1st Stage ー2
なんの進捗も情報もないまま、月曜日の朝を迎えた。
眠ったのか、眠っていないのか、自分でもよくわからない状態で、目の下には酷いクマができていた。
「ハハ、ひどい顔。……朱美に見られたら、笑われちゃう」
そう口にした瞬間、何かが溢れてくるような感じがして、グッとそれをこらえた。
制服に着替えて、もう一度鏡を見たが、化粧をする気になどなれず、そのままカバンを持って部屋を出た。
「あらおはよう。パン焼けて……え、葵、どうしたの!?ひどい顔よ!?」
朝食を作り終えて、リビングの机に並べていた母が、私の顔を見て慌てて駆け寄ってきた。
心配そうな表情の母に、私は大丈夫だから、と答えた。
心配させないように、笑顔を見せようと思ったのだが、どうすれば笑えるのかがわからなくて、たぶん、上手く笑えていなかったのだろう。母は私の表情にさらに心配そうな顔になった。
「今日はもう、学校にいくね」
母に何かを聞かれる前にと、私はせっかく用意してもらった朝御飯を食べることもせず、そのまま玄関へ向かう。
「あ、葵!お弁当忘れてるわよ!!」
慌ててお弁当を持ってきた母が、私にグイッと押し付けるようにお弁当を渡してきた。
私は渡されたお弁当をカバンに入れると、行ってきます、と小さく言って、家を出た。
学校へ着くと、いつもよりかなり早い時間での登校だったからか、まだ生徒の数はまばらで、朝練に来ている生徒以外はまだ誰もいないようだった。
「あ……本郷!?無事だったんだな!?」
自分の教室に入ろうと、入り口のドアを開けたところで、誰かが私の名前を呼んだ。
声のした方を見ると、そこには鬼クマ先生がいて、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「え、ちょ、な、何、いきなり……」
突然、どうしたのか、と少し狼狽えていると、鬼クマ先生は私の元へと駆け寄ってきて、肩をポンポンと叩きながら、何度もよかった、と繰り返していた。
「ちょっと先生……一体どうしたって……」
鬼クマ先生に声をかけたところで、彼の後ろに、見知らぬ男の人が二人いることに気付いた。
そして、そのうちの一人、私のお父さんと同じくらいの歳だろうか。少しだけ白髪の混じった短い髪の、厳つい男の人の方と目があった。
「先生、彼女がそうなんですか?」
彼が鬼クマ先生にそう聞くと、先生はそうです、と頷いた。
「……君が本郷葵、で間違いないか?」
朱美のことが心配過ぎて、気が気ではないのに、一体朝から何なんだ急になんなんだ、と、私は少しムッとした顔をする。
「そうですけど……誰ですか」
不機嫌そうに私が聞くと、男の人は何も言わず、内ポケットから黒い何かを取りだし、目の前で開いて私につきつけてきた。
「え……?けい、さ、つ……?」
彼が私に見せてきたのは、ドラマなんかでよく見かける、警察手帳と思われるものだった。
彼の写真と、布施という名前が書かれたそれを見た私が、彼らが何者であるかを理解したのを確認すると、胸のポケットにそれをしまい、代わりにボロボロになった小さな手帳を取り出した。
「土曜日、何をしていた」
「何って、その日は家に……」
警察が、一体なんなんだ、と、反射的に答えようとして、思わずはっとなる。
「朱美!?まさか、朱美になにかあったの!?」
思わず、目の前にいる布施という刑事に掴みかかった私を、鬼クマ先生が慌てて引き剥がした。
「やはり、か」
布施は、もう一人の刑事にアイコンタクトをおくる。刑事は小さく頷き、スマホを取りだすと、どこかへ電話をしながら、その場を去っていった。
「少し、この生徒と話をさせてもらっても?」
許可を求めるように、鬼クマ先生に聞く。だが、その表情には、断ることは許さないといわんばかりだ。
何か警察から聞いていたようで、どうしたものかと少し戸惑っていた鬼クマ先生より先に、私は口を開いた。
「せんせ、私はいいよ。刑事さんに聞きたいこと、あるし」
私は、目の前て仁王立ちになっている布施を睨み付けながら言った。




