い……」


 フランの頭の中に惨劇の記憶と、質問への後悔が沸き上がる。そんな感情からか、フランの表情に影が掛かった頃、リッキーの明るい声が響く。


「だから俺、剣士になりたいんだ。剣士になって衛兵を目指すんだ!」


「それって……」


「うん……最初はさ、俺の父ちゃんと母ちゃんを守ってくれなかった衛兵が憎かったけど、気づいたんだ……守れなかったんだって」


 リッキーは目を輝かせながらフランへ夢を語った。皆を守り、例え戦いがあったとしても一人も死なせない様に強くなると言う壮大な夢を。フランが覚えた後悔など忘れさせてしまう様に楽しそうに彼は話続けた。

 

「――ほら出来たぞ!」


 緊張など無かった様に二人の会話へ熱が入り始めた時、鮮やかなピンク色の切り身が整然と並べられた皿を両手に二人が台所からやって来る。


「さぁ鮮度が命だよ!フェリチェスライムのお刺身、ご賞味あれ!」


 二人も席へと着き、四人で食材へ感謝の言葉。透き通る切り身の一枚をゆっくりと口へ運ぶ。

 プルプルとした不思議な食感と滑らかな舌触り、爽やかな酸味とすっきりとした甘みはまるで果実の様。二切れ三切れと、止まらず皿へ手が伸びる。あっという間に食べ切ってしまう。


「いやぁ、苦労した甲斐があったぜ!こんなに美味い物があるとは!」


「確かに珍味……不思議な味と食感でしたね」


「うんうん!これは十万、いや百万ラルの価値はあるね」


 三人が大いに盛り上がりを見せる中、リッキーは何故か少し暗い顔を浮かべている。食べっぷりを見る限り、口に合わなかった訳では無い筈なのだが……。


「少年、いやリッキーどうした?」


「いや……なんでも……」


「そうか、じゃあ腹も膨れたし外行くか!」


「え?何しに……」


 戸惑いを見せるリッキーにトゥリオが剣を放る。それを受け取った彼は幾度か瞼を開け閉めした後、思惑を理解したのか先程の明るい笑顔が戻る。


「台所使わせて貰った礼だ。“元衛兵”が稽古をつけてやるよ」


「おう!」


 夕日の射し込む草原、凛々しく剣を構えたリッキーの前でトゥリオが短剣を弄ぶ。ざわざわと鳴いていた周囲の草木が静まり返り、トゥリオが余裕の表情を見せながら指で挑発する。

 雄々しい声を上げながら突っ込むリッキーの構える剣の切っ先をトゥリオが鋭い視線で睨み付ける。


「踏み込みが甘い、もっと体重を乗せるんだ」


「もう一回だ!」


 何度も何度も打ち込む。紅く染まった草原に激しくぶつかり合う金属音が鳴り響く。滴る汗が一層二人の笑顔を輝かせる。


「――はぁはぁ」


「なんだ、もう終わりか?……と言いたい所だが、もう周りも暗くて見えねぇな。リッキー、剣を振ったのは初めてか?」


 肩で息をするリッキーがコクリと頷くと、トゥリオは少しばかり驚いた様子を見せる。そんな彼の表情には一時間ほど前に見せていた余裕さは無く、目の前の少年同様に肩を上下に揺らしている。


「そうかい。取敢えず今日はもう終いだ。次が何時になるかは分からねぇけどな」


「また来てくれるか?」


「さぁ……なんせ未だ終わりの見えない旅だ――」


「では、先を急ぎましょうか。さっさと石板(コレ)を解明して、師匠の元へ行き、またここへ戻る。さぁ行きますよ!」


旅隊(パーティー)のリーダーもこう言ってる事だ。喜べ少年、またいつかな!」


「約束だぞ」


 俯き震えた声で返し、震えた手でトゥリオへ剣を手渡す。そんな彼の手を握り、優しく頭を撫で、別れを告げ再会を誓う。

 

「少年!……良い腕だ、きっと強い剣士になれる!だから約束だ、二度と盗みなんてするなよ」


 返事は返って来なかった。しかし三人の背には衛兵式の敬礼が向けられていた。


「――良い子だったね。とっても」


「あぁ、俺と違って真面目で“素直”だ」


「えぇ、あんな子が居たのなら未来はきっと希望に満ち溢れるかもしれませんね」

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