三十一話 エピローグ的な話
本日2話目になります
「あれ? 心なしかあやさんの魔法、俺らより強くないですか?」
「あ、それは僕も思った。なんか僕らの魔法よりも強いよね?」
「よく見れば確かにそうかもね。でもレベルは一緒だし……あやちゃん、なに心当たりはある?」
「へへっ。なんかコツ掴んだかも」
「「「へぇ~」」」
ダンジョンの二〇階層にて、ワイワイしながらレベリングに励む少女たち。
これを”華やか”と見るか、それとも”未熟”と見るかは人それぞれだが、彼女たちの目的がレベリングを兼ねた撮影であることを考えれば、未熟で華やかなのは当たり前のことなのかもしれない。
それは別にいい。というか、意見を差しはさめる立場ではない。
我々はあくまで護衛として参加しているだけで、お金を払って見ている観客ではないのだから。
ただ、それはそれとして思うことはあるわけで。
「……さすがにこのパターンは予想外でした」
「うん。正直言えば僕もやね。普通ならさっさと帰ると思うんやけど……霧谷さんのとこはお嬢さんに一体どないな教育してはるんです?」
「あぁ? 向上心があってえぇやろがい! それともなにか? お嬢の決断に文句でもあるんか?」
「文句はねぇが、常識の有無は疑ってる」
「但馬ちゃん!?」
筧さんとの交渉を終えた後、俺たちの間には「レベリングや護衛をしている場合じゃねぇ」という空気が流れた。
当然だ。これから日本中、いや、世界中の探索者にとって激動の時代が来ることが確定したのだから。
どのような変化が訪れるのか、その変化に対してどう対応するか。
考えることはいくらでもある。
また、護衛対象のアイドル達とて”撮影の最中に暴漢に襲われた”という極めて危険なイレギュラーに遭遇したのだ。
このような事案に遭遇した場合、普通の少女であれば一刻も早く地上に戻りたいと思うのではなかろうか。
そのように言われたら、もしスタッフ側が撮影の継続を主張したとしても、俺たちはアイドル達の意見を優先するつもりだった。
しかし、彼女たちは俺たちが思っていた以上に強かな存在だった。
「まさか彼女たちから『勿体ないからちゃんとレベリングしてから帰る』なんて言われるとは思いませんでした」
「せやねぇ。スタッフさんは止めたんやけどねぇ」
「さすがはお嬢やで!」
「……俺はなにも言わん」
そうなのだ。
スタッフさんたちは「予定を切り上げて帰ろう」と主張したのだが、当の少女たちが残留を望んだのである。
ちなみにスタッフさんたちが帰還を主張したのは、彼女らがマスコミ関係者であることも無関係ではない。
というのも、襲撃を受けた際、少し離れた場所に居たとはいえ瀬戸垣さんの声が大きすぎた(正確には彼女らを囲んでいる部下たちにも聞かせるため、意図的に声を張り上げていた)せいで、彼女たちにも瀬戸垣さんとやらが話していた内容がきちんと伝わってしまったのだ。
他より早く特大スクープを掴んだマスコミ関係者がやることなど、報告と拡散以外にない。
たとえ話の内容がアイドル関係のアレコレではなく、政治家や官僚のスキャンダルや、日本が世界に誇る最強の探索者パーティーが関わるアレコレだっただとしても、否、むしろ【ギルドナイト】が関わっている案件だからこそ、彼女らが動きを鈍らせる理由は微塵もない。
情報をどう使うかは上司や会社次第ではある。しかし”極大スクープ情報を掴んできた”という事実そのものが彼女たちの評価を高めるファクターなのだ。
故に、他の人間がこの情報を掴む前に、もしくはこの情報が流布される前に報告を上げたいと思い、予定を切り上げようとするのは当然のことだった。
そして切り上げを打診された少女たちにも、一刻も早く帰る理由こそあれ、残る理由などない。
俺たちはそう思っていた。
だが、甘かった。
俺たちは生き馬の目を抜く業界を生きるアイドルにとって必須と言われる精神を、西川さん風に言うなら彼女らが持つ”向上心”を舐めていたのである。
「まぁ、彼女たちの気持ちも理解できなくはねぇがな」
「但馬さんにはわかるんですか?」
「あぁ。と言っても、年頃の娘さんの考えを完全に読み取るなんて荒行は不可能だが」
「「「それはそう」」」
(恐らく自分たちでもわからないんじゃないか?)
と、ある意味物凄く失礼なことを思い浮かべるも、当然口に出すことはなく。
目線だけで先を促せば、但馬さんは自信なさげに応じてくれた。
「おそらくだが、彼女たちの視点で見ればさっきの襲撃はこうなるんじゃねぇか?」
但馬さんの推測を箇条書きで纏めると、だいたいこのような形となるそうな。
・なんかどこからともなく厳ついオッサンたちが現れた。
・なんか大きな声で叫んでるオッサンがいる。
・なんか光った。雷でも落ちたかな?
