十八話 フラグ、ですか? そこになければ無いですね。
本日二話目の更新です
ギルド職員への殺意を抑えてダンジョンに潜り、なんやかんやでやってまいりました一五階層。
「「「燃えろ! ファイヤーボール!」」」
「GYAAAAAAAA!!」
三人の魔法少女が同時に繰り出す炎の魔法が直撃!
相手は死ぬ!
なんてナレーションが後から入るかもしれない戦闘が終わった。
「ほほー。中々どうして」
護衛対象であるアイドルたちのレベルが一五だったこともあり、ここまでは特に問題なく駆け足でやってこれたが、ここから先は冗談抜きで命を落とす可能性がある危険地帯である。
よって彼女たちはもちろんのこと、護衛の我々も気を抜けない……と思いきや、意外と余裕がありそうだ。
敵を見つけてから魔法を放つまでの時間といい、敵の消失を確認するまで残心を解かないことといい、咎めるところが見当たらない。
「どうや兄さん。ウチのお嬢もなかなかやるもんやろ?」
「……そうですね。正直驚きました」
ドヤ顔で語りかけてくる西川さんにちょっとイラっとしたが、驚いたのは事実だ。
「正直こう、もっとわちゃわちゃしているものだと思ってました」
仕事として視聴者を意識したリアクションをする場合は別としても、それでも彼女たちは若い女の子なのだ。
一回一回派手なリアクションをとったり、お互い励ましあったりと、なんとなく緩い空気を作るもんだと思っていたが、予想以上にちゃんと探索者をやっている。
レベルの高さも相まって、もしかしたら探索者の養成を目的としているウチの学校の生徒たちよりも探索者としての質が高いのではなかろうか?
「うんうん。兄さんが驚くのもわかるで。ま、あの子らは例外中の例外なんやけどな」
「例外?」
「せやで。まずあの子らは、他のアイドル志望の子供らと違ってパワーレベリングなんざ姑息なことはやっとらん。あくまで自分たちの力でレベルを上げてここまで鍛えたんや」
「自力でここまで? 確かにそれならあの練度も納得……ん? 現在進行形で我々が護衛してますけど、それは?」
「あぁ、まぁ。こうして確かに万が一のために控えとるけどな、これも例外や。さすがに普段からここまで仰々しくはしとらんよ」
「へぇ。そうなんですか」
「せや。普段はちゃんと安全マージンを取った場所で活動しとるよって。護衛もおるけどな」
「普段から護衛? あぁ、そういえばスタッフさんたちも現役の探索者でしたね」
「せや、そこそこ頼りになるで」
「へぇ、そうなんですね」
事実、彼らは撮影スタッフであると同時にアイドル事務所が用意した護衛でもある。
護衛のレベルは二五前後、マネージャーさんでさえレベル二〇以上あるらしい。
それだけ鍛えているのなら、西川さんらに及ばないのは当然としても、このくらいの階層に出現する魔物や罠であれば、大抵のことは自分たちで対処できると思われる。
普段からそれほどの人たちが同伴してくれるなら、彼女たちがレベルアップに専念できるのも納得である。
しかしそうなると、ますます現在俺が通っている探索者育成学校の存在意義がないように思えてきたのだが、結論から言えばそれは俺の早合点であった。
「ま、そういう至れり尽くせりな環境が整っておる分、相応に高い入学金やら学費を払っとるんやけどな」
「あぁ……なるほど」
入学金や学費が高い私立の学校と、予算の大半を税金で賄っているおかげで入学金や学費が安い公立の学校では、生徒の待遇が違うのは当然のことだった。
そりゃ差が出るわ。
納得した。
納得したついでに聞いてみよう。
「ではなぜ、十分以上に余裕があるはずの彼女らが俺たちみたいな護衛を必要としているんです? いえ、もちろん今回の仕事に関してはギルドが混乱したせいで生じた突発的なモノだとは聞いていますが、そもそも彼女たちの実力なら護衛なんて必要ないでしょう?」
事の発端は【上忍】がいきなり消えたせいでギルドのお偉いさんたちが疑心暗鬼になり、本来彼女らの護衛となるはずだったクランが彼女たちの護衛に参加できなくなったことから生じたことだ。
我々はその穴埋めとしてこの仕事を回されたわけだが、それ以前の問題として、わざわざ情報漏洩やらなにやらの危険を冒してまで外部から護衛を雇う必要性があるのだろうか?
