二十八話 瀬田垣、死す!
そろそろ三章も終盤です
瀬田垣組の連中と鬼神会&龍星会の面々が睨み合い、一触即発の空気が漂う中。
「許可をもらい次第連中全員吹き飛ばしてやる!」と意気込んでいた俺の狙いは、あっさりと外されることとなった。
それも敵の妨害ではなく、味方の手によって。
「もちろん両方却下だ。普通にやってくれ」
二者択一に対しまさかの両方却下とは。
さすがの俺も読めなかった。
いや、なんで?
但馬さんの考えがわからない。
こんな高度で高性能な魔法のどこに不満があるというのだ。
「いや、そんな不思議そうな顔をされてもな。普通に考えて、両方ともやりすぎだ。二つとも話してもらった通りの威力があるなら、余波で俺たちまで死ぬ可能性があるだろう? 特に後者は危険そうじゃねぇか」
「それは、まぁ、否定はしませんけど」
確かに『滅びの爆裂疾風弾』は一瞬で結果が出るのに対し、『大災害』は人工的に発生させた地震のせいで足場が極めて不安定になる中、滞留するマグマと荒れ狂う竜巻がタップダンスを踊る地獄の空間を作り出す魔法だからな。
巻き添えが出ないとは言い切れない。
では『滅びの爆裂疾風弾』が絶対に安全か? と問われると、こちらも安全性は保証できない。
少しでも効果範囲を間違えたら直撃を受けるのはもちろんのこと、しっかりと効果範囲を絞ったとて、魔法発動後副次的に発生する真空空間に巻き込まれたり、真空状態から元の状態に戻ろうとした際に生じるエネルギーに空間ごと引き寄せられて圧縮されて肉団子になる可能性も皆無ではないからだ。
もちろんそうならないよう努力はするし、制御が難しそうだと判断したら距離を取るよう指示を出すつもりだが、退避が間に合うかどうかは微妙なところかもしれない。
もし護衛対象の少女らが魔法にビビッて腰を抜かしたら、間違いなく巻き込まれることになるだろう。
なお、両方とも六〇階層を越えた先に出てくる魔物には効果が薄かったりするのだが、それ以前の階層であれば十分以上に効果が見込める魔法であり、確かに周囲への影響は小さくない。
なるほど。
但馬さんの立場であれば、万が一のことを考慮するのは当然だったな。
いやそれ以前の話として、彼には俺の実力を見せたことがなかったか。
実力を信用できない奴が使う大規模殲滅系の魔法ほど恐ろしいものはない。
ならばこうして使用自体を止められるのも残念ながら当然の帰結、か。
「あと、巻き添えもそうだが、あんまり凄惨な魔法を使うと護衛対象にトラウマを与えるかもしれねぇしな」
「その心配もありましたね」
護衛対象の少女らは三人とも魔法使い(【踊り子】の秋口さんは正式な護衛対象ではない)だ。
それならば、若い彼女たちが見たこともない強力な魔法を前にして、驚く程度ならまだしも、魔法そのものに恐怖を覚えてしまい、魔法を使えなくなる可能性も否定できない。
いやはや、この状況で護衛対象の将来にまで考えが至るとは、やはり但馬さん、あなたは凄い漢だ。
「それにな、西川さんらに対する威圧もある」
「え? そっちに関しては十分効果が見込めるのでは?」
俺が開発したわけではないから手前味噌とは少し違うかもしれないが、少なくとも『滅びの爆裂疾風弾』も『大災害』も一目見てその凶悪さがわかる魔法だ。
これらを目撃した後で敵対するような相手とは、十分な対応策を練っているか、対応策が要らないほど実力を備えているかの二択しかない。
前者であれ、後者であれ、共通するのは『この魔法を見てビビらないなら他にどんな魔法を使ってもビビらない』という事実のみ。
別に西川さんらを馬鹿にしているわけではないが、俺や奥野に対し萎縮していた今の彼らにそこまでの胆力があるとは思わないのだが?
