予選ー3
スマホに設定していたアラームで目覚めた私は、起きるといつものように、パンをかじりながら朝のアニメを見ていた。人気漫画が原作のアニメを見てから学校へ行くのが、私のいつもの日課だった。
「ほら、遅刻するわよ!」
いつものように、終わりごろのいいタイミングで、母がチャンネルをピッと変える。
「あぁっ!もう、いっつも大丈夫だっていってるじゃん!変えないでよ!」
原作漫画を持っているので、ストーリーは知っているのだが、やはりいいところで変えられると腹が立つ。
私は思わず、声を荒げて母に言った。
「そんなこと言いながら、いっつも遅刻ギリギリでしょうが!さっさと支度して行きなさい!」
「はぁーい…」
そして母に怒られながら、これもまたいつものことなのだが、顔を洗い、髪をセットして、かばんを持って、私は急いで学校へと向かった。
学校の門が見えてきたところで、いつもと様子が違っていたので、私は少し驚いた。
たくさんのレポーターらしき人たちが、わんさか門のあたりにたむろしていて、先生と言い合いをしていたのだ。
「あっ!君もしかして桜井高等学校の生徒かな!?」
いきなり後ろから声をかけられる。
反射的に振り向くと、自分にマイクとカメラを向けられていて驚く。
「え、何……!?」
その時だった。
「本郷!遅刻するぞ、早く学校の中に入りなさい!」
ふと門の方を向くと、鬼クマ先生が仁王立ちしているのが見えた。
「やっば……!」
いつも先生が門を閉める役をしているため、門を閉められると、職員室へそのまま連れていかれて、こってり絞られる羽目になる。
私は慌てて、レポーター達を振り払って校門をくぐった。
「大丈夫か?」
私が門の中に入るとすぐに、鬼クマ先生は門を閉じた。
門の外ではレポーターたちがガヤガヤとカメラに向かって何かを言っている。
「お前も不安だと思うが、説明がすぐにあると思うから、とりあえず、早く教室に行け」
「はぁーい……?」
一体、何のことだ?と意味が分からなかったが、とりあえず、言われた通り、私は教室へと向かった。
教室に着くと、教室内全体も、まるで外のレポーターたちのようにざわついていた。
何が起こっているのかと、首を傾げながら席に着くと、朱美が私の姿を見つけて、駆け寄ってきた。
「葵!見た!?」
「え、何を?」
きょとんとした顔で答えると、朱美はやっぱり、と興奮した面持ちで続けた。
「少し前から休んでた渡辺くん!」
「あぁー……家出少年って噂になってる?」
同学年だが、私とは別のクラスにいる渡辺くん。彼は、数日前から休んでいて、当初は病欠だと言われていたのだが、彼のことで警察が学校に来ていたらしく、みんなの間では、家出して捜索願が出されているせいだ、という噂が流れている少年だ。
「その家出少年がどうかしたの?」
家出少年が帰って来たとか、そんなことぐらいで、ここまで教室がざわつくとは思えなかったし、レポーターが学校に集まるとも思えず、私は朱美にその先を聞くことにした。
「昨日、身元不明の遺体が発見されたってニュースが流れてたのは知ってる?」
「あぁ、確かそんなニュース見た気がする」
私が答えると、朱美は「それなんだけど」と少し声を落として続けた。
「今朝のニュースでしてたんだけどさ。あれさ、あの家出少年がやったんだって!」
「……は?」
言っている意味がわからず、私は思わず眉をひそめた。
「だからぁ、身元不明の遺体!あれね、どうも殺人事件だったみたいで、その容疑者が、渡辺くんらしいの!」
朱美に再度説明されて、その内容に私は驚く。
「えぇ!?……だって、家出くん、そんなことするような感じに見えなかったけど 」
私が言うと、朱美もうーん、と少しだけ眉をひそめた。
「私もさ、最初はそう思ったんだよねー」
うんうん、と朱美が頷く。
「でもさ、なんてかさ、最近多いじゃん?あんなことする人には見えませんでしたーって人が、人殺しちゃったりだったりとか」
朱美に言われて、今までに見たニュースがフラッシュバックする。
「……まぁ、確かに」
「でしょ?」
朱美の言葉に同意すると、朱美はどや顔をする。
「でもまぁ……本人、もう死んじゃってるから、ホントのところなんてもう、誰もわかんないよねー」
「えぇ!?」
朱美の一言に、私は思わず叫んでしまう。
周囲がシンと静まりかえり、一瞬、こちらに視線が集中した。
が、すぐにまた、ざわざわと元通りの騒がしい教室に戻る。
「……やだ、葵知らなかったの?」
朱美が驚いたような顔でひそひそと言う。
「知ってるわけないじゃん!家出くんのことなんて、今言われるまで気にも留めてなかったくらいなんだよ?」
言うと、朱美は「あ、そっか」と納得していた。