訝しむ俺に、西川さんは「バケモノみたいに強くてもやっぱり子供やなぁ」と笑いながら教えてくれた。
「そら、アレよ。彼女らでも対処できない事態が生じた際に責任を押し付ける先を確保するためであり、物理的に人手が欲しくなった際に使える手を確保するためであり、そもそもの問題を発生させないための処世術であるって感じよ」
「あぁ……」
なんのことはない、単純に”大人の事情”が絡んでいただけだった。
少し考えればわかることじゃないか。
はぁ、自分の社会経験の無さが嫌になる。
「どないした? なんか調子悪いんか?」
「いえ、なんでもありません」
……自嘲も自己嫌悪もあとにするとして。
西川さんから教えてもらったことをかみ砕いていこう。
まず、一つ目はそのままだな。
基本的にギルドが絡んだ仕事には、ほぼ確実にこういう存在が用意されるのを忘れていた。
責任の取らせ方は色々あるが、多くは多額の借金を背負わせた上で、その身で支払わされるケースが多かったな。
性的な意味もあったが、実験的な意味も多かったのを覚えている。
……なにが未来への礎だ。
クソが、死ね。
二つ目の人手とは、文字通りの人員ではなく、アイテムボックス持ちの【商人】のことである。
彼女らも荷物持ちとして【商人】を一人連れてきてはいるものの、当然のことながらアイテムボックスの容量には限界があるわけで。
まず、アイドルとスタッフが一週間使う分の水と食料は必須だし、普通の探索者では使わないようなカメラやドローンといった撮影機材も持ち込まなくてはならないだろう。
それらに加え、生活レベルを保つための簡易トイレや大きめのテント、人数分の寝袋も必要となる。
当然、トイレットペーパーやら化粧品やら生理用品などと言った細々としたアメニティ関連のあれこれも必要だ。
それらを全部アイテムボックスに詰め込むのは無理がある。
よって細々としたモノは個々でアイテムバッグなどに入れて対応するのだが、それでも荷物の大半を預かる【商人】にかかる負担の大きさは尋常ではない。
また、それらを一人の【商人】に預けるのは、容量に関してはもちろんのこと、リスク管理の面においても現実的ではない。
万が一【商人】が魔物の攻撃や罠などで致命傷を負ったら、【商人】に依存しているメンバー全員がダンジョン内で野垂れ死ぬことになるのだ。
できる限り分散させようとするのも当然のことだろう。
よって、探索に赴く際にはできるだけ多くの【商人】を用意して、リスクを分散させるのが『最も安全な探索』の第一歩となる。
この程度のことはそこそこ経験がある探索者であれば誰もがわかっているのだが、ほとんどの場合はそれができない。
その理由の多くは『【商人】の社会的信用のなさ』にある。
ダンジョンができて探索者が活動し始めた当初はパーティーに一人はいなくてはならないチート職業として持て囃された【商人】だが、これまでいろいろあった結果、政府やギルドから【商人】は『その気になればいくらでも完全犯罪が可能な職業』として位置付けられてしまっている。
これは差別や根拠のない言いがかりではなく、実際に密輸や密猟に関わる組織の多くが【商人】を囲い込み、利用していたことから来る正当な評価であった。
そうして国家権力から犯罪者予備軍として扱われるようになった【商人】は社会的な立場と信用を失ってしまっている。
今では【商人】というだけで白眼視されるような状況だ。
加えて、レベルアップ時に上昇するステータス値がしょぼいのである。
ダンジョンの探索が進み、魔物とパーティーメンバーのレベルが上がれば上がるほど、相対的に足を引っ張ることになるのが【商人】というジョブである。
足手纏いを抱えて攻略できる程度の階層ならまだしも、より深く潜ろうとすればどうしても苦戦することになるし、苦戦すればするほど戦闘で役に立っていない存在を邪魔に思えてくるものだ。
