二十五話 やはり暴力。暴力は全てを解決する
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「初回攻略特典ってのは、あくまでばら撒かれたデータの中でそう言われとっただけなんで、正確な言い回しは知らんけどな。それでも、言いたいことは伝わるやろ? 読んで字のごとくってヤツや」
確かにそのまんまの名称ではあるが、一応公式の呼び名だぞ。
「あぁん?」
「あ~。よくわかってなさそうな西川はんのために少し詳しく言うとな。ダンジョンに出てくるボスを討伐した場合、ドロップアイテムの他に罠のない宝箱って感じでアイテムが出ることは知っとるやろ?」
「……それくらいは知っとるわ」
「それは良かった。でな、その中身はスキルオーブやったり、ポーションやったり、珍しい鉱石やったりとまぁ色々あるわけや」
「そうだな」
「そんな何か出てくるかわからん中、とあるボスが落とすアイテムは、ポーションとハイポーションだけやったらしい。外れがポーションで、当たりがハイポーションってわけやな。贅沢な話やで」
確かに贅沢だ。
しかし四〇階層のボスを討伐できるレベルの探索者からすれば、ボスから得られるアイテムがポーションだけってのは明確に外れだと思う。
もちろん回復手段が貴重なのは確かなのだが、金額的な価値と労力が釣り合っていないと言うか、なんと言うか。
「そんでな。そいつは”とある条件”を満たすだけで当たりのハイポーションを落としてくれるんやと」
「……ほう。そんならその、”とある条件”ってのが?」
「せや。初回攻略や。ちなみにそれを落とすんは四〇階層のボスである”蛟”やで」
「四〇階層のボス、か。なら『三五階層の壁』ってのは……」
「おう、なんのことはない。ギルドの意図しないところで勝手に蛟を討伐する可能性がある高レベル探索者を【ギルドナイト】が狩っとるだけの話やな」
「なんちゅうことを……」
「……外道どもが」
憤りを隠せない様子の二人。
向こうが言っていることは純然たる事実なので、俺から言えることはなにもない。
「そんな感じでな。これまでギルドの連中は、各支部からの情報を集め、地元の探索者が四〇階層を攻略できそうになったと判断した途端に牙を向けてきた。その基準がレベルにして三五。これは余裕を持って三五階層を攻略できるレベルであると同時に、連中が一方的に、かつ探索者を処理できるレベルなんやと」
それも事実。
記憶の中ほど圧倒的な差がなかった時代の彼らは、送迎を行う際には必ず一〇レベルの差があるかどうかを確認していた。
それは、もし彼我の差が一〇以下だったら、二人がかりで任務に当たっていたくらいには徹底していた。
実際のところ、上位職であればステータスの上昇値が違うので七レベル程度の差があれば無傷で済んでいたらしいが、万が一のことを考えて一〇を維持していたと記憶している。
「ちゅーわけで、や。これまではレベルが三五を超えたら問答無用で連中が動いて、そのまま消されていた。せやから誰も四〇階層のボスを討伐したことがなかったし、当然、そいつが落とすアイテムの中身も知らんかった。どうやれば当たりを落とすのか、なんて意識すらしたことないやろうな」
だろうな。
「だが、これからは違う。こうして情報が流出した以上は、黙って連中に独占させてやる理由はない。俺らもそうやが、俺ら以外も獲得に動き出す。違うか?」
「そらまぁ、そうやろな。そこまではっきりと入手手段が判明しとるんなら、挑む連中も出てくるやろな。なんせ最低でも一個一〇億やし。それがパーティーメンバーによって増減するんやろ? 挑まんわけないな」
一般的に一つ一〇億円は命を賭けるに値する額だからな。
多少の無理をしてでも手に入れようとする連中は出てくるだろう。
「せやろ。現在日本で確認されているダンジョンの数は六〇。そのうちすでに攻略されたことが判明しとるのが六、残りの五四は手付かずのままや。そこを俺らが狙う」
そのうち四つはすでに俺が攻略しているので初回攻略特典は貰えないのだが、運が良ければ”当たり”が出ることもあるし、ポーションだって貴重な品なので無駄足にはならないはず。
是非頑張って欲しいところである。
「んで、六人パーティーで五四回ボスを斃したら三二四個や。もちろん、俺ら以外が討伐することもあるやろうから総取りはできんやろうが、それでも二〇〇個は堅いと睨んどる」
まぁ【ギルドナイト】がどれだけ強くとも、所詮は四人しかいないパーティーだ。
組織ぐるみの人海戦術を前にしては先を越されることもあるだろう。
ただ、そんなにうまくいくか?
確かに情報は漏れたかもしれないが、別にそれで連中が死んだわけじゃないんだぞ?
「理屈はわかった。けどそれをやろうとしたら【ギルドナイト】が襲撃をしかけてくるやろがい。お前らに連中をどうこうできる手段はあるんか?」
「だな。結局連中の『暴力』に対抗できなきゃ、どんな理想も絵に描いた餅でしかねぇ」
「なんや、頭の回転が悪いのぉ。いや、それだけアンタらの頭ん中に連中の怖さが染みついとるんか」
「はぁ? いきなりなに抜かしとんねん!」
「分からんか? なら教えたるわ。将来的にはどうか知らんが、少なくともすぐには【ギルドナイト】は動かんよ。正確には動かれへん。理由は……さすがにわかるやろ?」
なんでだ?