「確かに威力がでかいのは効果的だ。もちろん、ここにいるせいでそれを目の当たりにすることになった連中は俺らに敵対しようとは思わなくなるだろうよ。だが、他はどうだ? どれだけ恐ろしい体験をしても、それを言葉にできなきゃ伝わらねぇと思わねぇか? この業界に上司から『なんかよくわからねぇが凄い魔法を使うヤツがいるから気を付けろ』って言われて、素直に従うヤツがどれだけいると思う? むしろ『どんだけ凄いのか試してやらぁ!』なんて反発してくる奴の方が多いんだ。これは西川さんのことを舐めているとか疑っているとかじゃねぇぞ? 尊敬していればこそ、そういう反応になるんだ」
「ほほう」
これはアレか。
「俺らが尊敬している西川さんに目をかけてもらうなんて生意気だ!」って感じで反発されるのだろうか。
わかるような、わからないような。
「まぁカタギで若い兄さんにはわかり辛いかもしれねぇがな。結局俺らみてぇなのには特殊な魔法なんかよりも単純な『暴力』の方がわかりやすいんだよ」
「……なるほど」
そんなものなのだろうか?
いや、疑問を抱くべきではない。
おそらくそんなものなのだ。
長年この業界で生きてきた但馬さんがそういうなら、それが正解なのだ。
先人も言っている。
ところ変われば品変わる。
郷に入りては郷に従え。
そういった業界の価値観などを踏まえた上で、但馬さんはこう言っている。
よりわかりやすく、より危険性が少ない方法でヤれ、と。
それで言えば一番安全でわかりやすいのは一番最初に考えた方法、即ち”物理で殴る”になるのだが、あれはあれで若いお嬢さんたちのトラウマになりそうだし、そもそも俺はすでに、今回の件は魔法で片付けると決めている。
但馬さんの言い分は理解したが、ここは譲れない。
これは例えば、一度カレーの口になったら夕飯にカレーを食べないと気が済まないのと同じで、今の俺は魔法を使って駆逐しないと気が済まない気分になっているのだ。
もちろん、我慢しようと思えば我慢できる程度の気分ではある。
その程度の気分ではあるものの、そもそも取るに足らない雑魚相手に俺が我慢してやる理由などないわけで。
「普通の魔法なら大丈夫ですよね?」
「普通の魔法? まぁ、そうだな。俺らでも知っているような魔法なら問題はねぇと思う」
「了解です」
「……ちなみにどんな魔法か聞いても?」
「マジックアローの亜種を使おうかと」
探索者であれば誰でも知っている無属性魔法の代名詞にして、込める魔力の量で数や大きさを変更できたり、属性を付与することで使い手の色を出せることも知られているため、経験豊富な西川さんはもちろんのこと、護衛対象の少女たちにも効果と威力の違いがわかりやすい魔法である。
これなら文句はあるまい。
「マジックアローか。それならまぁ、大丈夫そうだな」
「では?」
「あぁ任せた」
その言葉を待っていた!
「ではいきます……お前らの顔はもう見飽きた。存在ごと消えろ『ライトニングアロー』×三七!」
詠唱を終えると同時に瞬時に展開された三七個の光り輝くナニカが物凄い速さで射出された。
そのナニかは狙い過たず瀬田垣の面々がいたところを通過し、ドォォォォォォォォン!!と、まるで落雷が落ちたかのような轟音がダンジョン内に鳴り響くころには、彼らが立っていた場所には微かに香るオゾン臭以外にナニも残っていなかった。
まさしく影すら残さぬ蹂躙である。
「「「は?」」」
ナニが起こったか分かっていない人たちがいるようなので説明しよう。
この魔法は、周囲に展開した三七のマジックアローに対し『雷撃』を付与することで完成する特殊な魔法で。
マジックアローが持つ貫通力と衝撃力に、雷の速さと感電・延焼効果を上乗せさせることで極めて高い殺傷力を両立させた複合魔法なのだ!
この魔法の凶悪さを極めて分かりやすく説明するならば、質量のある雷が飛んでくると思えばいい。
回避するには雷速を見切る眼と雷速に対応できる身体能力が必須となり、耐えるなら極めて高いDEFと魔法防御力が必要になる上、当たっただけで感電と熱傷効果に襲われるため相応のステータス以外にも覚悟が必要になる、この場に限れば、回避できるのも防御できるのも奥野しかいないという凶悪な魔法なのである!