戦闘では役に立たず、その後もドロップアイテムや魔石を着服する可能性まで生じることもあって、普通の探索者パーティーでは【商人】を持て余してしまうのである。
よって、そんな【商人】を公に抱え込める組織といえば、ギルドや軍や警察や税関と言った公的組織か、それらと提携を結んでいる会社。
もしくは龍星会や鬼神会のような、昔から『訳アリ』に理解を示す度量のある――オイタをした【商人】を処理できる――組織くらいだろう。
それで、元々アイドル業界はそういう業界と繋がりが深いこともあり、【商人】が必要なときに人員を派遣してもらっているようになっている、らしい。
「ま、俺らの場合は現役でアイドルをやっとるお嬢がおるからのぉ。今じゃ結構なお得意さんっちゅーわけや」
「なるほど……」
繋がりがなければ裏切りや情報漏洩を疑うが、護衛対象に身内とその関係者がいるなら話は別。
事務所側から見れば西川さんたちは、お嬢さんのために必死で動いてくれる優秀な護衛であり、西川さんたちにとってこの仕事は、お嬢さんを護ることに加えて自分たちが働くことでお嬢さんに有利な環境が作れる仕事。
もちろん西川さんたちの場合は少し特殊なケースなので俺たちが参考にできることはないが、ようはアイドルを裏切らない(信用できるとは言っていない)荷物持ちを確保するための一手として、護衛を雇っていると思えばいい。
そして最後の処世術については、まぁ、あれだ。
問・ダンジョンの上層や中層で最も探索者を殺している存在は何か?
答・探索者
そういうことである。
片や”力こそ正義”を地で行く暴力の信奉者集団、片やアイドル志望の若い女の子たち、何も起こらないはずがなく……。
実際、両者が出会ったらどうなるか? など改めて語るまでもないだろう。
そういった事故や事故に見せかけた犯罪を防ぐため、もっと言えば、欲に塗れた連中を接近させないための壁として機能することを求められているのである。
つまり我々は、危険なモノと戦うためではなく、最初から危険なモノを近づけさせないために用意された人員なのだ。
これはある意味で正しい”護衛”の使い方と言えるかもしれない。
「なるほどなぁ」
要するに、保険なのだ。
だから余程のことが起こらない限り俺たちに出番はなく、今のところナニカが発生する気配は皆無であり、万が一ナニカが発生したとしても奥野や但馬さんがいれば対処できる程度のことしか起こらない。
ならば今回の遠征における俺に課せられた仕事は、アイテムボックス持ちの【商人】として龍星会の面々が利用するアメニティの維持と管理をするだけってことになるのではなかろうか?
いや、但馬さんからは「奥野の姐さんが暴走したときに止めて欲しい」と頼まれていたか。
でもなぁ、別に彼女は誰彼構わず襲い掛かるバーサーカーではないぞ。
基本的に弱者の言動を認識しない(するつもりがない)とか、意外と短気で喧嘩っ早いとか、今の彼女が本気で殴り掛かったら【ギルドナイト】でさえ即死する可能性があるし、手加減した攻撃でも但馬さんレベルであれば即死させられる程度の実力はあるが、その程度であればこの業界ではよくあること。
実際、但馬さんとアイドルたちの実力差もそんな感じだしな。
だからなんの問題もない。
今回の仕事は、普通に【商人】として働き、普通に帰るだけの、簡単なお仕事なのだ。
たまにはそういう仕事があってもいい。
というか、普通の仕事ってのはそういうものだろう。
毎回毎回血生臭いイベントが起こる方が異常なのであり、異常とはそうそう起こらないからこそ異常と呼ばれるモノなのだからして。
閲覧ありがとうございました
拙作の二巻と、極東救世主伝説の四巻発売中です。
こちらもよろしくお願いします















