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第三十四話 心配事 ③

 先の無念を晴らすべく再度果敢に攻め込む。

 手足が存在しない分、攻撃の手数種類が限られているが、補う様にうねる身体は想像を絶する位に機敏な行動を繰り返してくれる。


 初撃の不発を生かし、鱗の隙間や眼球と不可避の脆さが出る部位を狙うもネヴィグィラは予測、予知しているかの様に躱し続ける。


「クッソ、うねうねとムカつくぜ。フラン、拘束できるか?」


「物は試し、ですね。注意を引いて下さい」


 とは言うが魔物の目に入ってるのは現在トゥリオのみ。いとも容易く好機は訪れた。


雪華着氷ニテ凍テツケ(ネフィオ・ジェレメ)


 胴の中心から尾、頭へ徐々に氷の結晶が広がっていく。完全に動きを封じる迄にそう時間は掛からなかった――が、二人は違和感を覚え、無抵抗の標的を目前にして動けずにいた。


(予測をするような素振りをしておいて無抵抗とは……)


 瞳と瞳で合図を送り、別れ二方から背後を狙う。タイミングを僅かにずらし一方の攻撃でダメなら片一方、仕留められなくとも大きな打撃となるのは必然だろう。

 頷き合い、それぞれが最良と信じる一手を放つ。


 先手はトゥリオが繰り出す高熱帯びた斬撃。密に生える鱗の隙間を掻い潜り、皮膚の深層へと刃を押し込む。確かな手ごたえと轟く唸り声は彼に勝利を確信させた。


「しゃあっ!フランとどめだ!」


 彼女の答えは否だった。

 飛び上がり、後頭部へと狙いを付けていたフランは宙で身を捻り、咄嗟の回避行動。そして声を振り絞る。


「トゥリオさん距離を取って下さい!」


 フランの声が耳から脳へ伝わるよりも早く魔物は動いた。拘束を解き、湖の底から身体の全貌を現し間合いに取り残されたトゥリオを睨めつける。


「おぉ怖ぇ怖ぇ。けどなお生憎様だが、俺は蛙じゃねぇんだ。睨まれたくらいじゃ止められないぜ?」


 必殺の嚙みつきをヒラリと躱し、大きな身体を振り回す薙ぎ払いも容易に回避。フランに言葉を投げる余裕さも見せている。


「俺が引き付けてやる。お前は好きに暴れな!」


「そうですか。ならばお言葉に甘えて――」


 杖を湖面に突き立て、懐から出したのは掌いっぱいの鋼球。空中へとばら撒き、全神経を、思考を研ぎ澄ます。


(隙間と言う隙間を串刺しに……針に糸を通すとはまさにこの事ですね)


 カッと瞳を見開き腕を振るう。呼応するのは空舞う鋼球、一挙にネヴィグィラヘ突き進み、激突の間近で(やじり)状ヘ。

 さも身体の一部であるかの様に、フランの思惑通り鱗の間隙をスルリと抜けて激痛をもたらす。


「やるじゃねぇか!そのまま決めてやれ!」


「言われなくとも!」


 急接近を経て跳躍、再び狙うは後頭部。懐からはありったけを取り出し、目標目掛けて投擲。

 裂けんばかりに口角を歪ませ、想像するは四散の未来。反しを持った極小の刃がヌシを襲う。


 事切れるのは時間の問題、しかし彼女の意中にあるのは完勝の二文字。二度に(わた)り体内へ留めた“殺意”ヘ集中――フッと息を漏らし、指を鳴らせば内側の鋼が一度に離散。ネヴィグィラの身体は三つに分断された。


「なんだ恨みでもあるのかお前は?」


 傍らに寄るトゥリオが尋ねるも返答は無い。二度、三度問い掛けても同じく。


「どうした?さっきから黙りこくって――」


 操り手を失った人形が如くパタリと地へと沈んだ。

 トゥリオが蒼白の顔面に汗を垂らしながら何度も呼び掛ける。押し寄せる焦燥感に正気を刈り取られる寸前、冷えた指先が頬に触れる。


「すみません……少し疲れてしまって……やはり慣れない技は乱用するモノではありませんね……」


 熱が戻った指先で雫を撫でると、穏やかな寝息を立て始めた。


「ったく……驚かせるなよな」


 全てを委ねた少女を抱き上げ沈黙した難敵を一瞥、湖畔に留まる飛空艇へと歩く。

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