7話 最強へと至る根拠
『最強の探索者』
程度の差はあれど、探索者としての資格を得た者なら誰もが一度はその夢をみる。
だが、誰もがそれをどこかで諦めていく。
得られたジョブが悪かったとき。
魔物との戦いで痛みを知ったとき。
自分よりはるかに格上の探索者に出会ったとき。
その格上の探索者が重傷を負った、ないし死亡したと聞かされたとき。
様々な理由で諦めていく。
「それが大人になることだ」と人はいう。
「そんなのを目指してどうする」と人はいう。
「わざわざ痛い思いをしてまで目指すものではない」と人はいう。
全く以てその通り。
普通に暮らしていくだけなら最強を目指す必要はない。
そも、ダンジョンの最先端を歩むということは、他人に代わって未知の領域に足を運ぶということだ。
後からくる人間の為に道を造るということだ。
それは気高い行為なのかもしれない。
尊敬に値する行為なのかもしれない。
しかし、同時にこう思われるのだ。
「わざわざそんな危険なことをする必要がどこにある?」と。
「誰かにカナリア役をやらせ、あとから安全になったところを進めばいいではないか?」と。
「安全に、そして確実に利益を上げる。それが賢い探索者というものではないか?」と。
全く以てその通り。
馬鹿では最強に至れない。
最強とは知と勇を兼備した存在なのだ。
故に、賢く生きようとする者の意見はなんら間違っていない。
しかし、しかしだ。
未知に挑み、それを踏破した者と、その者が歩んだ道を歩くだけの者。
戦えばどちらが勝つだろうか?
答えは当然……。
―――
「ステータス値が高い方、なんだよなぁ」
情報収集の一環としてテレビをつけたら偶然『日本最強の探索者特集!』というのをやっていたから見てみたのだが、なんというか、こう、もにょってしまった。
知り合いが美化されているのがここまで気恥ずかしいものだったとは、これが共感性羞恥というものか。なんとも知りたくもないことを知ってしまったものである。
それはそれとして。
この放送でいくつかの事実を確認できたことは僥倖と言うべきだろう。
まずギルドナイトの面々について。
彼らはギルドに所属している探索者の中で、最もレベルが高い五人の探索者で構成されている。
現在のメンバーは、五人。
レベル四五の【剣聖】
レベル四四の【聖騎士】
レベル四四の【上忍】
レベル四三の【弓聖】
レベル四三の【大魔導士】
となっており、記憶の中にあるメンバーと違いはなかった。
つまりこの時点で、彼らが巻き戻りに気付いている可能性はゼロだということが判明した。
なぜなら、もし彼らの誰かに記憶があったのであれば、必ず俺を確保しようと動いているはずだからだ。
少なくとも俺が逃げないよう囲い込むか、最低でも監視を付けるだろう。
それがないということは、即ち彼らは俺の存在を認知していない。
つまり俺と同じような状況にないということがわかる。
同じ理由で、俺を利用して稼いでいたギルドの連中や幹部たち、さらにはそのおこぼれを貰っていたと思われる官僚や政治家やギルドと取引のあった会社の役員なども、俺のことを認知していないということが判明したわけだ。
俺の正体を知っている面々が俺のことを覚えていないのであれば好都合。
こちらも遠慮なく最強を目指せるというものだ。
で、最強を目指すためにどうするかといえば……さっきぼそっと言ったが、まずは『ステータス値を上昇させる』ことが大事となる。
そう、探索者にとってなにより重要なのはステータスなのだ。
「経験? スキル? そんなの関係ねぇ!」
とまでは言わない。
なぜなら、ステータスの値が同程度、もしくは多少の差がある程度であれば、スキルや個人の能力によってステータス差を覆すことは決して難しいことではないからだ。
しかし、レベルが一〇程度離れてしまえば、大抵はステータス差で押し潰されてしまう。
どれだけ技術に秀でた達人であっても、レベル一ではレベル一〇の素人に敵わない。
生き物としての格の違い。そういう世界の話になるのだ。
よって、本気で最強の探索者を目指すのであれば、第一にステータス値、第二にレベル、第三にスキルを磨かなくてはならない。
ここで重要になるのが『ステータス値を一番最初に挙げたこと』だ。
基本的に、ステータス値はレベルアップ時にしか上がらない。
だから、レベルを上げれば強くなる。
ダンジョンの研究が進む前はそう考える者も少なくなかった。
しかし、その考えはすぐに改められることになる。
なぜなら研究の結果『養殖モノ』は弱いと判明したからだ。
基本的なこととして、レベルアップ時に上昇するステータス値には、レベルアップするまでにとった行動によってランダムで上昇するものがある。
例を挙げれば、物理攻撃を主体としていたらSTRにプラス補正が、魔法攻撃を主体としていたらMAGにプラス補正が掛かる。
防御も同様で、盾による防御を主体としていればDEFに、回避を主体としていればSPDやDEXに補正が掛かるのである。
それはマイナスも然りであった。
どういうことかというと、研究の結果パワーレベリング――自分は戦わず、周囲の人間に戦わせてレベルを上げる行為――を行った場合、レベルアップ時に上昇するはずの値が減少することが判明したのである。
しかも、プラスの補正はランダムで三つまでしかないのに対し、減少する場合は全てのステータスが対象になるのだ。
つまり旅人の場合、本来レベルアップに伴いオール一〇プラス三の補正が加わって合計八三上昇するはずが、パワーレベリングを行った場合の上昇値はそれぞれがオール九で補正無し、合計上昇値が七二になってしまうのである。
楽をしたらその分弱体化する。
ある意味で分かりやすいルールであった。
……ギルド所属の研究者ども。こうなることは実験する前からわかっていたよな?
