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Luck TesT  作者: まきろん
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3rd Stageー2

怖くて体が震えていた。

家に帰るなら直進するところを、私がスマホを忘れたことに気付いて、それを聞いた父が取りに行こうって言ったから。

だから、たまたま、今日は直進せずに、その隣のレーンに入って、曲がろうとした。


(……だから、助かった…………)


まだ陽も昇っていないのに、辺りは炎に包まれた車に照らされていているせいで、夜も深いというのに、外は明るかった。お父さんとお母さんは、車から降りて、外でずっと何かしている。

頬を伝う涙をぬぐうこともせず、私はただ、顔を手で覆った。


(まさか、これもあのサイトのせいだっていうの……?)


溢れてくる涙が止まらない。

恐怖と不安でどうにかなりそうだった。



コンコン



突然、何かを叩く音がして、思わずびくりと肩を震わせた。

恐る恐る顔をあげてみると、助手席の窓をノックしている人物がいることに気づいた。


「あっ……!」


私はその人物を見て、すぐに車を降りた。


「何があった」

「お願い!助けて!」


確か、布施という名前で、警察官だったはずのその男性に、私は泣きながら縋りついた。

そんな私に、少し慌てた様子で、彼は「落ち着け」と言って、深呼吸をさせた。


「……それで、何があった?」


少し落ち着きを取り戻した私に、彼が聞いてきた。

正直なところ、頭の中はぐちゃぐちゃだし、何をどこから話せばいいのかわからなかった私は、少し考えて、とりあえずさっきの事故について話を始めた。


家に帰るつもりだったが、スマホを結斗の家に忘れていることに気付いたこと。

それをお父さんに話したところ、ちょうどそこの交差点で直進レーンから右折レーンへと移動をしたこと。

その直後に、直進レーンの方で衝突事故が発生したこと。

曲がろうとしたお陰で、事故に巻き込まれずに済んだこと。


「良かったね!運がよかったんだ」


彼の隣に立っていた難波という刑事が、にっこりと笑って私にそう言った。

だけど私は、その言葉が怖くて、体を小さく振るわせた。



お父さんとお母さんは、事故の目撃者で通報者でもあったので、まだ現場でいろいろと事情を聴く必要があるということだったので、スマホを取りに行くのに、ちょうど結斗の家に行く予定だったから、と、布施さん達が私も連れて行ってくれることになった。


車の後ろに座って、私もシートベルトをきちんと占めたことを確認すると、難波さんはゆっくりと車を発車させた。


「……それで?」


まだ私が何かを言いたそうにしていることに気付いたようで、布施さんが話の続きを促してきた。

こんなことを言ったって、信じてもらえないんじゃないか、という思いが頭の中を駆け巡ったが、これ以上、自分だけで抱え込むのは辛すぎて、私は意を決して、布施さんに相談することにした。


「……あの、LuckTesTってサイト、知ってますか?」


私が聞くと、彼はいや、と首をふった。難波さんも、なんだい、それ?と首をかしげる。


「私もよく知らないんですけど……なんか、運だめしができるサイトらしいんですけど」

「運試し??」


私の言葉に、難波さんがよくわからない、といった風にまた首を傾げる。


「……実は前に、そこの運営委員会ってとこからメールがきたんです」


顔を上げると、車の窓から見える景色が、見覚えのあるものになっていたのに気づく。


「あ、もうすぐで着くよ」


難波さんの言葉通り、数分後、結斗の家に到着した私たちは、車から降りて、結斗の家に向かった。

布施さんたちに続いて、一緒に結斗の家の中に入ろうとしたところ、玄関のところに立っていた警察官に止められる。


「あ、こら、きみ!どこから入ってきたんだ!駄目だよ、ここは今」

「その子はいい。確認することがあって、現場検証がてら俺が連れてきた」


布施さんに言われて、玄関に立っていた警察官の人は分かりました、と敬礼をする。


「これを足につけてそのまま中に入れ。あと、こいつもかぶれ。中の物には一切、絶対に、何も触れるなよ」


布施は取り出した透明のシューズカバーとヘアキャップを渡してきた。

なんかちょっと、ドラマみたいだな、なんてことを思いつつ、私は言われた通り、靴の上からシューズカバーを付けて、髪の毛をすべてヘアキャップの中にいれた。

私がきちんとそれらを付けたことを確認すると、布施さんも自分の靴にシューズカバーをしてヘアキャップを身に着けると、ポケットから取り出した白い手袋をはめるてドアを開けた。


「スマホを忘れたって言ってたな」


布施さんに言われて、私は頷いた。


「多分、リビングにあると思うんですけど」


そもそも、入ったのはリビングだけなので、他にあるはずはない。


「……さっき言ってたサイトなんですけど、運試しができるようになってるみたいで、そこで勝てばお金がもらえるシステムになってるみたいでした」


「勝てばお金がもらえるって……それ、オンラインカジノってことかい?ダメじゃないか!」


難波さんそう言われたが、私はそんなことを言われても、と少し困った顔になる。


「別に、元々そのサイトを利用してたわけじゃないんです。実際、そのサイトの存在を知ったのもほんの少し前で……さっき言った通り、運営ってところからSMSが来て初めてそのサイトのことを知ったんです」


まるで言い訳だな、と言わんばかりの視線を向ける難波さんを無視して、私はリビングの中を探してみた。だが、お気に入りのパンダのストラップのついた、赤いスマホはどこにも見当たらない。


「おかしいな……確かにここまではスマホは手に持ってたと思うんだけど」


うーん、と唸りながら探していると、難波さんがどんなスマホなのかと聞いてきたので、赤いリンゴのやつ、と答えた。


「あ……もしかしてこれ?」


暫くして、難波が床に落ちていた赤い色のスマホを指さして聞いてきた。


「あ、そうです!」


手に取ろうとしたところで、布施がそれを止める。


「まずはこれをつけろ」


そう言って、布施に白い手袋を手渡される。


「おい、ここの写真はもう撮ったのか?」


布施さんが近くに居た別の警察官に声をかけて、スマホを手に取っても問題ないかどうかを確認し、私が手袋をしたのを確認して、それを手渡してきた。


受け取ったスマホの再度ボタンを押し、ストラップのパンダを使って、スマホのロックを解除すると、朱美と結斗、真也に私の4人で撮った修学旅行の写真の待ち受けが表示された。


(朱美……)


懐かしい思い出の写真。

朱美の安否がわからず、真也とも連絡はつかなくて、今は結斗も入院している状態だ。


(……私がなんとかしなくちゃ)


スマホを持つ手にグッと力が入る。


ふと、SMSの新着を知らせるマークが表示されているのに気付き、それと同時に、一気に体が強ばった。


(まさか、また……?)


さっきの交差点での事故を思い出し、思わず嫌な予感がして、冷や汗が背中を伝う。

ゆっくりとSMSのアイコンをタップすると、その予感は的中し、表示された内容は、思っていた通りのものだった。


「布施さん……これ」


青ざめた顔をしながら、私は布施さんにスマホを渡した。


「おい、なんだこりゃ」


布施さんは、なんの悪戯だ、と呟く。


「……これが、さっき言ってた?」


難波さんに聞かれて、小さくはい、と私は頷く。


「これっていったい、どういうこと……?」


難波さんに聞かれたが、私はただ、わからない、としか答えようがなかった。

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