二〇話 外道はギルドだけではない
あけましておめでとうございます
基本的に、一五から二〇階層では近接戦闘を得意とする物理特化の魔物しか出現しない。
彼らに共通する特徴は、同レベル帯の中では高いDEFとSTRとSPDといった近接戦闘に長けたステータスを兼ね備えていることだろうか。
そうした比較的高めのステータスに慢心しているのかどうかは知らないが、連中の攻撃手段は単調の一言。
稀に手に持った武器やその辺の石を拾って投げてくることはあるが、ほとんどの場合は素手や手に持った武器、もしくは爪や牙による近接攻撃しかしてこない。
そのためここでの戦闘は、彼らの攻撃力を上回るDEFを持つ前衛職と、魔法などによる遠距離攻撃を主体とする後衛職を用意することで、余裕をもって勝ち切ることができるようになっている。
なので、それらの手段を有している少女らにとってこの辺はレベリングの場とするには最良の場と言えるだろう。
あ、ちなみに、探索に先立って西川さんは例の指輪を霧谷のお嬢さんに渡していたりする。
まぁね。
これが普段の探索であれば、深層に潜る西川さんやメインメンバーに装備させるのが正しいのだろうが、今回予定しているのは二〇階層までだからな。
この階層であればどれだけ戦っても上級職に就いている西川さんのレベルが上がることはないので、それなら最初からレベリングを目的としている彼女の方に指輪を装備させた方が効率的なのは事実だ。
お嬢さんの方も強くなって困ることはないだろうし。
そのお礼として彼女から「西川さんから聞いたけど、凄いアイテムくれたんだって? ありがとねぇ。あ、お礼にこれあげるよ」と直接感謝の意を伝えられると共に、サイン色紙と彼女を模したぬいぐるみを貰ったのだが……はてさてこれはいったいどうしたものか。
(部屋に飾るのはなんか違う気がするし、転売は西川さんが怒鳴り込んできそうだ。はした金のために信用を損ねるのも間抜けな話だから持っておくべきなんだろうけど、置き場がない。まぁ、しばらくは『ルーム』の肥やしかな。それはそれとして、だ)
色紙とぬいぐるみの扱い以上に、懸念すべき点がある。
それは、例の指輪を装備したことで、レベルが上がれば上がるほど彼女と他のメンバーとの差が如実になってしまい、それによって関係性がギクシャクしそうなことだ。
同じグループ、それもこんなところまで一緒に来るくらい仲が良い相手にそれでいいのだろうか?
疑問に思ってそう尋ねてみたところ、西川さんからは「大丈夫や、問題あらへん」という力強いお言葉をいただいた。
曰く「あっちの業界はな、ある意味では俺ら以上に過酷な競争社会やで? 持っとる伝手を使うのは当たり前やし、伝手が用意した装備を使うのも当たり前。ほならあの指輪を装備して一人で強くなることだって、なんも恥ずかしいことあらへんわ。ちゅーか、俺らを使って他の足を引っ張ってないこと自体がお嬢の優しさやろがい。感謝をされるならまだしも、文句を言われる筋合いなんざない」とのこと。
納得しかない。
ちなみのちなみに、これまで彼女たちの先輩にあたるアイドル志望の少年少女らが、今回のようなレベリングと撮影を兼ねたダンジョン探索をやってこなかったのは、偏にアイドル側の安全が担保されていなかったからである。
それはそうだろう。
昨今、いくら下層に挑める探索者が増えているとはいえ、基本的にダンジョンは死と隣り合わせの危険地帯。
どれだけレベルが高くとも、罠や突発的な事故のせいで命を失う探索者のなんと多いことか。
それこそ奥野の両親がいたパーティーだって、本来であれば起こりえなかった事故に遭遇した結果、壊滅してしまっているのだ。
どれだけ警戒しても、し過ぎるということはない。
そんな、何が起こるかわからない危険地帯に足手纏いを抱えて挑むことを是とする探索者がどれだけ希少な存在か。
また、実力が伴っていたとしても、その探索者を信用できるはどうかは別の話となるわけで。
何度も言うが、ダンジョンの中とは、ナニが起こるかわからないし、ナニカが起こっても司法の手が及ぶ可能性が極めて低い、いろんな意味で危険な場所だ。
そして、その危険地帯に潜る探索者の多くは、決して品行方正な存在ではない。
そも探索者という職業自体が探索者のアンチから『自分より弱い生き物を狙って殺傷し、その死体を弄んだかと思ったら、内臓やら遺留品を取り出し、その価値に一喜一憂してから売りさばく性格破綻者の集まり』と評される職業(尚、そうした悪評のほとんどは探索者のおかげで利益を得ているはずの政治家や官僚、さらには日本の独走状態を止めたい連中から資金提供を受けている組織やマスコミ関係者が広めているため、なくなる気配はない)にして、そういった意見に対し本人たちから明確な反対意見が出ないどころか、逆に「まぁ、間違ってはいない」とか「死体から造られたモノを装備しているって事実が抜けている」など、自分たちの野蛮さを誇るかのような意見が出る程度には荒んだ職業である。
