十六話 思い込みって怖い
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彼女を勧誘したところ、なんか西川さんが「おぉ、おぉ、お熱いのぉ!」なんて囃し立ててきたので、周囲がなにやら誤解をしていることには気が付いた。
だが、もちろん俺にそんな意図はない。
彼女を勧誘したのは、単純に戦力として欲しいからである。
大前提として、俺の最終目的は『ダンジョンの最下層を攻略すること』だ。
正確には『俺の身に起こったタイムリ-プ的な現象の要因を突き止め、再度リープすることを防ぐ』というモノであり、そのための手段として思いついたのが、ダンジョンの攻略であった。
よって、他に原因となりそうなモノが判明したならそっちを優先するつもりなのだが、現状そんなモノに心当たりがないため、ダンジョンに意識を向けている次第。
ここまでは、まだいい。
目的も手段も、そこに至るまでの道のりもはっきりしている。
しかし、問題がないわけでもない。
細かい問題はさておくとして、最大の問題は『現在の日本には本気でダンジョンの最深部まで挑もうとする人間などいないという現実』である。
具体的には、現時点で俺と一緒に最下層に挑んでくれそうな探索者は奥野だけという有様なのだ。
うん、まぁ、な。
自他ともに認める世界最強の探索者パーティーこと【ギルドナイト】でさえ五〇階層に到達していない今、推定一〇〇階層を本気で目指せる人間がいないのは当然と言えば当然のこと。
それ以外にも、そもそもの話として多くの探索者がダンジョンに潜っているのは、ダンジョンでしか取れないアイテムを得たり、レベルアップで自分を強化するためである。
身近にいる例を挙げるとすれば、但馬さんがわかりやすい。
彼の望みはあくまで”藤本興業が栄えること”であり、それ以上でもそれ以下でもない。
よって、彼は龍星会がAランクに上がり、税制の優遇やら素材の確保やらで安定した時点で満足してしまう可能性が極めて高い。
というか、確実に満足するだろう。
なんなら今でも満足している節がある。
もちろん、どの業界においても停滞と没落がイコールで繋がっていることを理解はしているので、探索の手を緩めることはないだろうが、その反面、安定と停滞の違いも理解しているため、命を賭けて最先端に挑むようなハングリーさを期待することはできなくなる。
で、大抵の探索者は但馬さんと同じようなマインドでダンジョンに潜っているため、率先して最下層に行こうとする俺とは方向性が違うのである。
そういう意味では、ダンジョン攻略ガチ勢の極みしかいなかった【ギルドナイト】は、特別な集団なのだろう。
まぁ、連中は連中でそれぞれが抱えた我欲に従っただけとも言えるが、それはそれ。
奥野に関しては、まぁアレだ。
強制参加。
今更逃がす気はないし、奥野も逃げる気はないようなので無問題。
奥野の精神状態はさておくとして、重要なのは、彼女以外に俺と一緒にダンジョンを攻略してくれるメンバーがいないってことだ。
しょうがないことではある。
誰だって命は惜しいからな。
また、ステータスの件もある。
俺が但馬さんと出会った時点で、彼のレベルは二八であった。
そこから二〇%増の指輪を装備して六レベルくらい上げ、先日五〇%増の指輪を装備してから三レベルくらい上がったはずなので、現時点のレベルは三七となる。
決して低いわけではない。
むしろレベル差があるが故に及ばない【ギルドナイト】を除けば、世界でも指折りの探索者と言っても過言ではない程度には強い。
このまま成長すれば、往年の【ギルドナイト】を上回るのは確実だ。
本気で鍛えたいなら成長度を倍化させる指輪を貸してもいいとさえ思っている。
そうなれば、但馬さんは俺たち以外に誰にも負けない探索者になれるだろう。
しかし、それでも最下層まで通用するかどうかは微妙なところだと思っている。
それは何故か?