結果、回避に成功した人間はゼロ。
命中した連中も全員ステータスが足りなかったのか、耐える間もなく消滅したというわけだ。
ちなみにこの魔法は六〇階層以降に出てくる魔物にも有効である。
ただあの階層レベルになると、ほとんどの魔物が弱点以外の属性攻撃に対する強い耐性を持っているので、雷属性を弱点としている魔物以外には感電や熱傷の効果は期待できないものの、雷速が生み出す衝撃力と貫通力は健在であるため、そっちの効果で押し切ることが多かったりする。
もちろん、当時の俺は『雷撃』を持っていなかったので、使用できたのは【大魔導士】である。
ちなみのちなみに【大魔導士】は、”雷属性の魔法”に『雷撃』を重ね掛けすることで人工的に約一〇〇万℃の超高熱を発するプラズマ的なナニカを作成し、それを叩きつけることで属性やら耐性やらを完全に無視して標的を消滅させる『ライトニングプラズマ』という頭のおかしい魔法を使っていたが、そちらに関しても”雷属性の魔法”は魔法使い系の上級職でしか習得できない魔法であったため、俺には習得できなかったりする。
もし”雷属性の魔法”を習得できそうな魔法使いがいても『雷撃』のスキルがないと習得できないため、今のところ使い手が現れる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
六〇階層以降に出てくる魔物にも通じる魔法なんだけどな。
仕方ない。
便利であっても使い手がいない魔法について語るのはこれくらいにして。
【大魔導士】や六〇階層云々を省いて簡単に説明したところ、但馬さんと西川さんは頭を抱えてしまったが、その反応はまだ早い。
確かに、回避に成功したのはゼロだし、耐えられたのもゼロだ。
だが、一定以上の距離を保っていたおかげか、攻撃を喰らったものの、急所を逸らして一命をとりとめることに成功した人間が一人だけいるのだから。
「そこにいる人、出てきてもらえますか? もし自発的に出てこないなら、次は今と同じ魔法を今の倍放ちますよ。追尾性能も付与して」
少し離れたところにいる人に向かって呼びかける。
それほど大きな声ではないので、普通の状況であれば聞こえないかもしれない。
しかし、魔法の余韻が残っている今はとても静かだし、なにより相手は専門の教育を受けたであろうプロだ。
自分に向けて発せられた声に反応できないはずがない。
確信をもって告げて待つこと数秒。
ダンジョンの奥から一人の男が現れた。
ぱっと見の特徴としては全身黒の服で、身長は一八〇センチ程度、体格は太くもなく、細くもない。
年齢は二〇代後半から三〇代前半くらいだろうか。
少しくすんだ金髪と、開いているかどうかわからないほど細められた目、それと先ほどの魔法のせいで欠けたと思しき右腕が特徴的なその男。
外見だけなら”どこにでもいる負傷者”といった感じなのだが……。
「いやいやいや、そらもう同じ魔法と違いますやんか。さすがに次は無理そうなんで勘弁してくれませんか?」
驚く西川さんや但馬さんには目もくれずに放たれた怪しい京都弁が、先に挙げた特徴と相まって胡散臭さをこれでもかと主張してくる。
これまで隠れ潜んでこちらを観察していた時点で、彼が河内連合とやらが用意した監視役か見届け人であることが確定している。
よって普通であれば、こんな胡散臭い相手と話すことなどない。
問答無用で瀬田垣組の皆さんと同じ場所へ送ってやるのが情けというものだろうし、俺としても彼が姿を現すまではそうしようと思っていた。
しかし、隠れ潜んでいた相手が彼であれば話は変わってくる。
「筧さんでしたか。お仕事お疲れさまです」
「……へぇ」
「……なんだ、兄さんの知り合いか?」
自分の名前を当てられて驚いたのか、細い眼をさらに細める男と、俺の態度から察するモノがあったのか、関係性を誰何してくる但馬さん。
しかし「知り合いか?」ときたか。
そのドストレートな問いに対する答えは、もちろんNO。
「知り合い、ではないですね。俺が知っているのは彼の顔と名前と簡単なプロフィールだけですから」
「いや、それだけ知っとったら十分やろ。あ、ちなみに僕は君のことなんも知らんのやけど?」
「でしょうね」
俺が一方的に知っているだけなので”知り合い”ではない。
そもそも今の彼が俺のことを知っているはずがないのだ。
なぜなら俺が彼のことを知っているのは、記憶の中にある一五年の間に何度も会っていたからなのだから。
金髪、狐目、京都弁。
胡散臭い要素が轟音で三重奏を奏でているかのような印象を受ける程度には胡散臭さを隠しきれていないこの男の名は筧史裕。
現時点でも色々な肩書を持っているようだが、彼のことを言い表すならこの一言でこと足りる。
【上忍】の部下にして、彼女が造り上げた諜報部門の次席監督者。
それが目の前に立つ胡散臭い男の正体である。
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