・なんか全員いなくなった。
・なんか胡散臭い人がでてきた。
・なんか話し合ってるみたい。
・なんかわからんうちに話がついてた。
・なんか終わったみたいだから、レベリングを再開しよう。
「どうだ? あり得ねぇ話ではないと思うんだが」
「どうだ? と言われましても」
確かに、オッサンの話、どころかオッサンたちの存在に興味を抱かなければそうなる、のか?
「話の流れとしてはあり得るかもしらんねぇ」
「お嬢は細けぇことなんざ気にしねぇんや。それでえぇやないか」
さすがに西川さんの言い分はどうかと思うが、ここでとやかく考えたところで答えがでる問題でもなし。
「とりあえずあと三日頑張ったら帰りましょう。その後は、そうですね。みんなで四〇階層に行ってみますか? みなさんはまだ見たことないでしょう? 本物の蛟を」
「……へぇ。それ、僕も一緒に行ってえぇの?」
「もちろんです。しっかり見て、会長さんに報告をしてください」
「なるほどねぇ。そこまで言うならお供させてもらいましょ」
筧さんはOK。
「面白そうな話やないか! 乗ったで! 正味な話、そこのヒットマンを同伴させるのはどうかと思うけど、まぁ兄さんに考えがあるならそれでえぇわ」
「考えってほどでもありませんけどね。実物を見てもらった方が話は早いでしょう? 色々と」
「違いない」
西川さんもOK。
「おいおい俺もか?」
「但馬さんが行かないで誰が行くんですか。あぁ、奥野も一緒に連れて行きますけど、良いですよね?」
「良いも悪いも、断ったら蛟よりも先に俺が殺されるだろうが」
「ハハッ」
但馬さんもOK。
この三人に俺と奥野で五人。
最後の一人はもちろんこの人。
「もちろん、シータさんも見たいですよね? 四〇階層の景色」
「エェェェェェ!?」
一連の流れの中で、あたかも「自分は関係ないですよー」と無害を装いながらも、俺たちの会話をしっかりと聞いていたシータさんだ。
インドネシアの関係者である彼女に重要な情報が漏洩した以上、巻き込まないという選択肢はないのである。
「情報の裏取りができる。レベルも上がる。ドロップアイテムだってちゃんと分配します。ここまでお膳立てされて断ったら、上司さんに叱られませんか? 絶好の好機を逃したって」
「そ、それは……うぅぅぅぅ」
はい、シータさんもOK、と。
奥野は聞くまでもなくOKなので、これで六人が揃ったことになる。
あ、そうだ。
彼らを安心させておいた方がいいよな。
「先にいくつか渡しておきましょうか」
「お、まだなんかくれるん?」
「えぇ、俺が蛟を討伐できる証拠ってやつがあった方が安心できるでしょう?」
「証拠? そらもしかして」
「ハイポーション、じゃねぇよな?」
「ハハッ。まさか」
確かに蛟が初回攻略特典として確定でハイポーションを落とすが、別にハイポーションは蛟からしか得られないわけではない。
よって、ハイポーション=蛟を討伐した証とはならない。
なので俺が出すのは、もっとわかりやすいモノだ。
「牙やろか。えらい魔力が篭ってんね」
「なんやこの水色の、鱗?」
「これは角、か?」
「エ、ナニコレ? コンナノミタコトナイ」
そりゃ見たことはないだろうよ。
一五年後ならまだしも、今は市場に出回ってない貴重品だからな。
「蛟の鱗と牙、あと角です。飾ってもいいですけど、武器や防具を造る際、結構良い素材になりますので、是非使って下さい」
「「「「…………」」」」
これは未来への投資だ。
彼らを逃がさないための餌とも言う。
なにせ四〇階層はまだしも、五〇階層を攻略するなら六人いた方がいいからな。
そのとき筧さんがいるかどうかは定かではないが、不在なら不在で切岸さんでも連れていくさ。
あぁ。
やっとだ。
やっと最低限の準備が整う。
記憶の中では、五〇階層が攻略されたのは俺がギルドに見つかってから五年後、【ギルドナイト】に加入してから三年経ってからだった。
俺の教育やらギルドから押し付けられた仕事やらがあったせいで時間がかかったが、今の俺にそんな柵はない。
すんなりと時計の針を進めることができるのか、それとも何らかの邪魔が入るのか。
鬼が出るか蛇が出るか。
どちらが出るにせよ、これから先は俺が知らない世界となるだろう。
ギルドの束縛を受けていない時点でそれなりに楽しいが、レベリング主体の生活に探索者としての充実感が不足していたことは否めない。
だが、これからは違う。
「いやぁ、楽しみだなぁ」
知っているようで知らない世界。
想像するだけで楽しいソレをより楽しむために。
そして、俺の身に起こった謎を解き明かし、再度の巻き戻りを阻止するために。
俺は再度、自重を捨てることを決意するのであった。
こちらで一応三章が終了となります。
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