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第五話 降り注ぐ毒雨 ①

 パゴット領北東部 ミポーレ湿原より二時間程に位置する――


〈ベレッジャ雨林〉


「リオ兄、師匠、結構雨が強くなってきたけどどうする?」


「そうですね、そろそろ“傘”だけでは心許ないですね。」


 しとしとと降り続いていた体温を奪う冷たい雫。湿原で見舞われた豪雨に比べてしまえば、大した事は無い物だ。

 だが、この地で恐ろしいのは雨そのものが持つ性質。この地に降り注ぐ一滴一滴が肉を溶かす毒性を持っていると言う事。


 幸いにも、現在フラン達が足を止めている地点に降る雨は長時間触れていなければ殆ど害は無いが、雨林の中心に行くほど毒性が強まる。その毒性は鉄をも溶かしてしまう程強力であると言う。


「どこか雨宿り出来る所があれば良いんですが」


「と言ってもなぁ……地図によれば集落はまだ少し先の様だし……」


 一行が思考を巡らす中も非情な自然は待ってくれずに、大粒の雨を落とし続ける。

 降り止む兆しが見えない事もあり、このままここで立ち止まっていても、埒が明かないと考えたフランは二人へ再出発を告げる。


 そうして近くの集落へと向け再度進み始めた三人だったが、やはり自然と言う大きな脅威は非情であった。勢いを増した雨足に、万事休すと足を止めたその時だった。

 フラン達の頭上が大きな黒い“何か”に覆われる。それと同時に耳へ届くのはゆっくりと脈打つ心臓の鼓動。


 好奇心と恐怖を抱えながらゆっくりと頭上を見上げたフランの目に映るのは、無数に連なる鱗だった。


「……耐溶の竜ヴェレステンツァドラゴ


「セシィ達を守ってくれてるのかな?」


「敵意?の様な物は感じられませんね……少々雨を凌がせてもらいましょうか」


 竜の腹下へしゃがみ込むフランを真似て、二人も恐る恐る腰を下ろす。竜はその間も穏やかな呼吸を続けながら、どこか遠くを見つめていた。

 そして一時間、二時間と時が過ぎ、僅かに感じていた緊張がフランの中から消えた頃、竜が(おもむろ)に鋭い牙を顕にする。


「モウスグアメガヤム……ニンゲンノトコロマデアンナイシテヤル」


 突然の出来事で目がまん丸になる三人。この大陸に棲む種族の中でも人間と同程度の知能を持つとされる竜、しかし個体数の少なさから遭遇するだけでも難しいとされている。そんな中で言葉を発したともなれば、三人にあった少しの恐怖は一瞬で驚きへと塗り替えられる。


「まさか本当に人間(ヒト)の言葉を話すなんてな……」


「えぇ、でもこれで敵意が無い事も分かりましたね」


「うんうん!ところで竜さん、何でセシィ達を助けてくれたの?」


 先程までの恐怖等まるで忘れた様子で尋ねるセシィだが、竜は答える事無くゆっくりと歩き出してしまう。


「むぅぅ……」


「セシィ、ほら行きますよ」


 些か素っ気ない態度に唇を尖らせたセシィの手を引きながらフランは雨の弱まった林の中、竜の足取りを追い始める。それから導かれて三十分程、竜はピタリと足を止める。見つめる先には大きな集落。

 フラン達が竜へ礼を告げると、また何を発するでもなく静かに去って行ってしまった。


「セシィ、そう残念そうにするなよ。言葉が聞けただけでもラッキーだろ?」


「うん……でも、なんか寂しそうだったから……」


「寂しそう?竜がですか?」


 コクリと頷くセシィの表情もまたどこか寂し気だった。

 ならばせめてと竜の背を見送る一行、そしてその背が見えなくなる頃、一つの雫が額を濡らす。


「また強まって来たみたいだな。ココの住人に泊めてもらうとするか」


「そうですね。ココを抜けるまでの準備も必要ですからね」


「じゃあ、周りの人に聞いてくるね!」


 ◇◇◇◇◇◇


 集落を回り始めて程なく、三人は住人の家へと快く迎え入れられていた。

 家の女主人であるジェンナは、古来よりこの地で暮らして来た一族の末裔との事で、雨林に関する話を幾つかしてくれた。


 その中でもフランの興味を強く引く物が一つ。

 ――それは、ここ数年で雨量の増加と共に毒性が大幅に強くなっていると言った話。


 この雨林では一時的に、降水量が増えたり毒性の変化、変異などは以前より観測されていたが、どれも“一時的”な物で長期に渡る様な事は、過去の記録を辿っても無いそうだ。

 雨に慣れているこの地に棲まう人々だが、年々と強くなる毒性には酷く頭を悩ませているのが現状――


「あら、ごめんなさいね、お客さんにこんな話。さぁさぁ、取敢えずお茶でも入れるわね!」


 少々赤らめた頬を隠しながら怱々と台所へ向かうジェンナ。

 “珍しく”難しそうな表情でセシィがポツリと呟く。


「あの話、精霊の仕業かも知れない……」


「精霊ですか?……でもなぜですか?本来精霊は人々に寄り添うモノでは?」


「うん……そうなんだけど……」


「昔読んだ文献でも、ここの雨は“突然降り出した”としか書いてなかったな。天候すらも操れる精霊なら或いは……」


 “突然降り出した”

 

 そんな言葉が、どこかフランの中で引っかかる。何時しかセシィの難しい表情が二人へと伝染する。


「――あらあら、どうされたんですか?そんなに難しい顔して」


「ジェンナさん、先程の……雨林(ここ)の雨について詳しく教えて貰えませんか?」

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