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19話 頭ギルドは嫌だ頭ギルドは嫌だ頭ギルドは嫌だ

地上に戻ってからやるべきことを考えていると、遠くから ズドォォォォン! と一際激しい音が聞こえてきた。


「お、始まったか」


この階層で切岸さんがあんな音を立てて戦うような魔物はボスの野槌くらいしかいない。

また、戦闘が始まったということは、切岸さんは野槌からの奇襲を受けずに済んだということだ。


奇襲を受けて咥内に取り込まれた結果、装備品が牙で削られたり全身が消化液でベトベトになったり、脱出するために内部から爆散させた野槌の血肉が全身に降りかからずに済んだようで何よりである。


一応、野槌の斃し方の一つとして”あえて飲み込まれて、内部からの攻撃でぶち殺す”という方法もあるにはある。


この方法の長所としては、敵の内部にいるため回避や防御をされる心配はないことと、内臓という敵の急所を直接狙えるおかげで一撃で仕留められる可能性が高いこと、なぜか牙や肉片がドロップアイテムとして残り易いことなどが挙げられている。


短所としては、牙や消化液の攻撃に耐えきれなければ死ぬことと、油断すれば窒息死すること、あと単純に臭いことが挙げられる。


尚、ドロップアイテムに関しては野槌に限った話ではなく、サイズ的に人間を飲み込める魔物のほとんどで同じ現象が確認されているため、探索者界隈では”勇気ある探索者へのご褒美”という意見と、”探索者を穢そうとするダンジョンの嫌がらせ”という意見がぶつかっているそうな。


俺としては、装備品に変な病原菌が残っても困るので血糊が乾く前に洗わないといけないし、どの魔物を斃しても絶対に臭くなるので、ほぼ確実にダンジョンからの嫌がらせだと思っているが、臭いよりもドロップアイテムを重視する人がいることも知っているので、意見を求められた際は『大きめの魔物を内部から破壊して殺す方法は、手っ取り早く倒せはするし、ドロップアイテムが手に入り易くなるものの、その後が色々と面倒なので、普通に斃せるなら普通に斃した方が良いと思います』と答えることにしているが、今はそんな主義主張よりも重要なことがあったので、パーティー内で共有しようと思う。


ボスである野槌の斃し方よりも重要なこと、それは、この階層に野槌がいたことだ。


「先ほども言いましたが、野槌は素材の希少さと、奇襲を防ぐため、優先的に討伐することが推奨されています。よって特別な事情があって斃せない場合を除き、基本的に三〇階層に到達したパーティーは野槌を斃します」


「うん、そうらしいね」


「そうなんです。で、ダンジョンの魔物は一定期間で復活することは知っていますね?」


「知ってるよー」

「はい!」


「大変よろしい」


魔物は生殖活動で増えるわけではなく、ダンジョン内に漂う何らかの力によって生成されていることが判明している。


そのせいか、魔物は趣味――もしくは狩りの練習――として人間を嬲ることはあるし、探索者が持つ魔力的なナニカを吸収するためか、人間を食料にすることもあるのだが、繁殖用の道具として使うことはないとされている。


一応性器があることは確認されているので、同族同士で性交している可能性は否定されていないが、幸か不幸かその瞬間を目撃したことのある探索者はいない。


尚、特殊な方法で切り取られた魔物の性器をつかって人間相手にあれこれする変態や、魔物を性的に興奮させて人間相手に性的なあれこれをするよう仕向ける研究者は結構いたことを追記しておく。


本能に任せて上下前後に動く魔物と、泣き叫ぶ探索者。

それを無言で観察する研究者どもと、それを黙って見ていることしかできない護衛役の俺。


……嫌な、事案だった。


思い出すのも嫌な情報は記憶の彼方に飛ばすとして、野槌の話を続けよう。


「野槌はボスなせいか、復活にかかる時間が他の魔物よりも長いんです。普通の魔物は半日、長くても一日あれば再度出現するのに対し、野槌は七日ほどかかるとされています」


「へぇ~」


「このことから”ここ最近で我々よりも先行してダンジョンに挑んでいる探索者――それも野槌を討伐できるレベルの強者――はいない可能性が極めて高い”と推察できます」


「なるほど!」


言葉の意味を正しく理解して明るい声を出すシータさん。


そうなんだよな。

どこの国でも、ダンジョンで最も恐ろしい敵は、魔物ではなく人間とされているんだよな。


なにせ全員が同じ目的で危険地帯に挑んでいるライバルなのだ。


命懸けで素材を採取している最中に他の連中がソレを横取りしに来たら、殺すしかないよなぁ?