これから彼がどれだけ強くなろうとも、今後現れるであろうレベル一から成長率を倍加させる指輪を装備して鍛えた探索者には勝てないからだ。
その事実に加えて、あの外道の巣窟であるギルドの連中が”世界の悪意を凝縮させた存在”と評するダンジョンが、五〇階層で”成長率を倍加させる指輪”を出現させた意味を考えれば、答えは出る。
先人が我欲を捨てて後輩に委ねることができるか否か。
それが一つの答えなのだと思う。
なので、理想としてはレベル一から成長率を倍加させる指輪を装備させて鍛えた探索者で揃えたいところなのだが……これはまぁ信用の問題で不可能なので、除外するとして。
最低でもレベル一〇から二〇くらいまで五〇%上昇の指輪を装備してレベリングを行い、その後に成長率を倍化させる指輪を装備して鍛えたメンバーで固めたいと思っている。
これにも一応根拠はある。
それは、一五階層の宝箱に二〇%上昇させる指輪が出現し、四〇階層を単独クリアした際に成長率を五〇%上昇させる指輪が出現したことだ。
これらのことから、最初から倍化させる指輪を装備させるのではなく、段階的に成長させることでも大丈夫、と考えることもできるのではなかろうか?
そうこうして、色々と小細工を重ねた結果、六〇階以降の探索に於いて想定し得るどんな状況でも対処できる程度の力を持たせた上で、裏切られても簡単に対処できるという、絶妙なバランスを保てるのではないかと考えた次第である。
で、以上のことを前提にした上で、シータさんである。
今のレベルは一〇くらいとのことなので、これから成長率を倍化させる指輪を装備させても対処可能。
また立場上、個人の感情よりも国益に沿うことが求められているので、率先してダンジョンの最先端に挑もうとする人間から自発的に離れる可能性は極めて低い(【ベスティア】は『絶対に離れるな!』と厳命するはずだ)。
人間性と能力に関しては、個人的な事情でそれなりに知っている。
当然、ギルドや日本政府の差し金を疑う必要はない。
むしろ彼女がいることで連中の干渉を防ぐことができる。
その分インドネシアからの干渉があるかもしれないが、主導権はこちらにある上に、彼女一人で出来ることなど高が知れているので、問題なし。
はい。
意欲、性格、能力、将来性、背後関係、オールクリア。
こんなにも俺のパーティーメンバーにふさわしい人材が他にいるだろうか?
いや、いない(反語)。
三人目は彼女で決まり!
というわけだ。
切岸さん?
あの子は手に入れた素材を自分たちで加工するために雇った子であって、探索要員としての活躍は求めていないので、あしからず。
ただまぁ、今のところ秘密を共有できるメンバーもいないので、現時点で俺が想定している探索者パーティーは以下のようになる。
メイン 俺:奥野:シータさん(NEW!)
サブ 但馬さん:切岸さん:西川さん(NEW!)
さらっと西川さんも巻き込まれているが、彼としても俺たちに差を付けられては困るだろうから、ある程度までは率先して参加してくれるものと思われる。
で、将来的には俺の妹や奥野の妹、さらには藤本興業の娘さんである紗希嬢を加えて探索に向かうことになりそうだ。
俺の妹や奥野の妹は国やギルドに狙われないように保護する意味もあるので、メンバーに加えることは確定している。
紗希嬢に関しても、龍星会やその親会社である藤本興業が裏切らないように人質……もとい、ギルドの連中や商売敵に狙われても大丈夫なように保護しなきゃいけないので、最低限のレベリングは施す必要がある。
現時点で但馬さんに五〇%上昇の指輪を渡しているからな。
来年彼女が探索者になったら、但馬さんは絶対にこれを使わせるはずだし。
強化されたお嬢さんを単独で放り出すことなどありえない。
抱え込む方が自然だろう。
それを考えれば西川さんが大事にしている霧谷組のお嬢さんも関わってきそうだが……今のところは何も言われていないので、放置させていただく。
西川さんから何かを言いたそうな視線を感じる?
知らん。
人間、言葉にしないと伝わらないのだからして。
「そういうわけで、探索者としての貴女に力を貸していただきたいと思っているんです。力を貸してもらえませんか?」
必殺の”誠心誠意マゴコロを込めたお願い”!
相手は強制的に頷く! ……わけもなく。
「……え? どういうわけ?」
首を傾げながら本気で『わけがわからないよ』って顔をしたシータさんを見て、今更ながら”この時期の彼女は、俺が知っている彼女ほど日本語に堪能ではない”ってことに気が付いたのであった。
閲覧ありがとうございました
そろそろ探索します















