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三〇話 弱い奴は理想を語れない。ここはそういう世界

「とまぁ、今のところ僕が知っとるのはこんな感じやね」


詳しい話は後で聞くことにした上で軽く話を聞いてみたところ、彼が持っていたデータは初回攻略特典に関するモノと、それに付随するアレコレだけであった。


本当にそれ以外の情報を持っていないかどうかは探れていないが、そもそも『三五階層の壁』の正体やハイポーションの入手方法、さらにはギルドナイトが行っていた送迎の内容と、送迎された相手の末路など、これだけでも拡散されたら相当ヤバい情報なので、今頃『送迎』の依頼を出したり、送迎された探索者の映像を貰って喜んでいた政治家や高級官僚たちは震えているのではなかろうか。


当然連中の自業自得なのでどれだけ悲壮な顔を晒しても同情の余地はまったくないし、同情しようとも思わないが。


なんならその悲壮感に塗れた顔を撮って晒してやりたいくらいだが。


面倒が勝るのでやらないが、それくらい連中に情状酌量の余地や同情の余地はない。


情報をすんなりと吐いてくれた筧さんに対しては少し配慮する必要はあると思うけどな。


現時点で筧さんが最も恐れているのは、俺による拷問や尋問によって自分が持つ情報が完全に抜かれることだろうし。


そりゃそうだよな。

【上忍】が死んだことを知らない彼からすれば、必要以上に情報が漏洩・拡散してしまった場合、彼女から折檻を受けることを考慮しないわけにはいかないからな。


すでに漏洩してしまった情報に関してはしょうがないが、これ以上の情報漏洩はなんとしても防ぎたいと思っているはず。


だからこそ、彼は聞かれたことには真摯に答えるのだ。

そうすることで「自分はここまでしか知らないよ」と印象付けるために。


事実、彼はまだ情報を隠しているのだろう。

河内連合の内部情報や関西圏の詳細な情報など、知れば俺たちが有利に動けるような情報を多数持っているのは間違いない。

しかし彼がそれを明かすことはないだろうし、俺とてそちら方面の情報を深掘りするつもりはない。

俺が知りたいのは、あくまで【上忍】が絡む情報であって、河内連合の内情などに興味はないのだ。


もちろん、彼が河内連合にいること自体が【上忍】によって仕組まれたことだし、これまで彼が行ってきた仕事に【上忍】の意思が絡んでいることも重々承知している。

承知しているが、それらは政治的な意味合いが強く、ダンジョン攻略の役に立つ情報ではないし、ダンジョンの攻略に関係ない情報であれば、世俗に関わる問題は但馬さんに任せると決めている俺が知る必要はないのである。知っているだけで問題になるような情報もたくさんあるからな。

取捨選択は大事、そういうことだ。


なので、これ以上深くは聞かない。

但馬さんや西川さんが聞こうとする分には止めないが、もし筧さんから頼まれたら「それくらいで」と口添えしてもいい。


それもこれも情報の対価、などではない。

今後を見据えての決断だ。


司法取引みたいなものだ。

これも借りだと思ってくれれば色々と頼みを聞いてもらうこともできるだろう。


「なるほど。貴重な情報ありがとうございます」


「なんのなんの。詳細を語ったわけでもなければ証拠を提示できたわけでもなし。裏取りするころには巷に溢れる情報に大した価値なんてあらへんよ。こんなんで『借りは返した』なんて主張する気はないから安心しとき」


