3話 チート持ちの不遇職 ①
説明会です
一言で商人系と言っても、その中には武器商人や防具商人など様々な種類の【商人】が含まれている。
彼らに共通しているのは、最初に覚えるスキルが【アイテムボックス】という、収納系スキルであることだ。
このスキルは魔法によって特殊な空間を創造し、その中に物品を収納させることが可能となるスキルである。
かつて流行っていたとされる小説やアニメなどではチートの代名詞とさえ呼ばれていたスキルでもある。
ただまぁ、当然というべきだろうが、創作物にて描かれていたような万能さはなかった。
収納できる空間には上限がある、内部の時間も外部と同様に経過する、中に入れたモノを自動でリストアップしたり、解体したりすることはできない、生物は入れられないetc。
纏めてしまえば単純に物品を収納できるだけのスキルであった。
それでもその有用性が薄れることはなかった。
探索に必要な水や食料、予備の装備などに始まり、ダンジョンの中でしか採取できない素材や魔物が落とすドロップアイテムなど、いくらでも収納すべきモノがあったからだ。
よってダンジョンが出現してから数年間は、商人は当たり職として重宝されていた。
風向きが変わったのは、ダンジョンの出現から五年ほど経ったころだろうか。
各国が混乱から立ち直るにつれて、商人の危険性が取りざたされるようになったのだ。
商人の危険性その一、アイテムボックス。
言うまでもないことだが、アイテムボックスがあれば、なんでも運べてしまう。
それはダンジョンで産出した貴重な資源だけではない。違法薬物でも、銃火器でも、爆発物でも、貴金属でも、核燃料でも、死体でも。本当の意味でなんでも運べるのである。
そんなの、犯罪に使われないはずがないではないか。
事実、後ろ暗いことを生業としている者たちはアイテムボックスを大いに活用していたし、そうでなくとも商人系のジョブを持った探索者の多くが、万引きのような軽犯罪に利用していたという事実もあった。
もちろん誰も彼もが犯罪行為に手を染めていたわけではないが、そもそも犯罪に使えるということ自体が、周囲に警戒心を抱かせるのには十分すぎる説得力を有していたのである。
ときには有識者を名乗る人間から「普段から使うのは問題だが、ダンジョンから産出される資源を持ち帰るだけなら問題ないのではないか? だからスキルの使用をダンジョンだけに限ればどうか」という意見もあったらしい。
しかしダンジョンでも問題が発生してしまう。
例を挙げればきりがないが、一番多かったのがパーティー内でドロップアイテムや素材のネコババを疑われるようになったことだろうか。
なにせアイテムボックスの中身は本人以外誰にも確かめることができないのだ。
悪魔の証明とでも言おうか。
商人が『これで最後です』といったところで、パーティーを組んでいたメンバーのうち、誰か一人でも「少なくないか?」と疑ってしまえば、その疑いを晴らすことは本人を含めて誰にもできないのである。
最初は気のせいで済むかもしれない。
しかし身体的・金銭的な余裕が無くなるにつれてその疑いは際限なく大きくなる。
積み重なった不満は不信感となり、時間が経過するごとにパーティー内の空気が悪くなる。
最終的には『信用できない』といって追放されることになるのだ。
いや、円満に追放されるだけならまだマシで、暴行を加えられるのは当たり前。なんなら冤罪だとわかっていながら『商人が盗んだ!』と告発し、損害賠償を求めるケースが相次いだという。
実際にそれで借金を背負わされた探索者も少なくないというのだから、人の悪意と欲とは恐ろしいものだ。
とはいえ、それだけで社会がアイテムボックスという有用極まりないスキルを持つ人材を虐げるようになったわけではない。
他にも理由があるのだ。社会が商人を排斥する要因となったものが。
それが商人の危険性その二に挙げられるモノ。第二のスキル【鑑定】である。
商人は一定のレベルと経験を積むことで、アイテムボックスに並ぶチートと謳われるこのスキルを習得することができる。
当初は『謎に包まれたダンジョン産のアイテムの効果を確認することができるスキル』としてギルドや研究施設から重用されたスキルだが、このスキルが観ることができたのはそれだけではなかった。
探索者に向けた場合、名前・ジョブ・レベルが明かされることが判明した。
時に人間を相手にすることもある探索者にとって、ジョブとレベルが判明するのは死活問題である。
これにより同業者から嫌われた。
探索者ではない者を観た場合はどうなるかというと、結論から言えばもっと酷かった。
名前と年齢はもちろんのこと、身長・体重・体脂肪率に加え、スリーサイズから下着の色、果てはバッグや財布の中身まで、文字通り丸裸にされてしまうのである。
プライバシーも何もあったものではない。
そんな能力を持った人間を野放しにするなんてありえないと、社会の大多数を占める一般人に嫌われるのは当然のことであった。
その嫌われ具合は、鑑定の性能が明らかになった途端に世界中でその原理の解明と妨害手段の構築が急がれたことでも明らかだろう。
研究の結果『鑑定は探索者が持つ”不思議な力”を飛ばして相手を探る能力である、それゆえその”不思議な力”を乱すことができれば封じることができる』と結論付けられた。
それを受けて各国政府は”不思議な力”を乱すための装置を早急に開発、設置することとなった。
この間僅か一年と数か月であったという。
こうして、問題自体は極めて短期間で収束したのだが、装置の開発や設置に掛かった費用や労力。それまでに積み重なった悪評が消えることはなく。
結果として商人の立場はより一層悪いものとなってしまったのである。
アイテムボックスも駄目。
鑑定も駄目。
では探索者に求められる最大の仕事である『魔物との戦闘や資源の採取』はどうかというと、こちらも駄目だった。
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