そう言った野蛮さを持つ多くの探索者にとって、アイドルやその候補生とは庇護対象ではなく、欲を発散させる道具でしかないのだ。
これまでの長い歴史の中で多くの後ろ暗いことを経験してきたアイドル業界だが、さすがに明確な目的もなく飢えた肉食獣の前に生肉を差し出すような真似をするほど終わった業界ではない。
二〇階層の探索に同伴できるような撮影スタッフがいるのは、業界として自己防衛力を高めようとした結果の産物なのだ。
まぁ、彼らが探索者相手に暴力でマウントを取ったり、アイドルたちに絡んできた探索者たちを処理する役割を担っている可能性は極めて高いのだが、今に至るまで俺の目の前で処理された探索者は観測できていないので、スタッフさんたちの手が血に濡れている可能性はないものとする。
シュレディンガーのスタッフさん理論はともかくとして。
業界にとって鍛えられたスタッフさんとは、ある意味でアイドル以上に替えが利かない貴重品である。
当然、魔物や他の探索者との戦闘で簡単に消費して良い存在ではない。
よって、スタッフだけを護衛としてダンジョンに潜ることはできなかった。
また、深い階層に挑む探索者たちは、鍛えたスタッフ程度では到底及ばない実力を持っていることも、業界がアイドルたちを深い階層に行かせない理由の一つとなっている。
想像してみて欲しい。
自衛能力のない見目麗しい少女たちが、ダンジョンの奥地で但馬さんや西川さんのようないろんな意味で厳つい探索者と遭遇したらどうなるか、を。
そう。
護衛として同伴しているスタッフさんたち含め『見せられないよ!』な展開になることが目に見えているのだ。
もちろん、但馬さんは軽々にそんなことをしない(西川さんに関してはやらないとは言っていない)が、アイドル側にしてみれば、それを実行に移すかどうかは別として、それが不可能ではない時点で警戒するべき対象となる。
浅い階層であればバラけることで逃げ切れる可能性もあるし、逃げた先で他の探索者に接触し、助けを呼ぶこともできなくはない。
その場で助けを呼べなくとも、ダンジョンから出てギルドに訴え出れば、狼藉を働いた探索者たちはそれなりに厳しい処罰を受けることとなる。
この事実が荒くれ者の行動を掣肘する枷となるため、それなりの実力を持つ探索者は浅い階層では犯罪行為に及ばない傾向が強い(及ばないとは言っていない)。
こういった事情があって、これまでアイドルたちのレベリングや撮影は、自分たちだけで生還できる程度の階層で行うことが常態化していたのであった。
現在、その業界の常識とされていた諸々の事案を覆すようなチャレンジが行われているが、これは『他人(他社)がまだやったことがないことをしたい』というアイドルと会社の強い意向。
『広告塔に目立った活動をしてもらい、ダンジョンに潜る人間を増やしたい』というギルドの意向。
そして霧谷組のお嬢さんだけが持つ、業界にとって最新の撮影機材よりも高価で、ツチノコよりも希少価値が高い『信頼できる探索者』という空想の中にしかいないような存在への伝手といった、様々な要素が奇跡的に絡み合った結果、ゴーサインが出された稀有な例なのだ。
もしかしたら、今後似たようなことをするためのテストケースも兼ねているかもしれない。
その場合は、業界側が西川さんたちに代わる探索者を用意できるかどうかがカギとなりそうだが、その辺は今回限りの護衛でしかない俺たちには関係のない話なので、深く関わることはないだろう。
いや、もしかしたら今回の仕事を成功させたら、これが実績となってアイドル業界側から『護衛任務』を任されるようになる可能性も皆無ではないが、それを受けるかどうかは但馬さん次第。
龍星会、というか藤本興業としては……どうだろうな?
建設系以外にも選択肢があった方が良いと考えるのか、それともインドネシアとの伝手を得たことを理由に建設系に集中するのか。
どっちもありそうではあるが、まぁどちらに転んでも俺には関係のない話。
俺は何事も起きない仕事を、粛々とこなせばいいのだ。
……そんな風に考えていた時期も俺にはありました。
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