2nd Stageー9
「とりあえず……状況はなんとなく理解した」
長い沈黙の後、結斗が先に口を開いた。
「誰かが葵を、このゲームに登録したんだろう。で、ゲームに参加する事になった」
結斗の話を黙って聞く。
「…考えたくないけど、ライブの爆発も、学校の爆発も、どっちもこのゲームのせいだと思う。今、葵は2ndステージにいるらしいから、予選、1stと考えると、つじつまはあう」
もしかしたら、違うかもしれない。
ただの偶然が重なっただけかもしれない。
そう思いたかったけど、結斗に言われて、やっぱりそうか、と、淡い希望はあっさりと打ち砕かれた。
「問題は、このゲームをどうやってクリアするか、だ」
結斗は続ける。
「全部で5つのステージがあるらしい。で、葵、お前は今、2ndステージにいる」
結斗の言葉に、小さく頷いた。
「残りは今のステージを含めて4つ。これをクリアしないと、お前も俺も、死んでしまう」
「え……?」
結斗の言葉にひっかかりを覚えた。
「俺……?も…………?」
「……プレイヤーはお前だけ。だけど、俺はお前の協力者に登録されてる」
言われてハッとなる。
「プレイヤーのクリアを助ける役割の協力者も、必然的に、プレイヤー同様、ヤバいらしい
結斗の言葉に、思わず喉がひゅっと鳴った。
「とりあえず、過去の履歴が確認できるようになってたから見たんだけど……このゲーム、俺達の難易度で、クリアした人間はいないみたいなんだ」
黙って話を聞く。
「つまり、そうとうやばい状況だと思った方がいい」
結斗の手が震えていたのに気づく。
平気そうな、何でもない顔をしているのに。
私がこれ以上不安にならないように、気遣ってくれていることに気付く。
「ねぇ……やめられないのかな、このゲーム」
私はポツリと呟いた。
「だってさ、私達、参加したくてしてるわけじゃないじゃない?なら、やめることだって」
「無理だ」
結斗がきっぱりと言う。
思わず私はその言葉に怪訝そうな顔になる。
「なん……」
「辞退できなかったんだよ」
なんで、と言おうとした言葉を遮って、結斗が言う。
「どういうこと?」
「お前、自薦じゃないだろ?」
言われて、あたりまえじゃん!と思いきり眉を顰めた。
「他薦の場合は、その、推薦した人間からしか辞退の申し込みは受けられないらしいんだ」
「は……?」
言われて絶句する。
「うそ、で、しょ……」
知らないうちに勝手に申し込まれて、しかもやめることができない?
「そんなのってない!無茶苦茶だよ!」
「俺だってそう思うよ!」
結斗も叫んだ。
「俺だってそうだ、知らねーうちに勝手にこんなのに登録されて!学校のあの爆発事故だって、一歩間違えりゃ俺もあの場にいて死んでたかもしれないんだ!」
我慢していたものが、一気に吹き出した。
「そう、だよね……ごめん」
結斗だって好きでこんなことになったわけじゃない。
彼も、私も、状況は同じで、二人で言い争ったって事態が解決するわけじゃないのに。
私が俯きながら謝ると、結斗もばつの悪そうな顔をしながら、小さくごめん、と呟いた。
暫くの間、沈黙が広がる。
どうしたらいいのかがわからない。
何を話せばいいのかわからない。
頭の中をいろんなことがぐるぐるまわる。
「まずは、俺達を推薦した人間を探そう」
不意に、結斗が口を開いた。
「探す……って、どうやって?」
私が言うと、結斗は首を横にふった。
「わかんねー。けど」
何かいい解決策でも思いついたのかと期待したのだが、結斗の言葉にがっくりとなる。
「ただ、何をしないといけないのかわかってねーと、解決策も見つからないだろ?」
結斗に言われて、確かに、と頷く。
「2ndステージもクリアしないといけねーし……」
結斗に言われてハッとなる。
そうだ。
なんとしても、このゲームを切り抜けなきゃ。
じゃないと、私達……
私はぐっと唇を噛みしめる。
「ぜったいに、元の生活に戻ろうぜ」
結斗の力強いその言葉に、私も力強く頷いた。
