2nd Stageー5
翌日、朝早くに学校から一斉配信連絡がきた。
内容は、今週いっぱいは、学校が休みになる、というものだった。
『葵、今日はどうするんだ?』
その連絡を受けて、結斗がLIMEで連絡をして聞いてきたので、私は、なんにも考えてない、と答えた。
『なら、さ。ちょっと、出かけないか?……渋谷の方、行きたいんだ』
なんとなく、結斗がしたいことが何なのか、察しがついた。
『いいよ。すぐに支度する』
そう返事をすると、結斗から、準備が出来たら迎えにいく、と返信がきた。
支度を終えて、私はリビングでコーヒーを飲みながら、ぼうっとテレビを観て、彼が来るのを待っていた。
「……だいぶ身元がわかってきたんだ」
渋谷であった爆発事故で死んだ人たちの名前が列挙されていく。
テレビの画面をじっと見つめていたが、やはりその中に、朱美の名前も真也の名前も、出てくることはなかった。
「無事でいて……」
そう、祈るように呟いたときだった。
玄関のインターフォンがなった。
『葵ー、迎えに来たぞ』
インターホンの画面に、結斗の顔が映っていた。
私は傍に置いていたカバンを手に取り、家を出た。
電車に揺られている間、私も結斗も無言だった。
駅までの道すがらは、まだポツリポツリとではあるが、会話もあったのだが、自分達の目的地が近づくにつれ、やはり自然と口数は減っていった。
「あ、次の駅だね……」
そう呟くと、結斗は、あぁ、と小さく頷いた。
中心地と思われるライブハウス周辺には、まだ、黄色の立ち入り禁止テープが張り巡らされていて、警察官が数人立っていた。
また、あちこちにリポーターとおぼしき人物と、カメラマンの姿もあった
遠目にしか見ることができなかったのだが、ライブハウスがあったと思われる場所は、大きなブルーシートで囲われていて、隙間から、真っ黒な建物の骨組みと思われるものがちらりと見え隠れしていた。
周辺にも、黒く焼け焦げたような跡があちこちにあり、かなりの被害であったことが容易に想像できた。
私は、思わず結斗の手を握った。
結斗も震えを隠すように、ギュッと強く、私の手を握り返してきた。
しばらく現場を眺めたあと、私達は、近くをうろうろと歩いてみた。
だが、映画や小説のように、朱美達に繋がる手がかりを見つけることは、やはりできなかった。
……当たり前だよね。そんな簡単に見つかるなら、とっくに消防なり警察なりが見つけてるよね。
肩を落としながらその場を離れて少し歩いたところで、結斗が飲み物を買ってくる、と、近くにあったコンビニの中に入っていった。
私は外で待っていると言って、壁にもたれかかりながら、ボーっと近くを通る人たちを眺めていた。
ふと、目の間を警官が通っていった。
「あっ……!」
私は不意にあることを思い出し、ごそごそとスマホのケースに入れていた名刺を取り出して見つめる。
……かけてもいいかな。
朱美のこと、もしかしたら何かわかったかもしれないし。
名刺に書かれていた番号を、恐る恐る私はタップして電話をかける。
「葵?」
コンビニから出てきた結斗が、声をかけてきた。
私が誰に電話をしようとしているのかを説明しようとしたとき、電話越しに、女性の声が聞こえてきた。
「あ、あの!そちらに、布施さんという刑事さんは、いらっしゃいますか?」
聞くと電話に出た女性は、少々お待ちください、と言って、電話を保留にした。
『もしもし、布施ですが』
保留音が途切れ、男性の声が聞こえてきた。
「あ、あの、私、本郷葵、です」
『……なんだ』
一瞬の沈黙の後に聞こえたのは、不機嫌そうな布施の声だった。
「その……捜査は進んでますか?」
聞くと答えはなく、返ってきたのは特大のため息をだけだった。
それだけで、なんとなく状況の察しはついた。
「朱美は……見つかりましたか?」
『……いいや』
必要最低限のことしか言ってくれない布施に、私はそれでも、必死で食いついた。
「身元不明の人って、あと何人いるんですか?朱美かどうか、確認にどのくらいかかるんですか?」
だが、布施は何も答えてくれない。
「朱美も真也も連絡がつかないんです!お願い、今どういう状態なのか知りたいんです!」
半ば叫ぶように言った。
だが。
『教えられない』
布施からの答えはただそのれだけだった。
「……わかりました」
私は、泣きそうになるのを必死でこらえながら、通話を切った。
「大丈夫か?」
心配そうに聞いてくる結斗に、私は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「前にほら、話を聞きに来た刑事さんなら、もしかしたらなんかわかるかもって思ってさ、聞いてみたんだけど……なんにも教えてもらえなかったよ」
すると、結斗は少し考え、ためらいながら言った。
「……ダメ元で、真也達の家、行ってみるか?」
警察だって、私の情報から、朱美と真也の家に行って確認くらいはしているだろう。
だから、私たちが今更行ったところで、何かがわかるはずなんてないことくらい、十分にわかっていた。
だけど。
今はほんの少しでも、何かわかる可能性があるならと思い、私は彼の言葉に、小さく頷いた。




