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第五話 降り注ぐ毒雨 ②

「え、えぇ良いわよ――」


 ジェンナ、そして彼女が先祖から伝えられた話は、トゥリオの言っていた“文献”と然程変わらなかった。

 百と数十年前からこの毒雨は突然降りだした。しかし一つ更に困惑させる事実が……。


「なるほど……ジェンナさんも、先祖の方も精霊の言い伝えなどは知らない、と……」


「あー、そうなると話は変わって来るな……」


「師匠、リオ兄、調べてみようよ!このままじゃレグミストにも行けないし!」


「そうですね……しかし、この雨では――」


「それなら、良い物があるわよ!」


 そう言いながらジェンナは席を立ち、物置の方へと足早に向かって行った。それから程なくして“何か”を抱えて戻って来た彼女は、それを広げて見せる。

 革製の生地にびっしりと敷き詰められた鱗。形を見るにレインコートの様だが、その不思議な見た目に三人は奇怪そうな表情を向ける。


「御竜様の(ころも)。古くからこの地に棲まう、耐溶の竜ヴェレステンツァドラゴの鱗を一面に縫い付けてあるから、ちょっとやそっとの雨なら気にする事無く、外でも活動出来るわ!」


「良いのですか?」


「えぇ、その代わりと言っては何だけど、もし何か分かって解決出来そうなら、お願いしても良いかしら?」


 無論三人は拒む素振りなど、微塵も見せずにジェンナへと頷く。

 そうして期待の眼差しを背に受けながら、降りしきる雨の中へと再び一行は歩き出す。


「――で、調べると言ってもどうするんだ?闇雲にうろついても、打開策は見つからないだろ?」


「そうですね。まぁ本当に精霊の仕業なら解決も見えてくるのですが……」


 フランの言葉を耳に不思議そうな顔を見せるトゥリオ。その横でセシィが些か険しい表情で唸っている。


「セシィ?どうかしましたか?」


「うーん、さっき精霊かもって言ったけど、もしかしたら違うかも……精霊の気配が全然ないの」


「と、なると……」


 セシィの言葉を聞き、思わず悩み込むフラン。口元へ手を当てながらボソボソと呟き考えを巡らす。

 少しばかり置いてけぼりにされつつあるトゥリオは、そんな二人の様子を見て、もうジッとしていられないとばかりに口を開く。


「オイオイ全然話が見えないんだが……それにさっきから精霊がどうとかって、もしかしてお前達……」


「あれ?言って無かったですか?セシィは“精霊魔術”の使い手ですよ。それに私の知る限りでは最高練度です!」


 魚の様に口をポカンと開くトゥリオの姿を目にセシィが頬を赤く染める。そんな彼女の頭をフランは誇らしげにポンポンと撫でていると、ようやくトゥリオが“コチラ側”へと帰還を果たす。


「マジかよ。でもそれ程の使い手であるセシィが見つけられないって事は……」


「ううん。精霊によっては気配を消すのが得意な子も居るから、何かすこしでも痕跡があれば、そこから辿る事は出来るよ!」


「じゃあ探すとするか、と言いたいところだが、その痕跡って言うのはどんな感じだ?」


「よーく聞いておいてね――」


 セシィの説明によると精霊の残す“痕跡”は、大きく二つ。

 一つは意思を持った魔粒子(マナ)の集合体であるが故、移動の際に起こるマナと魔力の乱れ。


 もう一つは、局所的な環境の変化。これに関してもマナの集合体である事が関係している様で、広くそして深く魔術や魔力が根付いたこの地では、天候すらも操れる程の力を持つ“マナの塊”が居着けば意図せずとも、必然的に周囲の環境が変化してしまう事から、部分的な環境変化は精霊の住処である証との事だ。


「これならトゥリオさんでも分かりますね!」


「ん?どう言う事だ?」


「ほらほら、はやく探しに行こう!」


 何とも言えない表情のままセシィに手を引かれるトゥリオと、少しばかり口角の上がったフラン達三人は、未だ姿も分からない精霊の残痕捜索へと乗り出す。

 “衣”のお陰で毒雨を気にする事無く探索を続ける三人。二時間、三時間とあっという間に時間は過ぎていく。


「なぁ、なんにも見つからないぜ?」


 退屈そうに大欠伸を見せるトゥリオ、やれやれと首を振る二人、それぞれの表情に少々疲れが表れる。

 

「少し休憩にしますか」


「うん」


 腰を下ろし、ふと目を遣ったセシィの腰にぶら下がる時計。出発した時から短い針が四つ、時間を進めている。


「もうこんな時間ですか、来た道とは違う道を通ってみましょうか」


「あぁ、そうだな。歩き慣れてない俺達じゃ夜は危ないだろうしな」


 分厚い雲が陽光を遮る薄暗い雨林、夜になれば灯りの一つも無いであろうこの場所を歩くには危険だと判断した三人が暫しの休息後、帰路へ付こうと腰を上げたその時。

 トゥリオの足元から、カランと何かが転がった音が鳴る。


「なんだこれ?」


 蹴とばした何かを拾い上げた彼の手には短剣が握られている。幾つかの傷は付いているが、澄んだ貴石の刃を持つ美しい短剣が。

 そして、その短剣をセシィが目に止めた時――


「リオ兄それ……“魔留石の短剣”だよ」


「魔留石の短剣?」


「精霊信仰の祭具です。やはり何処かに精霊が……それに信仰まで……」


「師匠、まずは戻って集落の人たちに聞いてみよう」


 二人の面持ちが一気に険しい物へと変貌する。

 その理由(わけ)――信仰の“祭具”とされる本来、大切丁寧に扱われる品がこの様な所へ粗雑に放られていたからだ。


 それと同時に察してしまったこの雨の原因。

 不穏な空気が立ち込める中、一行は集落への帰路へと付く。危惧、心配に背中を押されながら足早に。

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