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十四話 価値観は人それぞれ

本日二話投稿してます。

「ま、えぇんやない? 元々お嬢の頼みでもあるし、二〇階層程度であれば知られて困ることもないしな」


西川さんの出した答えは、”そのまま連れて行く”であった。


まぁ確かに。

今の彼女はあくまで情報を盗むなり、繋がりを作るなりを目的として派遣されてきたスパイであり、立場的にも能力的にも西川さんや彼が大事にしているお嬢さんに直接危害を加えるようなことができる存在ではない。


ならば、インドネシアに貸しを作る意味でも現状維持を優先するのは、社会人として当然の判断と言えるだろう。


問題があるとすれば、彼女を含めた学生諸君を護衛する面々、つまり俺たち龍星会の負担が増えることだが、そちらに関しても。


「俺らもインドネシアとの伝手は欲しいからな。二〇階層程度なら問題ねぇだろ」


という、但馬さんの鶴の一声によって、シータさんの同行は認められることとなった。


シータさんからすれば正体がバレた上に、借りを作る形となったため上司にドヤされるかもしれないが、組織としてはAランククランとの繋がりを得られたので、プラスマイナスゼロ……むしろプラスに傾いていると言える、のではなかろうか。


尤も、これらはあくまで彼女が所属しているインドネシアの影響力があってこそ得られたモノであり、シータさん個人の能力で解決したわけではないため、彼女の個人評価がアレなことになりそうではあるが……まぁ、知らない仲でもなし。


シータさんのためにも、彼女の上司が評価せざるを得ない”お土産”でも包もうと思う次第である。


もちろん”お土産”は彼女だけではなく、彼女との縁を繋いでくれた西川さんにも渡すつもりだが。


というか、今から渡すが。


「西川さん。ダンジョンに潜る前に、コレを差し上げます」


「ん? なんや、指輪?」


「そいつは!?」


「お、おぉ。どうした但馬ちゃん、いきなり叫んで、びっくりするやないか」


いきなり渡された指輪に微妙な顔をする西川さんと、その指輪を見て驚愕する但馬さんと、その但馬さんのリアクションに驚く西川さんの図である。


しかし、但馬さんが驚くのも当然だろう。


なにせ俺が差し出したるは成長率を+50%上昇させる指輪なのだから。


本当は20%で行こうと思ったが、インパクトって意味ではこっちの方が大きいからな。

後から+50%の指輪があると知られて不興を買うのもよくないし、なにより西川さんや鬼神会を巻き込むならこっちの方が良いと判断したが故の決断である。


最近までその存在を知らなかった但馬さんからすれば「どうして他所にそんな貴重品を……」と思うかもしれないが、これは龍星会のモノではなく俺個人のモノなので、文句は言わせない。