「そうですか。では早速いくつかのお願いを聞いてもらっても?」


「かまへんよ。で、こんな感じで彼とは話ぃつきましたんで、ご両人もそれでえぇですかね?」


「……その素直さに免じて今回は引いたる。けど、かわりにちゃんと河内連合の連中を止めぇよ?」


「だな。俺らだって河内連合と全面戦争をしたいわけじゃねぇからな。そっちがちゃんと後始末をしてくれるなら、今回に限って見逃すのも吝かじゃねぇ」


「そっちに関しては任せといてください。僕らかて徒に死にたいわけやないですしね。で、お願いってなんやの?」


西川さんと但馬さんが納得したことで、この件に関する手打ちはほぼ終わったと見ていいだろう。

ほぼなのは、もちろん彼が俺の『お願い』を実行に移すかどうかが未定だからだ。


と言っても、確実にやってくれるだろうけどな。


「河内連合が報復に走らないよう説得してください」


「あぁそれな」


「できますか?」


今回の件に関しては完全にこちらが被害者なので、瀬田垣組の皆さんを返り討ちにしたこと自体は誰かに責められるようなことではない。

しかし相手も舐められたら負けの面子商売。

現在も動きを拘束されている【ギルドナイト】のように、仲間を返り討ちにした相手の情報を持っていないならいざ知らず、彼らは最初から襲撃目標を明確にしている。

襲撃目標が無傷で帰還したにも拘わらず、襲撃者が一人も帰ってこないとなれば、返り討ちにした犯人など一目瞭然。それこそ調べるまでもない。


ここで問題になるのが、河内連合がどのような手段を用いて報復しようとするか、という点になる。


もし今回のように襲撃してくるなら、力で応えるだけの話。

お互いにそれなりの被害を出すだろうが、対処できないわけではないので特に問題はない。

いや、全く問題がないわけではないが、それでも向こうの業界では当たり前のことなので、大きな問題には発展しない。


厄介なのは、彼らが持つ財力や政治力などを駆使してきた場合だ。

買収したギルドの役員をつかった嫌がらせ。

議員を巻き込んで関東圏の勢力に影響を与えやすい法の整備。

そして、龍星会や鬼神会に所属している面々及びその身内への攻撃。

その他にも俺が想像できないような手段もあるはずだ。

どれもこれも、ヤられたら極めて面倒なことになるのが目に見えている。


もちろんヤられたらしっかりと報復するが、ヤられた時点でこちらへのダメージが大きすぎるため、できればこれらの手段を取って欲しくない。


だがしかし、武闘派として知られる瀬田垣を壊滅させた相手に対し、真正面から無策で挑んでくるとは思えない。

間違いなく河内連合の首脳部は直接的な衝突を避け、間接的な攻撃を採用するはずだ。

少なくとも俺ならそうする。


その結果巻き起こるのは関東圏と関西圏の全面戦争……ではなく、関西圏の民間団体と俺の平穏が地平の彼方に消えるという悲しき事実のみ。


何が悲しくて彼らの権力争いに巻き込まれた挙句、平穏な生活が脅かされねばならないのか。

そんな悲しき未来へと進みかねないトリガー的な行動が、彼らによる報復なのだ。

なので、彼らが報復を我慢してくれるのであれば多少のことは水に流しても良いと思っている。


「まぁ、僕かて死にたくないからね。報復に関しては止められる……というか、なんとしても止めたる。けどなぁ」


「けど?」


「計画を止めるのは難しいかもしれんね」


「計画? あぁ、裏社会を牛耳る的なやつでしたっけ?」


「ものすごく簡単に纏めればそうやね。これに関しては河内連合だけの話やない。もう関西の名のある探索者クラン全体がそういう動きを見せとるんよ」


「まぁ、ギルドの連中がやってきたことが全部暴露されたなら、相応の反発はあるでしょうね」


「せやね。僕らが焚き付けた部分もないとは言わんけど、元々の火種が大きすぎたわ。ここまで燃えてもうたら簡単には止められへん」


「なるほどねぇ」


「君なら無理やり止めることもできそうやけど……止める気、ある?」


「ないですね」


そもそも彼らの目的とは、端的に言えば探索者の地位向上と、腐敗した役人を排除してその後釜に座ることだ。その後の政治的なことは知らないが、少なくとも俺たちが一方的に損をするような政策を実行することはないだろう。

さすがにそれをやったら無理やり止めるしな。


なので、俺も但馬さんも、恐らく西川さんも現時点では彼らの計画について反対するつもりは全くない。

むしろ「頑張れ」とエールを送りたいまである。


今回彼らと敵対したのは、計画がどうこうではなく彼らが俺たちを潰すために襲撃をしかけてきたからであって、我々に敵対の意思があったわけではない。


もちろん初回攻略特典についての情報が漏洩してしまった以上、今後はハイポーションの争奪戦が勃発するかもしれないが、それだって未来の話。


彼らがこちらに攻撃してこないのであれば、彼らの計画に口を挟むつもりは一切ないのである。


ただし、ハイポーションの独占は阻止させてもらうが。


「あ、そっちは止めるんや」


「俺たちも欲しいですからね。そもそも阻止すると言っても、最初から河内連合さんのモノではないでしょう? 俺たちは俺たちで拾うだけですよ。……邪魔してみます?」


「いやいや。それこそまさか、や」


両手を上げて降参のポーズをとる筧さん。


ギルドは勘違いをしているが、大前提としてダンジョンの攻略やその際に入手したアイテムの所有権は実際に手に入れた探索者のものだ。


それを念頭に置いた上で考えよう。

今現在、俺と【ギルドナイト】以外に四〇階層を攻略できる探索者がいるか?

