3rd Stageー4
「そっちはどうだ」
布施は液晶に表示されている内容を確認しながら、深いため息をついた。
「うーん……彼女の言うサイト、全然見つからないんですよね……」
難波はカチカチっとマウスをクリックして、検索にひっかかったサイトを片っ端から開いて中を確認しながら、そう答える。
本郷を親の元へ送り届けた後、警察署に戻ってきた二人は、彼女から聞いた『Luck TesT』なるサイトを探していた。だが、その単語でいくつか検索に引っかかるサイトはあったものの、それらの中身を確認してみたが、彼女の言っていた内容と合致するサイトは全く見当たらなかった。
「あの子の言ってたこと、嘘じゃないとは思うんですけど」
難波は、とある掲示板の書き込みを読みながら言う。
「現に、掲示板の書き込みでいくつかヒットしてるんで、そういうサイトは存在する可能性があるんじゃないかなとは思ってるんですけど……」
難波はガシガシと頭を掻きながら深いため息をつく。
「ただ、どれも事件には関係無さそうな内容ばっかりだし、肝心のサイト自体は見つからないしで……」
「くそっ……手詰まりか……?」
そう、布施が呟いた時だった。
ピリリリッピリリリッ
机に置いてあった布施のスマホが、ぶるぶると激しく振動しながら鳴った。
スマホのディスプレイには、【鑑識 富永】と表示されていた。
解析が終わったのかと、布施は慌ててスマホを手に取り、電話に出る。
「はい、布施」
『すぐに来てくれ』
電話に出て名乗った瞬間、富永はそれだけ言って、通話はブチっと切った。
(なんだ、一体)
普段そんなことをするような奴じゃないのに、どうしたっていうんだ?と布施が考え込んでいると、
「布施さん?」
難波に声をかけられて、布施はハッと我に返った。
「……行くぞ」
布施はそう言って立ち上がると、そのまま何も言わず、部屋を出た。
難波も慌てて、パソコンの電源を落として、布施の後を追った。
「こいつはかなりヤバイかもしれんぞ」
鑑識部屋に入ると、布施に気付いた富永が、難しい顔をしてパソコンとにらめっこをしながら言った。
「何かわかったのか?」
布施が聞くと、富永は首を横にふった。
「逆だよ、何にもわからなかった」
そう言って、かけていた眼鏡を外し、鼻の頭を軽く揉みながら続けた。
「このスマホに届いていた送り主不明のSMSだがな、何一つ手がかりはつかめなかった」
その言葉に、難波はそれなら、と人差し指を立て言う。
「サイバー犯罪対策課に協力してもらったらどうですか?あそこならこういうネット関係のこと調べるのとか、得意じゃないですか」
名案を思いついた、とばかりに難波が言うが、富永は頭を横に振った。
「なんでですか」
少し不満げな表情を浮かべる難波に、富永はふぅ、と息を吐いて言う。
「さっきも言ったろ、手がかりが何一つつかめなかったって」
「え?だから、その手がかりをつかむために」
「あいつらが調べても、何も出てこなかったんだよ」
「え?」
富永の言葉に、難波が首を傾げる。
「何も、だと?」
布施が改めて聞くと、富永は今度は頭を縦に振った。
「そうだよ、何も、だ」
富永から、はぁ、と深いため息が出た。
「正直、こんなのは初めてだよ」
そう言って天井を仰ぎ見ながら、富永はチッと小さく舌打ちをした。
「まずそもそもな、SMSってのは仕組み上、発信者を表示させない状態で送るってことはできなくなってるはずなんだよ。電話番号なり、アドレスなり、何かしらが表示されるはずなんだ。なのに、こいつに届いているSMSにはそれがない」
富永は携帯を二人の前に差し出して続ける。
「なのに、だ。発信者がブランクの状態にもかかわらず、確かにこのスマホにSMSは送信されてきている。このスマホでこいつを作成したとかじゃない。きちんと、SMSを受信してるんだよ」
「てことは、仕組み上できないってことだったが、何かしらの方法があるってことだな?」
「たぶんな。だが、現状、そういう方法も、技術も、聞いたことはない。……こっちで解析するのが難しそうだったからな、すでにサイバー犯罪対策課の方に依頼してたんだが、向こうでもこんなのは見たことがないってよ」
「…………嘘だろ」
信じたくない、という表情を浮かべる布施に、富永はフルフルと頭を横に振った。
「悪いが、お手上げだ。これ以上、このスマホを解析しても、何も出てこない可能性が高い」
そうキッパリと富永は言うと、布施に持っていたスマホを手渡した。