あの欲望に忠実な連中が動かないわけなんて……。
「【上忍】か!」
考え込む俺を他所に、但馬さんが答えを告げたではないか。
いや、ここでも彼女の名前が出てくるのかよ。
あの人、どこにでも絡んでくるな。
「せや。今頃ギルドのお偉いさんはもちろんのこと、ギルドの力を使ってヤバイ事をしまくっとった政府の高官や政治家先生らは大慌てで情報の封鎖と証拠の隠滅を図っとる。こんな状況やからな。【ギルドナイト】も同じや。連中自身が【上忍】からの襲撃を警戒せんとあかんし、政治家やら政府高官の護衛やで忙しゅうて地方に遠征しとる暇はない」
あぁ、なるほどな。
俺も【ギルドナイト】の連中が護衛や襲撃を警戒して動けないことまでは予想していたが、そのせいで『三五階層の壁』としての役割が果たせなくなることまでは予想していなかった。
で、彼らは鬼の居ぬ間に洗濯をしようとしているわけか。
「「……」」
「どうやらお二人さんにも理解してもらえたようやな。この時間を利用して、俺らは連中に並ぶ……とまではいかんでも、勝負になる程度にまではレベルを上げるつもりや。具体的には四〇近くまで上げたる。そこまでいけば連中とも戦えるしな」
四〇か。
確かに、今の連中とならそれなりに闘えるレベルだ。
そこまで上げられたら、連中も襲撃を躊躇するようになるだろう。
もちろん【ギルドナイト】が総出で動いたら殲滅されるだろうが、ここでも【上忍】の存在が邪魔をする。
死んでいたならともかく、行方を眩ませていただけの場合、彼女は両者がぶつかったあとで勝った方を始末する、つまりは漁夫の利を得ようとするだろうからな。
だから、全面戦争はできない。
単独で動けば各個撃破される。
完全に手詰まりだ。
しばらくは受け身に回るしかない。
そうして受け身に回っている間に、打とうとしていた杭は打つことができないほど大きな杭に進化してしまい、さらに時間の経過とともにその数を増やしていくわけだ。
これはもう、ギルドの連中程度ではどうしようもないな。
秩序の崩壊と新たな支配者の誕生を見送るしかない。
そうなると【ギルドナイト】としては、どうだろう?
まぁ、ギルドの後ろ盾がなくなったとて、連中が個人最強であることに違いはないから、それなりの待遇で扱って貰えそうではある。
それなら反発はしないかもしれないな。
むしろギルドの役人たちを仕留める好機! とか言って嬉々として暴れ出す可能性もある。
罪を全部押し付けてな。
いやはや、恐ろしい世の中になりそうだ。
それもこれも全部【上忍】ってやつが悪い。
まったく、生死が確定していないが故に、その影におびえ続けることになるとは。
あの人は想像以上に厄介な存在だった。
最初に潰せて本当に良かったよ。
本心からそう思う。
そのせいで予想もしなかった事態が発生し、それに巻き込まれることになっているのはどうかと思うが。
まぁ、すでに起こったことだからとやかく言うつもりはないが。
自業自得? 知らない子ですね。
そんなこんなで、俺個人としてはギルドの連中や政治家さんらがどうなろうと構わないし、誰が裏の支配者になろうとも社会が崩壊しないなら勝手にやってくれればいいので、彼らの行動を否定するつもりはない。
なんなら応援しても良いとさえ思っているのだが、そうは問屋が卸さないようで。
「これでアンタらが懸念している『財力』と『暴力』の目途は立ったわけや。せやけどこれらはあくまで予定であって、確定した未来ではない。せやから予定を実現させるための下準備をせんとあかん」
「下準備、やと?」
「何が言いてぇ」
「はっきりと言わんとわからんか? 端的に言って、アンタらが邪魔なんや。俺らがハイポーションを独占するためには、四〇階層に挑めるような強者は少ない方がえぇ。それにアンタらはレベルもそうやが、それ以上に『暴力』に慣れとるさかいな。アンタらの相手は同じレベルの探索者を相手にするよりもっと疲れる。レベルが上がれば尚更や。せやから今回、アンタらが足手纏いを抱えてダンジョンに潜るって情報を得た時点でアンタらを潰すための計画が練られたんや」
「「……っ!!」」
足手纏い、言わずと知れた護衛対象のアイドル達と撮影スタッフさんたちのことだ。
その情報が彼らに渡っているのは、もちろんギルドの連中が情報を流したからに違いない。
ギルドの連中からすれば”破落戸の同士討ちを誘った”程度の認識なのだろうが、連中の視野では結果がどうなるかまでは想像できなかったようだ。
そんな彼らにとって想定外のことがあったとすれば、冒頭で彼が言ったように、西川さんが俺たちと敵対していなかったことくらいだろうか。
それを理解した上で、こうして正面から姿を現し、聞いてもいないことをペラペラ喋ってくれたのは、彼の性格以外にも、自分たちが有利にあることを周囲に伝えて味方の士気高揚を図っているのと、西川さんと但馬さんがどれほどの情報を持っているかを確認するためだろう。
そこまでは理解できる。
だが、それ以外が理解できない。
「してやられたことは認めたる。せやかて、まさか俺らが黙ってやられるとは思っとらんやろなぁ!」
「もしそうだとしたら……俺も舐められたもんだな」
そう。但馬さんと西川さんという同レベル帯にいる武闘派の二人を前にして『両方を相手にしても勝てる』と確信している理由がわからない。
既に正面から勝てるだけのレベル差があるのか。
それともなんらかの秘策を隠しているのか。
「えぇんか、西川はん? アンタが動けばお嬢さんが死ぬで?」
「えぇぇ……」
疑う俺を前に自信満々の瀬田垣さんとやらが口にしたのは、一見すれば確実性が高いように見えるも、その実、想定しうる様々な可能性の中で最も愚かな手段であった。
閲覧ありがとうございました















