3rd Stageー1
難波に車を運転させて向かった先は、とある市民病院だった。
「……難波」
布施が何かを考えながら、小さく声をかける。
「なんですか?」
難波がウィンカーを出して交差点を左折しながら聞く。
「お前、あの少女のこと、どう思う?」
難波は小さく肩をすくめる。
「どう、と言われても……まぁ、ただの偶然でしょう?……正直なところ、妙に関係し過ぎだとは思いますけどね」
まっすぐに前を見つめて、運転をしながら続ける。
「別にあの子が何かやったとか、そういった物証や確証があるわけでもないですし」
難波の言葉に、布施はそうだよな、と呟く。
(わかってる。難波の言う通り、あの少女が何かしたって証拠があるわけでもないし、状況からして、本当に偶々事故が彼女の身近で立て続けに起こった可能性が高いだろう)
目を閉じて、険しい表情を浮かべる布施に、難波は小さく肩を竦めながら続ける。
「まぁ、ついてないな、とは思いますよ。偶々こんな事故や事件が身の回りで続けて起こったわけですし」
難波の言葉に、布施は小さく息を吐く。
「……言ってなかったが、今向かってる病院に運ばれた強盗の被害者だが、その少女の友人とその母親だ。しかも、今回の件、発覚に至ったのが……」
布施の言葉に、難波は目を大きく見開く。
「ま、まさか、あの爆発事件を2回とも生き延びた子が、また絡んでるんですか!?」
難波の言葉に、布施はそうだ、と頷いた。
「現場となった家の前で、挙動不審な女の子がいたとかで、たまたま警ら中の巡査が声をかけたらしい」
「それが例の女子高生ですか?」
難波の問いに、布施は頷いた。
「確か名前は本郷、だったか。その巡査の話では、本郷は友人である男子生徒の緒方結斗と連絡がつかず、それが気になって、緒方の家までわざわざ様子を見に来ていた、ということだ。ちなみに、巡査が本郷に声をかけた時、彼女は玄関の前に立っていたそうだ。話を聞いて、彼女が言う通り、家の中は明かりがついていてドアが鍵もかかっていない状態で、声をかけても何の反応もなかったらしい」
「風呂に入ってた、とかじゃないんですかね?」
難波の言葉に、布施は頷いた。
「あぁ、俺も普通はそう考えると思うんだがな。本郷はその時、そうは思わなかったみたいだな」
だからこそ、連絡がつかないことに焦り、わざわざ家まで様子を見に行った。
(……ってことになるが、普通電話に出なかったくらいでわざわざ家まで様子を見になんて行くか?)
布施は首を傾げる。
「二人は付き合ってるんすかね」
「何でだ?」
病院に到着し、難波が車を駐車場に停める。
車から降りてドアを閉めると、難波が車のロックをしながらそう呟いたので、布施が彼に聞き返す。
「いや、普通、電話に出ないってだけで、そんなわざわざ家まで行くかなぁって思ったもんで」
ポリポリと頬をかきながら難波が言った。
「それは思ったんだが……付き合っていれば、それは割と当たり前なのか?」
病院の裏口へと向かいながら、不思議そうに布施が聞くと、難波は腕を組みながら、うーん、と小さく唸る。
「いや、まぁ……普通ってことはないですけど。ただ、あのくらいの年齢で付き合いはじめとかなら、心配するってのはあるかもしれないですね」
二人が入り口の前で立ち止まると、ウィン、と自動ドアの開く音が暗闇の中に響いた。
すぐの扉から、警備員とおぼしき男性が出てきたので警察手帳を開いて見せると、男性は小さく頭を下げ、何も言わずに通してくれた。
「まぁほら、あの年頃だと、常に一緒にいて、電話はすぐにでる、連絡はすぐ返すのが普通って聞きますし」
難波の言葉に、布施は信じられない、といった表情を浮かべる。
「無理だろ、そんなこと」
呆れたように言うと、難波は小さく肩をすくめた。
「実際、無理ですよ。だからまぁ、それが原因で喧嘩になるって話ですし」
「そうなのか?」
「みたいですよ?……って、いや、さすがに俺はそんなことないですけど」
慌てて否定する難波に、布施は小さく笑った。
エレベーターで5階まで上がると、降りてすぐの廊下に警官が立っているのが見えた。
布施が警察手帳を見せると、警官は小さく頭を下げた。
「容態は?」
警官は小さく首を横にふった。
「睡眠薬を飲んでいるようで、二人ともまだ目を覚ましていません」
布施はそっと、病室のドアを少しだけ開けた。
中は暗くよく見えないが、心電図の一定のリズムが、二人は生きているのだと証明していた。
「……発見時に一緒にいた少女は?」
近くに彼女の姿が見えなかったので、布施が警官に聞くと、両親が迎えにきて、少し前に一緒に帰ったと告げられた。
(もう遅い時間だし、また明日にでも話を聞きに行くか)
布施はそうか、とだけ呟き、病室を後にし、次は現場となった緒方家へと向かうことにした。
「……なんだか騒がしいな」
緒方宅へ向けて車を走らせはじめてから数十分がたったころだった。微かに聞こえてくるサイレンの音に、布施が小さく言った。
「何かあったんですかね?」
信号待ちをしていると、1台の救急車と消防車が前を通りすぎていた。
「……同じ方向のようだな」
しばらく進むと、また、消防車が通り過ぎ、さらにパトカーも数台、サイレンを鳴らしながら布施達を追い抜いていく。
「近い、ですね」
徐々にサイレンの音が大きくなっていく。
もしかして、この近くで何があったのだろうかと思ったその時だった。
「おい、あれは……?」
少し先に、たくさんの緊急車両が停まっているのが見えた。
「何があったんすかね?」
近くまで来たところで、交通整備をしている警察官がいたので、手帳を見せて話を聞いた。
「交通事故のようです。まだ詳しいことはわかっていないんですが」
そう言って、警官はちらりと現場をみやった。
布施も難波も、同じくその視線の先をみる。
「……っ!!おい、難波、車停めてこい」
突然、布施はそう言って、車から降りると、現場へと駆け出していた。
「あ、え!?布施さん!?」
布施は停まっていた一台の車にかけより、中を覗き込んだ。
そこに居た人物の姿に、思わずごくりと喉が鳴る。
(やっぱり……)
布施は深呼吸をすると、停まっていた車の窓をコンコンっと叩いた。




