2nd Stageー2
消火活動は完了したものの、生徒は全員、緊急事態ということで、各自、家に帰ることになった。化学室から離れた場所にある、各教室においてある生徒達の荷物については、貴重品があることもあり、順番に先生が消防隊員の指示に従って、代わりに荷物を取ってきてくれることになった。
消防隊員も警察も、普通教室には今回の爆発に関する原因はなく、危険性も低いだろう、という判断だった。
先生達から自分の荷物を受け取った生徒は、一人、また一人と、帰宅を始めた。
それから暫くたった頃。
1クラス、また、1クラスと、徐々に居なくなる生徒たちを、私と結斗は静かに黙って眺めていた。
ふと、帰っていく生徒の数人が、不思議そうにこちらを見てきているように感じて、思わず下を向く。
(もしかして、他のクラスメイトがいないのに、なんで私たちだけいるんだろう、とか、思ってるのかな……)
一瞬、そんなことを思ったものの、すぐに頭を横に振った。
(……ううん、きっと気のせい。だって、こんな状況じゃきっと、他人のことなんてかまってられないはずだもん)
こんな状況下で、誰が一体、他人のことを気にかけられるだろうか。
すぐに小さく頭を振って、心の中に芽生えた思いを打ち消した。
「君たち、2年4組の生徒かな?」
ふと声をかけられる。見ると、そこには汗だくになっている消防隊員の人が立っていた。
「先生から、これが君たちの荷物だって聞いたんだけど、あってるかい?」
そう言って差し出された鞄を、私と結斗は受け取った。
朱美とおそろいで買ったチャームのついた鞄を抱きしめながら、私はハイ、と頷いた。
「それじゃ、確かに渡したよ」
そう言って、消防隊員の人はまた、学校の方へと走って行いく。
「あ、ありがとうございました……!」
私の言ったお礼は聞こえていないかもしれないけれど、そう彼に向かって叫んで、また、頭を下げた。
ふとその時、鞄の中で何かがブルブルと震えていることに気づき、慌てて開けると、スマホの画面に大量の通知マークが出ていた。
「あ……」
待ち受けのロックを解除してLIMEを開いてみると、そこには、両親や他校に通う友人からの大量のメッセージが届いていて、内容は、どれも無事なのかといった、安否を心配しているものばかりだった。
結斗の方を見ると、どうやら彼も同じ状況のようで、頭をガシガシと掻きながら、たたたっと返信しているようだった。
一通り、すべてに目を通し、返信を終えたところで、画面にまだ消えていない通知アイコンがあることに気づく。
「あれ?」
何か見落としたかと思い、通知アイコンをタップする。
すると、メール画面が表示され、件名には『選考委員会より1stステージ通過のお知らせ』と書かれてあった。
(……いまだにこんな迷惑メールとかってくるんだ)
葵は小さくため息をつき、画面を閉じた。
「……ね、みんな帰ってるし、もう、帰っていいのかな」
この場に居るのがなんとなく嫌で、でも、どうしていいのかもよくわからなかった私は、結斗に声をかける。
「そう、だな。なんかみんな、荷物受け取ったら帰ってったみたいだし……」
辺りを見回してみると、気づけば無事な生徒でまだ学校に残っているのは、私と結斗だけになっていた。
他は引き上げ作業を始めている消防隊の人や、先生たちと話をしている警察の人たちだけだった。
「あぁ、いたいた!おい、お前達。ちょっといいか?」
校門の方へ移動しようとしていたところで、鬼クマ先生が声をかけてきた。
彼に呼ばれた私たちは小さく頷くと、そばへと駆け寄った。
「その……お前ら、授業の時、どこにいたんだ?」
複雑そうな表情を浮かべながら聞いてくる鬼クマ先生に、私と結斗は顔を見合わせながらも、サボっていた、とは言いにくくて、ごめんなさい、と小さく呟いた。
「あぁ、いや、怒っているわけじゃないんだ。その、な。どうやら爆発元が化学室らしくてな。お前らのクラスが、授業中だと聞いていたから、その……」
どう聞けばいいのかと、少しだけ困ったような表情を浮かべる鬼クマ先生に、私達は、授業には行かずに、あの後そのまま、会議室にいたことを、正直に打ち明けた。
「そうか……」
先生はそう呟くと、また少し、複雑そうな表情を浮かべた。
「その……なんだ。サボったことは良くないんだが……」
先生の声はどんどん小さくなっていく。
「でも、本当に…本当に、無事でよかったよ」
先生はそう言って、私たちを抱きしめながら、少し、泣いていた。




