2nd Stageー8
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あなたの『運』を試してみませんか?
自薦、他薦は問いません。
ただし、命の保証はありませんのであしからず。
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その文章の下に『ENTER』の文字があり、クリックできるようになっていた。
結斗はごくりと喉を鳴らしながら、それをクリックする。
すると突然
『ジャーンケーン!』
と大きな声がした。
液晶に、一人の男の子が笑って手を上下に動かし、まるでじゃんけんを動きをしているアニメーションが映っている。
下には、ぐー、ちょき、ぱー、と、それぞれクリックできるようになっていた。
「じ、じゃんけん……?」
大きな声で、何度も繰り返し流れる男の子の声。
私たちは顔を見合わせた。
結斗が少し考えて、『ぐー』をクリックする。
すると、男の子の声は止まり、可愛らしい女の子の声で『おめでとう!』と声がした。
画面には
『You WiN』
の文字が出ていた。
眉を顰めながら、結斗がマウスを動かしてみると、画面が暗転した。
そして次に出てきた画面は、まるでラスベガスを彷彿とさせるような、チカチカしたページが表示された。
見た目はただのゲームサイト。
だが、ページを詳しく見ていくと、どうやらそこでは『運試し』と称して、簡単なものだと、さっきのじゃんけんに始まり、ポーカーやブラックジャックといったカードゲーム、スロット等々、様々なゲームをプレイして、お金を儲けよう、というサイトであることが分かった。
直接お金を賭ける仕組になっているらしいので、当然違法サイトなんだろう。
「まってよ……こんなの、みたことも聞いたこともない」
思わず口をついて出た言葉はそれだった。
見も知らないサイトから、なぜ、自分を名指ししてメールがきているのか。
訳がわからず、混乱している私をよそに、画面の下の方に『登録状況閲覧』というのがあるのを見つけた結斗は、そこをクリックした。
すると、小さなポップアップが出てきて、そこには、名前を入力してください、と書かれていた。
直接入力できるようになっていたので、結斗は『本郷葵』と入力する。
そのままEnterを押すと、少しの検索時間ののち、現れた画面には、私の写真と、住所や電話番号、今通っている学校などが表示された。
「なっ……!?」
「んだよ……これ……」
私と結斗は顔を見合わせた。
クルクルと、マウスのホイールを回してページダウンしていく。
そして、結斗の指の動きが止まる。
私も、その理由に気付き、絶句した。
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■現在のプレイ状況
デッドオアアライブ
■難易度
エキスパート
■状態
プレイ中
■進行状況
2nd ステージ
■協力者
1名:緒方 結斗
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「デッドオアアライブって…」
プレイ状況のところに書かれた文字。カーソルをあわせると、文字がクリックできるようになっていて、アイコンが矢印から指のマークに変わった。
結斗がクリックすると、また、画面が切り替わった。
そこに書かれた内容を読んでいくうちに、膝がガクガクと震えてきた。
「どういうことだよ……」
結斗が顔面蒼白になりながら呟く。
「知らない……知らないよ」
そこに書かれていることを、私は内容を理解することができなかった。
……いや、本当は、ただ怖くて、理解したくないだけだったんだと思う。
内容を読んでいくうちに、私の頭の中は真っ白になっていった。
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デッドオアアライブは本サイトのメインゲームであり、一番人気を誇るゲームです。
その名の通り、プレイヤーは迫り来る危険を、ご自身の『運』を使って回避し、生き延びていただきます。
結果判定は簡単です。
生き延びればプレイヤーの勝ち、死んでしまうと負けとなります。
なお、本ゲームには難易度が設定されており、難易度は最初にご選択いただきます。
もちろん、難易度によって、賞金は変動いたします。
難易度毎の賞金は、以下の通りとなります。
■イージー
賞金:1000円
■ノーマル
賞金:1万円
■ハード
賞金:10万円
■プロフェッショナル
賞金:100万円
■エキスパート
賞金:1億円
なお、1stステージまではこちらでステージを用意いたしますが、2ndステージからは、お客様から有志をつのり、ゲームを進めてまいります。
どうなるか展開の読めないこのゲーム、プレイヤー参加なさいますか?
現在の参加者数
15879人
プレイヤー数
1人(協力者1人)
現在のゲーム難易度
エキスパート
※命の保証はございませんので、ご注意ください。
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私はへなへなとその場に座り込んだ。
結斗はまた、パチパチとキーボードを打ち何かを調べているようだったが、私にはもう、続きを見る余裕なんてなかった。
(……事故だ)
最初に見たあのSMSが不意にフラッシュバックする。
(そう、思ってたけど、違う……ってこと?)
さらに次の事故の後に届いた奇妙なSMS。
(どちらもこのサイトのいう『ゲーム』のために用意されたものだとしたら……?)
もしも、そうだったのだとしたら。
私はただ、運がよかっただけ。
だって、ライブに行かなかったから。
だって、朱美が抽選にもれたから。
だって、朱美にチケットを譲ったから。
だって、警察の人が来て話を聞かれたから。
だって、たまたま、授業を受ける気にならなかったから。
「葵?」
結斗に呼ばれてハッとなる。気がつけば、パソコンの電源を落として、心配そうにこっちを見ていた。
「不安なのはわかる。……泣くなよ」
優しく結斗が、頬を撫で、いつの間にか流れていた涙を拭ってくれた。
「水、持ってきてやるから。ちょっと待ってろ」
結斗に言われて、私はぼんやり頷いた。
リリリリリリリリ……
突然鳴り出した電子音に、思わずビクッと震えた。
私のスマホが、ここぞとばかりに存在を主張する。
お、落ち着け。ただ、電話が鳴っただけ。
ふう、と深呼吸をして、ブルブルと振るえるスマホを手にとった。
だが、ディスプレイに表示されている文字に、思わず眉をひそめた。
『通知不可能』
非通知、は知ってる。
でも、なに。通知不可能って。
怖くて電話に出ることができない。
ブルブルと音を発しながらふるえていたスマホは、やがて、諦めてその主張をやめた。
画面に表示された不在着信の表示を見つめていると、結斗が部屋に戻ってきた。
「どうした?」
心配そうな表情を浮かべて、結斗が傍に腰を下ろした。
「あ……うん」
今あった着信のことを話そうかと思ったが。
「……何でもない」
これ以上、心配させたくない。
たまたま、かもしれないし、非通知ときっと似たようなものだ。
笑ってみせる私に、結斗は少し考えるような顔をしたが、そうか、と答えると、それ以上は何も聞かずにいてくれた。




