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第三十二話 力仕事 ①

 澄んだ空気に一面の深緑が生み出す幻想に浸る二人と、今まで一度も地上へ目を向けられなかった一人が在るのはラベーロ熱帯林上空。目的の耐魔布まではあと少しだ。


「セシィ、トゥリオさんあの辺りでは?」


 木々が並ぶ中の拓けた土地に集落が点々としている。遠目でも何やら賑わっている市場の様な場所も確認できる。


「下りてみよっか。ココの伝統工芸?だからきっと売ってるよね」


 下り立つとソコは今まで感じた事の無い独特の空気で包まれていた。景色?匂い?人々?一見する分には普遍的な田舎の集落であるものの大陸外の未知なる異国へ訪れたかの様だった。


「新鮮だな。つい色々と目移りしそうだが……」


 トゥリオが珍しく今回は真面目に取り組んでいる。目を凝らし“売ってそうな”場所を探してくれているみたいだ。


「おっ、あの辺市場じゃねぇか?」


 目線の先には多くの人々で賑わう露店群。見た事の無い果物、奇怪な音を鳴らす笛や極々一般的な生活雑貨まで見える。あの辺りを回るのが目的達成への近道かも知れない。


「手分けすると、はぐれそうですね。それっぽい所からあたってみますか」


 衣服を扱う店や鞄やらを売ってる店、何件か回って見たが耐魔布を扱っている露店は見つからなかった。少し脱線して関係が無さそうな店を見るもダメ、残ったのはこじんまりとした術具屋だけだ。

 先客が一人。痛々しく吊った腕をさすりながら彼も、何かを探している様だ。


「うーんやっぱり無いかぁ……耐魔布……」


「アンタも耐魔布探してんのか?」


「うん?あぁ、北の村に住む友人から頼まれてね。ただ、前の大雨で林業に関わってた人達が大怪我しちゃってね。まぁ僕もその一人だけど……」


 半月から一月、多くの従事者が怪我を負ってしまい生産の要である伐採作業が停止してしまっているそうだ。

 耐魔布の生産と取引がこの地の収入源の大半を占めているらしく、一帯の住民達が使用する分ですらそちらに充てているのだそうだ。

 

「それでしたら!――」


 作業を手伝う代わりに、耐魔布を一反ほど譲ってはくれないか?とのフランが出した意見に腕吊りの青年は、即座に成立の握手を求めた。


「じゃあ早速作業場に向かおうか」


 露店群を後に、道ならざる道を歩み荒れ地を越え川を越え、息が詰まる様な蒸し暑さに耐え到着。

 正直に言ってしまえば景色はさっきと大して変わらない。見渡す限り木、木、木だ。違う点と言えば、所々に切り株が見える程度。


「よし、これを被って」


 鉄製の頑丈なヘルメットだ。大岩で殴りつけてもへこまないだろうが、些かサイズがあっていない。セシィに至っては完全に視界を覆われてしまっている。


「ハハハ、木こり(この)仕事は大男ばかりだからね。小さい方のお嬢ちゃんは次の作業から手伝ってもらおうか」


 作業に加われず残念がっているが、もしもの事を考えれば致し方無い。

 万全を期さなくては元も子も無くなってしまう事はセシィも分かっているのだろう、大人しく区域外で青年と共に現場監督に徹してくれる様だ。


「じゃあ先ずは作業しやすいように足下を片付けて。道具を持ってコケたりしたら大変だ、邪魔物は全部遠くに放っていいよ」


 二人は指示通りに作業を開始。折れた枝や石ころ、先に述べていた大雨がもたらしたものなのか、地面だけを見てもかなり荒れ具合だ。

 退かせる物はどかし、撤去が難儀な物は仕方が無いので魔術で焼却、より安定した状態で作業を進めるべく、ローラーで地面も踏み均した。コレで事前準備は完了、本作業だ。


「最初は枝打ちだ。装備はしっかり着けたかい?」


 フランはいつも通りの姿だ。トゥリオは……嫌々そうに青年に言われた通りの装備を身に付けている。


「登り方はさっき説明した通りだよ。大丈夫、落ちそうになったら相棒のお姉さんが助けてくれるから」


「リオ兄、セシィも居るから安心して落ちてイイからね!」


「落ちるか!」


「ではお気をつけて」


 恐怖を振り払う為、頬をピシャッと叩き幹にロープを掛け、足爪を食い込ませる。

 以外にもスイスイと登って行ってしまった。時間を掛ける事無く半分を過ぎ、気づけばてっぺんまで到着している。


「鉈とノコギリで枝を落とすんだ。上から順番にね」


 刃物を扱うのなら彼の得意分野だ。しなやかでいて丈夫な枝を簡単にスパンスパンと心地の良いリズムで打ち落としていく。

 逸早く高い所から逃げ出したいのか、それとも思わぬ所で才能が花開いたのか、木こり歴七を自慢していた青年は愕然としていた。


「うん……うん。ヨシ!次は遂に切り倒しだ」


 一番の危険が付きまとう工程だ。指示も打って変わって的確丁寧。


 「北側っつー事はコッチだな」


 受け口と呼ばれる倒す方向を定める際に重要な切り欠きを入れる作業だ。太い幹に向かってトゥリオが何度も斧を打ち付ける。

 フランも負けじと、細い身体で斧に振り回されながら奮戦。青年曰く、そろそろ良い具合だそうだ。


「次は追い口ですね。先程の逆側からでしたね?」


「で、切れ目が入ったらクサビをぶち込むと」


 大詰め、だからこそ油断は禁物だ。とにかく力の要る仕事だが入念に。

 満足に切れ込みが入ったら、仕上げにクサビを叩き込む。大人三人が手を繋いでも囲い切れない巨木、ちょっとやそっとでは倒れてくれない。力任せに回されているハンマーの方が先に限界を迎えてしまいそうだ。

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