例外があるとすれば、お互いのレベル差が開きすぎて争いに発展する余地がない場合や、片方が魔物などにやられて接触時には甚大な被害を受けていた場合くらいだろう。


基本的には「見逃してほしかったらお前らのアイテムを全部よこせ(アイテムを差し出したら見逃すとは言っていない)」だの「殺して奪い取る」だのといった蛮族染みた事案が横行している探索者界隈だが、極稀に余裕と人の心を持った甘ちゃんが慈悲をみせることがあるのだ。


ただし、最初から相手にそういった例外を求めるのは馬鹿のすることなので、基本的に同じ階層に挑む探索者がいた場合、ほぼ全てを自分たちと同格の敵として見るのが基本中の基本とされている。


なんともサツバツとした話だが、人を信じて致命傷を負う道よりも、信じられぬと疑って無傷で生き延びる道を選ぶのは当たり前のことなのだ。


自分だけの命ではないのだから。


界隈全体がそんな感じなので、野槌の存在によって得られた『先発している他のパーティーがいない可能性が高い』という情報は、人が良さそうなシータさんが人目を憚らずに喜んだとしても、それを”意外”と思われず、むしろ”当たり前”と受け止められる程度には有益な情報なのだ。


一人でボスと戦っている切岸さんに対する心配?


そんなものはない。


繰り返して伝えているように、油断さえしなければ彼女が負けることはないのだから。


いざという時には俺も行くし。


「支部長さーん。終わったのでドロップアイテムの回収お願いしまーす」


なんて思っていると、少し離れたところから切岸さんの声が聞こえてきた。

無事に勝利できたようでなによりである。

あえて気にする点があるとすれば、今の彼女のステータスがあっても野槌を斃しきるまで三〇分近くかかったことくらいだろうか。


「少し遅いな」


戦闘にかける時間が長くなれば、それだけ不測の事態に遭遇する確率が上昇する。

具体的には、魔物の増援が発生したり、ダンジョンの罠が出現したりと、探索者にとってマイナスなことしか発生しない。


なので、今後のことを想えば戦闘時間を短縮するよう教育を施すべきだと思っていたのだが。


「いや、一人で三〇分なら十分早いぞ」

「せやな。兄さんは求めるハードルが高すぎるわ」

「そうそう、僕らなんて三人でも一時間以上かかるよ」


「そうですか? ……皆さんが言うならそうなのかもしれませんね」


奥野なら一〇分で終わったと思うが……いや、違うか。


切岸さんは【鍛冶師】であって単独で戦える前衛職じゃない。

ならば戦闘に時間がかかるのも仕方がないこと、なのかもしれない。


そもそも、ダンジョンの探索において俺が持っている知識は、自分に都合の悪いことをひた隠すギルドと、当時から世界最強であった【ギルドナイト】の連中から教え込まれたモノだけだ。

間違っても、世間一般で常識とされる知識ではないからな。


なればこそ、俺の考えは異端なのだと認識しなくてはならない。


まぁ普通に考えれば、勝ったのにぐちぐち言われたら気分悪くなるもんな。


俺にも覚えがある。


自分で戦えないギルドの職員ごときにグチグチ言われたら殺意が湧くし、相手が自分よりも強いヤツらだとしても、ことある毎に「まぁこんなもんか」とか「もっと早くできただろう」とか「待たせすぎ」とか言われるとイライラするもんだ。


報酬もシケてたし。

何度「文句を言いたいなら自分でやるか、それなりの報酬を支払え」と言いかけたことか。


「……あれ?」


もしかして今の俺って、俺から言われた仕事をきちんと果たした切岸さんにケチをつけようとしていた、のか?


いやいやいや。


俺はちゃんと休みをあげているし、家族とも会わせているし、報酬もそれなりに支払っているから、連中とは違うよな?


ちょっと評価が辛いだけで、評価はしているもんな?

だから俺は悪くねぇ! と言いたいところだが、駄目だ。

自分をごまかせん。


重要なのは俺がどう思うかではなく、切岸さんがどう思うかだもんな。


使用者側がどんなつもりだったとしても、受け手がセクハラだと思えばセクハラだし、モラハラだと思えばモラハラだもんな。


危ないところだった。


もう少しで頭ギルドの最低最悪上司になるところだった。


よし、時間どうこうは気にしないことにして、とりあえず褒めよう。


褒めて、報酬も奮発しよう。


人使いの荒さからブラック上司扱いされるのはまだしも、成果に対してまともな報酬を支払わないギルドの連中と同列に語られるのは御免だからな。


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