俺がハイポーションを手に入れるのを邪魔できる存在がいるか?

俺が手に入れたハイポーションを奪える存在がいるか?

彼らに実力が備わるまで待てとでも? 

何年待たせるつもりだ。

その間に【ギルドナイト】に回収されるわ。

攻略を予約制にでもするか?

それは良い考えだね。君たちが独占できなくなるが。

そもそも君たちが決めたルールに俺が従う理由がどこにある?

俺のダンジョン攻略を止める戦力がどこにある?

君たちが金と暴力で世界を牛耳るなら、同じように金と暴力で反撃するだけだ。

幸い、そのやり方は教えて貰ったからな。


――この世の『力』は、すべて『暴力』によって支えられている。


些か物騒な言葉だが、確かな事実でもある。

どれだけの『権力』を持つ政治家でも『暴力』があれば殺せる。

どれだけの『財力』を持つ資産家でも『暴力』があれば殺せる。

どれだけの『知力』を持つ策略家でも『暴力』があれば殺せる。

もちろん彼らとて自分が害されないようそれ相応の『暴力』で身を護っているが、そんなモノはそれ以上の『暴力』の前では無意味と化す。


特に、自身で『暴力』をひけらかさずに社会を味方に付けた政治家や官僚相手にはできなくとも、『暴力』を掲げて上に立った河内連合にならできることがあるのだから。


つまるところ四〇階層を攻略できない彼らがハイポーションを独占する計画には最初から無理があったのだ。

その無理を通すためには、ダンジョンの攻略を完全予約制(予約できるのは自分たちだけ)にするしかなくなるが、それをやれば【ギルドナイト】を使って探索の邪魔をしてきたギルドと同じになってしまうし、一度そういう風に認識されてしまえば、今度は河内連合が他の探索者たちに引きずり降ろされることになるだろう。

具体的には、特級の戦力を引き連れた鬼神会とか龍星会とかが動くはず。

ヤられたくないなら、ヤられる理由を作らない。

結局はそういうことだ。


「だからそうですね。とりあえずお互いの縄張りでも決めましょうか」


「縄張り? あぁ関西は僕らで関東は君ら、みたいな?」


「そんな感じです」


絵に描いた餅を巡って命懸けで争うほど不毛なことはない。

ならば分ければいい。


「互いにダンジョンへ潜ることを邪魔しない。ドロップアイテムは早い者勝ち。ただ東日本のギルドに所属しているクランは西日本のダンジョンには潜らないし、そちらも東日本のダンジョンには潜らない。完全な個人の場合は止めようがないですが、そもそも個人で四〇階層を攻略できるような探索者は止められませんので、そういう特例が出てくる前に攻略する。無理だったとしても、罰則はなし。間に合わなかった方が悪い。国外に関しては、まぁ早い者勝ちでいいでしょう。とりあえずはこんな感じでどうです?」


独占もしないし、邪魔もしない。

予約制でもないので文句も出にくい。

【ギルドナイト】や俺がいる東日本の方が不利だが、正直他の探索者のことなど知ったことではない。

欲しいなら勝ち取れ。それが探索者だ。


「バッサリしとるけど、ちゃんと現実を見据えとる感じはある、か。とりあえずの草案としては悪くはないかもしれんね。ひな形として会長に回さしてもらうわ」


「よろしくお願いします」


この提案を受け入れるかどうかは向こう次第。

だが俺は折衷案を出したつもりだ。

これ以上を求めるなら、まぁ処するしかないだろう。


今回出番がなかった奥野もストレス発散したいだろうし。


あぁ、いやまて。

そうだな。

今までは情報の漏洩をやそれに伴う邪魔を気にして控えていたが、最大の抑止力である【ギルドナイト】が動けないのであれば、挑ませてもいいのか。


「それなら……行くか、四〇階層に」


俺一人だけじゃなく、パーティーメンバーを連れて。

閲覧ありがとうございました

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