***
両親から、家に着いたがどこにいるのか、とLIMEがきたので、私は自宅に帰った。
「葵、大丈夫なの?」
家に帰ると、開口一番、心配そうに母が聞いてきた。
そんなにひどい顔をしているのか、と私は慌てて笑顔を作り、大丈夫と答えた。
「ちょっと疲れたから、部屋で休んでるね」
そう言って、自分の部屋に戻ると、服を着替えて、私はそのままベッドに倒れ込んだ。
「なんなのよ、デッドオアアライブって」
洒落にならないネーミングのそのゲームに、私はため息をついた。
朱美も真也も、相変わらず連絡が取れず、そして彼らの安否も不明のまま。
スマホを手に取り、メールも電話も、新着はないことを確認して項垂れた。
着信履歴を確認している時に、一番最新の通知に通知不可能という文字が表示されているのを見て、そんな訳のわからない着信があったことを思い出す。
「そうだ」
調べてみればいい。
そう思い、誕生日プレゼントにお父さんに買ってもらったタブレットを開いて検索する。
「通知不可能っと…」
いくつか出てきたものを、順番に内容を確認していく。
「……海外からの着信っていうのが基本っぽいけど」
知り合いで海外にいる人なんていない。
「後はプリペイド式の携帯だか何かで電話してきたとき、か」
考えてみたが、知り合いはみんな、スマホを持っているはずだし、わざわざそんなものでかけてくる必要はないはずだし、そんなことをしている人の心当たりもなかった。
「やっぱりわかんない」
はぁ、とため息をついた時だった。
スマホがけたたましく鳴り出す。
ビックリして手に取ると、そこには結斗の名前が表示されていた。
「もしもし?」
電話に出る。
が、なんの反応もない。
「もしもーし?結斗?」
何度か声をかけたところで、ブチッと電話が切れた。
「えぇっ!?」
かけ間違いか何かかと思ったのだが、何も言わずに切られたことがひっかかり、すぐに結斗にかけ直した。
「……出ない」
どんどん不安が募っていく。
なんだか気持ちが落ち着かない。
どうしようかと思っていたその時、スマホから着信音が鳴りだしたので、結斗が折り返しかけてきたんだと思った私は、表示内容を確認せずにすぐに受話をタップする。
「もしもし、結斗!?」
だが、何の反応もない。
「もしもし?」
『キョウリョクシャガアブナイ』
電話から聞こえてきたのは、明らかに変声機を使ってしゃべっていると思われる、耳障りな声だった。
「……誰よ、あんた」
思わず眉をひそめる。
『キョウリョクシャガアブナイ。キヲツケロ』
相手は私の問いには答えず、一方的にまた、同じことを繰り返して言うと、ブチッと電話が切れた。
「あっ!」
画面を見ると、いつものホーム画面が表示されているだけだった。
「何なのよ、一体」
私は、スマホを見つめながら、さっきの言葉を思い出す。
『キョウリョクシャガアブナイ』
さっきの気味の悪い言葉が耳から離れない。
「キョウリョクシャガアブナイ。キョウリョクシャが、アブナイ。キョウリョクシャが危ない」
言われた言葉を繰り返して呟いてみる。
『協力者が、危ない』
確かに、さっきの声はそう言った。
私はスマホから、もう一度結斗に電話をかけてみる。
「お願い、電話に出て……」
だが、祈りも虚しく、かけた電話には誰も出ない。
嫌な予感がして、私は部屋を飛び出した。
「え、葵!?こんな時間にどこに行くの!?」
足音を聞きつけた母が、玄関で靴を履いている私を見つけて、少し眉をひそめながら言った。
「ちょっとコンビニ」
「えぇ?明日じゃだめなの?」
いつもはそんなことを気にしない母だが、立て続けに起きていた爆発事故のせいで、心配して聞いてくる。
「……結斗に借りるものもあるから、ついでにそれも取り行きたくて」
結斗の名前に、母の表情は少しだけ和らいだ。
「気をつけて行きなさいよ?」
「うん、行ってくる」
私はまた、笑顔を作って笑ってみせて、家を出た。