と言うか、俺のアイテムがきっかけで彼らと共闘できるようになると考えたら、文句を言われるどころか感謝して欲しいまである。


なお、半強制的に巻き込まれる形になった西川さんであれば、俺に文句を言う権利はあると思う。

思うが、それを受け入れるかどうかは別の話である。


「よく見たら但馬ちゃんも同じの着けとるやないか。なんや、これ、そんなに凄いんか?」


「凄いというかだなぁ……」


さて、いまだによくわかってない顔をしている西川さんには申し訳ないが、さっさとこちら側に来てもらおう。


「それはですねぇ。レベルアップ時にステータスの成長値を1.5倍してくれる素敵な指輪なんですよ」


「……は?」


「おや、聞こえませんでしたか? それはですねぇ。レベルアップ時にステータスの成長値を1.5倍してくれる素敵な指輪なんですよ」


「……は?」


「まぁ、そうなるよな」


再度固まる西川さんと、額に手を当てながら頭を振る但馬さん。

さっきから思ってたが、この二人、仲良いな。

リアクションも似てるし。


二人の共通点を見つけて内心でほっこりすること数秒。


「いやいやいやいや」


なんと推定アラフォーの西川さん。

急にいやいや期に入ってしまったようだ。


「いや? あぁ、いりませんか? なら返してください」


「いらんわけないやろが!」


かわいい子供でもアレなのに、いい大人がやったら殺意しか湧かんな……なんて思いつつ、あえて挑発気味に確認したところ、返ってきたのは拒絶の意。


そりゃそうだ。


探索者がどうこう以前の話として、但馬さんや西川さんは暴力の世界に生きてきた男だ。


それは『力』の意味を、もっと言えば、それが有る場合にできることや、それが無いせいで失うモノがあることを、誰よりも理解していると言っても過言ではない。


「……なるほどな。これが最近但馬ちゃんらが急に強くなった理由ってわけか?」


「まぁ、な」


「納得や。で、その様子やとコレは但馬ちゃんのじゃなくて、兄さんのモンなんか?」


「それも当たりだ」


「なるほどのぉ……」


そんな彼らに『力』の源泉たるステータスを劇的に向上させるアイテムを見せれば、食いつかないわけがないわけで。


それが、市場に出ていない、見たことも聞いたこともないモノであれば、尚更手放せるわけがない。


知らなければどうとでもなるが、知ってしまえば手を出さずにはいられない魔性のアイテム。

麻薬? いいえ、指輪です。

でも、この指輪はただの指輪ではない。

『力』を欲する者であれば誰でも釣れる”素敵な餌”なのである。


そして素敵な餌に魅せられた魚の末路はすでに決まっている。


「そんで兄さん。わざわざこうして渡してきたってことは、自慢するだけやないやろ? コレを俺にくれる条件は? コレのためなら大抵のことは受け入れるで。金でも女でも欲しいモン言ってくれや」


そう、餌の先に返し針が付いているとわかっていても、食わずにはいられないのである。


力こそ正義。

なんて単純で、なんて悲しい生態なのだろうか。

俺としては助かるので文句はないが。


とはいえ、現時点で俺が彼らに望むことはあんまりない。


せいぜいがAランククランとの繋がり、もっと言えば龍星会が持つソレとは違う販路くらいだろうか。

彼らの伝手があれば、今まで以上に魔石や素材などを捌けるようになるだろう。

その点は申し分ない。


しかし逆に言えばそれ以上の価値はないともいえる。

そもそも、俺がどうこう言わなくとも龍星会と提携を結ぶのは確定事項みたいなものだしな。


で、今の俺は金には困ってないし、異性に手を出す余裕もない。


ならば、何を見返りとして求めるか。

それは当然。


「俺が個人的に欲しいのは『あなた達の協力』ですかねぇ」


「おん?」


よくわからない、という表情を浮かべる西川さん。


そりゃそうだろう。


与えたモノに対する対価があやふやすぎるからな。

しかし、俺は別に彼らを煙に巻こうとしているわけではない。


切実に、彼らの力が欲しいのだ。


なにせ国とつながった巨大な組織というのはそれだけで厄介なモノだ。

俺個人であればなんとでもなるが、俺の家族が狙われたらどうしようもない。


故に個人的に世界一の強さを得た今でも、ギルドや政府に対して警戒を解くことはできないのである。


そこで彼らだ。

Aランククランが持つ社会的信用は伊達ではない。

入学したばかりのころ、Bランククランの龍星会が、その名前だけで同級生らの言動を抑えることができたように、彼らの後ろ盾があればそんじょそこらの連中からの横やりを防ぐことができるのである。



もちろん今回の任務で龍星会もその立場を得ることになるだろう。

しかしこれからAランクに昇格する、いわゆるぽっと出の我々よりも、前々からAランクとして活動している彼らの方が積み上げてきたモノは大きいわけで。


龍星会だけでは護れないモノも、彼らと一緒なら護れるかもしれない。

龍星会だけでは見えないモノも、彼らと一緒なら見えるかもしれない。

他にも、龍星会だけではできないことも、彼らと一緒ならできるかもしれない。


その、あやふやだが確かに存在する幾多の”かもしれない”こそが、今の俺が最も欲している”安全”につながるファクターとして機能するのだ。


幸いなことに、ここにはもう一つのファクターもある。


「と、いうわけで、シータさん」

「ハイ!?」

「アナタたちも、コレ、欲しいでしょ?」

「エェェェェェェェ!?」


安いもんだ。

Aランククランとインドネシア一国を釣れるなら、指輪の一つや二つくらい。


閲覧ありがとうございました。

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