親友で好きな人の好きな人と一緒に帰った
「晃先輩今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう、美玖ちゃん」
「じゃあね、葵」
「うん、じゃあね美玖」
駅に着くと、地下鉄で帰る美玖と鉄道で帰る晃先輩と私で二手に分かれた。
改札を抜けて階段を上がった先のホームは人がまばらで、電車の中もそれは変わらなかった。晃先輩が「座りなよ」と端の席を指した。私がそこに座ると先輩は吊革につかまってその前に立った。
「美玖と話してどうでした?」
「いい子だよね。面白い子し」
「本当いい子で面白い子ですよ」
満更でもない言葉を聞いて胸が痛んだ。二人が付き合う姿を想像したら、もっと苦しくなった。
「最近部活は順調?」
「はい。みんな頑張ってますよ。次こそは絶対県大会行くって張り切ってます」
「その言葉聞いて安心したよ」
「たまに練習見に来てくださいね」
「俺なんかが行って迷惑じゃないかな?」
「みんな喜んでくれると思いますよ」
「本当?じゃあたまに行こうかな」
次の駅に着くと、晃先輩は辺りを見回す。人が通るたびに彼は体を寄せて避けた。数人が乗り込むと電車はまた走り出した。少しの沈黙の後、晃先輩が口を開いた。
「そういえば、祐樹くんから告白されたんだって?」
「え、なんで知ってるんですか?」
「まあ、風の噂でね。それに祐樹、葵ちゃんのことが好きってのバレー部の中じゃ有名だったし」
「そうなんですか?」
「うん。知らなかったの多分葵ちゃんくらいだよ」
「全然知りませんでした」
そんな素振り私には全然見せなかった。思い返してみても、祐樹くんが私のことを好いていると感じた瞬間は思い浮かばないし、私のことを好きな理由も見つからなかった。
「でも、振ったんだって?」
「はい」
「そっか。でもきっと簡単には諦めてくれないかもね」
「そうかもしれません」
――俺、諦めませんから。
私にフラれて坂を駆け上る祐樹くんの背中を思い出した。
しばらく、窓に流れる景色を眺めた。低くなった日差しが時々ビルに隠れて車内が明滅する。電車はそのまましばらく私たちを運んだ。
「じゃあ、私ここなので」
「うん、またね」
最寄り駅に着いて私は電車を降りた。駅のホームに立ち、振り返る。
「今日はごちそうさまでした。あと、もし美玖と付き合うことになったら、絶対幸せにしてあげてくださいね」
「そんな風に思われてないよ」
そう思ってるのはあなただけですよ。そう言おうとしたとき、音を立てて扉が閉じた。
私は会釈をして、窓から見える晃先輩のことを立ち止まって見送った。
きっと二人は結ばれてしまう。そんな予感がした。