表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/107

第四話 決壊 ②

 突如として鳴り響いた雷鳴と共に窓ガラスが揺れる。


「なんじゃ!」


 ガタリと立ち上がり、すぐさま外の様子を伺いに向かったガエタンへ続くフラン達。

 そこで目にしたのは溢れ出した川と足元にまで迫る冠水。落雷に打たれたであろう大木が倒れ、先程渡った橋を破壊している。


「不味いのう……橋は何とかなるかもしれんが、この冠水……」


 眉間に皺を寄せながら唸るガエタンへフランが尋ねると、これほど規模が大きな氾濫は今まで経験した事が無かった様で少々焦りを見せていた。


「ガエタンさん、私達に何かできる事はありませんか?」


「そうじゃな……下流を堰き止めている瓦礫を退かせば……しかし……」


 まるで(たらい)をひっくり返したかの大雨、鳴り止まない雷のせいか、口籠るガエタンへフランは「何か出来る事があるなら」と、打開策を求める。そんなフランに根負けしたのか、再三の忠告と共に氾濫の原因として彼が考えている、側壁の破損が起こりやすい場所を示す。


「――分かりました。一先ずその三箇所を確認してきます」


「くれぐれも気を付けるんじゃぞ」


 大丈夫だと答える三人へ、尚も心配の色を隠しきれないガエタンに背中を見送られながら降りしきる雨の中へと踏み出す。

 一向に弱まる事無く体を打ち続ける雫に耐えながら、泥水が阻む足を進め続ける一行。小屋を発ってから一時間弱、ガエタンの言っていた“可能性”の場所へと辿り着いた。


「ここで間違いなさそうだな」


「そうだね。これを退かせば、また川が流れるんだね」


「では、手早く済ませましょうか」


 ゆっくりと杖を掲げたフランの周囲を漂うマナが光を帯び、集束し始める。やがてそれは流れを堰き止める瓦礫を囲い――


纏イ傀儡ト化変マニ・ボーラ・ディフィカ


 一つ二つ、木の幹や大岩が宙に浮き始める。流れが無くなり露わになっていた下流の水底が次第に濁水で覆われる。


「ふぅ、こんな所でしょうか」


「ああ、文句無しだろ。しかし便利だな、手を触れずあんなに大きな物まで」


「元々、魔術は生活を豊かにする為に研究されていたモノですからね。物体を凍らせる魔術なんかが……」


 話の最中、フランの目が瓦礫へと釘付けになる。二人には何がなんやら理解出来ない状況の中“何か”を瞳に捉えていた彼女は岸の端へと寄せた芥の方へ歩き出す。


「なになに、師匠何か見つけたの?」


 目を輝かながら駆け寄るセシィへフランが示すのは、不思議な紋様が刻まれた木っ端。


「不思議な模様、彫刻?何だろうねこれ」


 興味深々な二人は辺りに転がる破片を拾い上げ、不規則で奇妙な模様に首を傾げる。二人が食い入る代物が気になったのか、トゥリオが歩み寄ると――


「セシィ!これ発動刻印ですよ。確か……」


纏イテ(レーテ・)牢固タル殻ト成レ(スト・トゥーラ)だな。砦の防壁や盾の強化に使う魔術だ」


「それです!きっと川の側壁強化に使っていたんですね」


「魔力の供給が無くなって壊れちゃったのかな?でも、そしたら今まで誰が魔力を……」


 一層、関心を示し始めた二人は雨に濡れる事もお構いなしで周囲の探索を始める。

 しかし、そんな折り。


 堰き止められていた川が再び流れを取り戻したせいか、上流から瞬く間に激流が押し寄せる。いち早く気づいたトゥリオが岸の傍でしゃがみ込む二人へ駆け、声を上げる。


「二人とも離れろ!」


 咄嗟に伸ばされたトゥリオの腕がフランに届き、更に隣のセシィへ――


「セシィ!」


 濁水がセシィを飲み込む。目前の光景で青い顔を浮かべたトゥリオが瞬発力に任せ身を乗り出す。


「トゥリオさん!……大丈夫です。生き残る術は持っているので……それと、すみません。警戒を疎かにしていました」


「あぁ、気にするな……下流を目指そう」


 立ち込めた重たい空気を何とか振り払い、岸を辿り下流を目指し歩き始める。

 下流を目指し始めて間も無く、先程の強い流れはどうやらほんの一時的なものだった様で、今では徐々に緩流(かんりゅう)を取り戻しつつあった。


 そこから更に暫く、幅が大きく広がる地点。


「恐らくこれ位の流れなら……」


「脱出できるかも知れないな。手分けして辺りを探そう。俺は浅い所から対岸に向かう」


 所々に見える中州や浅瀬、比較的流れが遅くなるカーブの内側などを注視しながら岸に沿うフラン。向こう側ではトゥリオが生い茂る草を掻き分け、血眼になっている。

 そうして、一層水流が穏やかになり、魔物や動物の姿み始める辺りまで辿り着いた頃。


 少し先を進んでいたトゥリオが対岸から戻り、安堵の表情と共にセシィが見つかった事を告げる。しかし状況は芳しくない様だった。


「囲まれてる?」


「あぁ、魔物だ、蛙の魔物(グレーナ)に囲まれている」


「分かりました。直ぐに向かいましょう!」



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