何が「旅人の可能性を鑑みれば影響を受けない可能性がある」だ。
しっかり影響受けたじゃねぇか。
他人事だからって好き勝手やりやがって。
人のステータスで遊んだやつらは許さない。絶対にだ。
ギルド関係のクソ共については後で散々分からせるとして。
楽をしたら弱体化するのであれば、その反対。つまり『万能職である旅人を持つ人間が試行錯誤してレベルアップに勤しめば最強になれるのでは?』 という話になるのだが、現実はそこまで甘くない。
なぜかというと、どれだけ試行錯誤しようとも、結局のところステータス上昇値はジョブに大きく左右されるということに変わりはないからだ。
確かに旅人は他のジョブと比べても優秀だ。
万能職と言われるにふさわしいポテンシャルを秘めている。
しかし、悲しいかな。旅人は所詮旅人。
万能ではあっても最強ではなかった。
そもそもレベル一になったばかりの探索者が得る剣士や騎士といったジョブが、一般に基本職と呼ばれているのはなぜか。
答えは簡単。基本職はレベルが三〇になると上級職へと昇華するからだ。
上級があるからこその基本。とても分かりやすい答えである。
この上級職は、レベル三〇になった際のステータスによって昇華先が決まるといわれている。
たとえば剣士には、剣聖や剣豪というジョブが存在する。
剣聖はSPDやDEXが高い剣士が、剣豪はSTRが高い剣士がなりやすいらしい。
この点でも、レベルアップ時に得られる補正が大きな影響を与えているということがわかるだろう。
気になるステータス上昇値についてだが、剣豪については身近にいなかったため知らないが、剣聖についてはそこそこ知っている。
なので参考までに基本職である剣士と上級職である剣聖のステータス上昇値を並べてみよう。
剣聖 剣士
STR(攻撃力) 20 10
DEF(防御力) 10 6
VIT(体力) 15 8
MEN(精神力) 10 6
SPD(敏捷) 15 7
DEX(器用) 14 7
MAG(魔法攻撃力) 5 0
REG(魔法防御力) 8 3
このように、剣士の上昇値が合計四七なのに対し剣聖のそれは九七。ほぼ倍である。
これにプラス三の補正が付くので、合計すると上昇値は驚きの一〇〇となる。
旅人の八三を大きく凌ぐ数値となるのがお分かりいただけるだろう。
では旅人の上級職はどうなのかというと……なんと旅人には上級職が存在しなかった。
いや、正確には、レベルが六〇を超えても上級職に昇華しなかったので、研究者が「旅人には上級職はない」と結論付けていただけであり、必ずしも上級職がないと確定したわけではないのだが、少なくとも俺のジョブはずっと旅人のままであった。
このせいで、序盤は旅人が有利だが、レベルが上がるごとに特化型との差は開いていき、お互いのレベル五〇くらいになったときには、間違っても剣聖と正面から戦おうとは思えないほど彼我の差は開いていた。
他のジョブも同じような感じなので、旅人の俺はただレベルを上げるだけでは最強に辿り着くことはできない。
それらを理解した上で、どうやって俺が最強を目指すのかといえば、なんのことはない。
チートを使うのだ。
我がルームの中には、当時世界最強を誇っていた探索者が使っていたモノが大量に存在しているのだ。
せっかくあるモノを使わない手はない。
で、文字通り売るほどあるチートのうち、今回使うチートはこちら。
その名も【ステータス成長率倍化の指輪】だ。
読んで字のごとく”レベルアップ時に上昇するステータス値を倍化させる”という、チートと呼ぶにふさわしい効果をもつ指輪である。
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