2nd Stageー10
まずは結斗の家に行ってみよう。
そう思った私は、結斗に何度も電話をかけながら、彼の家に向かって走った。
「んもぉ!なんで出ないのよっ!」
スマホを握りしめ、何度もリダイヤルする。
数度かけた電話は、結局一度も受話になることなく、結斗の家の前に到着した。
家の中から光がもれていたので、どこかに出かけているわけではないようだった。
私は息を整えながら、インターホンを押した。
「……あれ?」
誰も出ない。
もう一度、インターホンを押す。
だが、来客を告げる音が小さく聞こえてくるだけで、何の反応もない。
「おかしい……よ、ね?」
2階の結斗の部屋の窓からも、一階のリビングの窓からも、光がもれている。
私は首を傾げながら、家のドアをドンドンっと叩いた。
だが、やはり、結果は同じで、何の反応もない。
……嫌な予感がする。
どうしようかとオロオロしながらも、ドアノブに手をかけてみると、鍵がかかっていなかったようで、ガチャリ、とドアが開いた。
「君!そこで何をしているんだ!?」
いきなり後ろから大きな声がして、驚いて思わず振り返る。
少しだけ開きかけたドアが、バタンと閉まる。
「この家の子かい?」
視界が一瞬で真っ白になる。手で光を遮り、目を細目ながら声の主を探す。
そこには、制服姿のお巡りさんらしき男の人が、少し怪訝な表情を浮かべてこちらを見ていた。
「いえ……」
別に悪いことをしているわけじゃないのに、何故かおどおどしてしまう。
それを感じとったのか、お巡りさんは自転車を家の前に停めると、こちらへと近づいてきた。
「その……友達に用があったからきたんです」
「友達?」
そう言って、ちらりと表札に視線を移す彼に、私はそうだ、と思い切って相談することにする。
「ただ、なんか変なんです」
「変?」
私の言葉に、あたりを確認していた彼の手が止まる。
「家の電気がついてるのに、インターホンならしても、玄関のドアを叩いても、何の反応もなくて。しかも、ドアは鍵があいてて」
そう言って私が体をドアから避けると、お巡りさんがドアノブに手を伸ばした。
試しに、とドアノブを回してみると、ドアは何の抵抗もなく、ガチャリと開いた。
「電話があったから、でたんだけど、何の反応もなくって。しかもいきなりブチって切れちゃったし。かけ直しても出ないから、心配できてみたらこんな状態で……」
不安がどんどん膨れ上がり、気がつくと目に涙がたまってきていた。
「なるほど」
外から1階の中の様子が見えないか確認しようとするが、しっかりと閉じられたカーテンのせいで、部屋の中を見ることはできなかった。
お巡りさんは肩についていた無線で、何かを報告したあと、玄関のドアを開けて、中に入った。
「こんばんはー」
大きな声で、お巡りさんが言う。
「どなたかいらっしゃいませんかー?」
更に大きな声を出す。
だが、何の反応もない。
もう一度、無線で報告を入れる。
「……すみません、あがりますよー?」
大きな声でそう言って、お巡りさんが家の中に足を踏み入れようとした時だった。
ガタッという物音が、した。
多分、リビングの方。
振り返って彼は、少しだけ険しい顔をして、君はそこで待っていなさい、と私にそうい言って、ゆっくりと家の中に入った。
「……誰か居ますか?」
もう一度、大きな声で言う。
私は、待っていろと言われたものの、一人でいるのが怖くて、そっと後ろについて、一緒に中に入った。
ふぅ、と息を吐き、お巡りさんが入ってすぐのリビングの扉を開けた時だった。
ガチャリ、という音とともに、バン!っと勢いよく何かが開いた音がした。
お巡りさんが中に入ると、そこには、縛られている結斗と、おばさんの姿があった。
「結斗!?おばさん!?」
「大丈夫かっ!?」
慌てて駆け寄る。
ぐったりとした様子の二人からは、返事はない。
と、バタバタっと外を走っていく人影が、窓から見えた。
「そこを動くんじゃないぞ!」
お巡りさんは、無線で何かを叫びながら、そのままリビングを飛び出して行った。
「結斗!?お願い、目をさまして!返事してっ!!」
結斗の頬をパチパチと叩く。
だが、なんの反応もない。
辛うじて息をしているのは確認ができたのだが、このまま目をさまさなかったらどうしようという不安が、頭の中を駆け巡る。
「そうだ、ロープ、ほどかないと」
ポタポタと溢れ落ちる涙をグイッと吹きながら、辺りを見回す。
「ほら、これを」
ふと後ろから声がした。
そこには汗だくのお巡りさんの姿があった。
「ありがとうございます」
渡されたカッターで、太いロープをなんとか切りほどく。
お巡りさんは、椅子にかけてあったタオルを手にとると、おばさんのこめかみのあたりの、血の滲んでいる場所にそっと当てた。
何の反応も示さない結斗とおばさん。
二人に触れる手が震えた。
このまま結斗が目をさまさなかったらどうしようという不安。
どうしてこんなことになったのかわからない恐怖。
必死でこらえようとするのに涙が止まらない。
「約束したじゃん、結斗。2人でクリアしようって。結斗がいなくなったら、私、どうしたらいいの?1人にしないで。お願いだよ」
私は結斗の手をぎゅっと握りしめた。




