予選ー10
ライブ会場へ向かって暫く歩いて行ったのだが、消防やレスキュー、警察官の姿がちらほらと増えてきたな、と思っていると、近くに立っていた警察官に引き留められ、これ以上先には進めない、ということを告げられた。
爆発の原因がまだわかっていないらしく、そのため、またどこかで爆発が起こる可能性があるから、ということだった。
「どうしよう、これじゃ確認できない……」
朱美に何度か連絡をしてみるが、電波が届かないか電源が入っていない、というアナウンスが流れてくるだけで、一向につながらない。
「……だめだ、やっぱり真也の方もつながらねー」
ライブに参戦するからと、すでにスマホの電源をきってしまっているのか、朱美も真也も連絡が取れない状況が続く。
『えー、こちらでは現在、原因確認のため、広範囲に渡って避難勧告が出ているようです』
中継をしているようで、レポーターらしき女の人が、黒いスーツ姿で、カメラの前に立って喋っている。
『今回の爆発ですが、相当な規模の爆発だったようです。さらに、現在日本でトップの人気を誇るロックグループムスカのライブ会場が中心地だということです』
レポーターの女性の言葉に、私は思わず目を丸くした。
気がつけば、ふらふらとその女性の方へ詰め寄っていた。
「ちょ、葵!?」
「それ、本当なんですか!?間違いないんですか!?」
彼女が言っていた場所には、朱美と真也がいる。
そう思うと、確かめずにはいられなかった。
「葵、やめろって!」
結斗が女性から私を引き剥がす。
「ムスカのライブハウスが爆発現場って本当に本当なの!?」
女性が怪訝そうな表情を浮かべながら、乱れたスーツをなおすが、私の慌てた様子に何かを察したようで、もしかして、と口を開いた。
「……もしかして、現場にお友達がいるの……?」
彼女の表情は何とも言えないものに見えた。
同情するかのような声だが、私たちを見る目は、少し輝いているように思えたのだ。
「すみませんでした、失礼します」
結斗も何かを察知したのか、そう言って、私を引っ張ってその場を去って行った。
「あ、ちょっと!?」
女性が何かを叫んでいたが聞こえない。
(嘘よ、嘘よ。そんな。ムスカのライブハウスが中心だなんて!!)
彼女の言葉が耳にこびりついて離れない。
まだ、朱美たちに何かがあったと決まったわけでもない。
それなのに。
最悪の状況を勝手に自分の頭が想像してしまい、思わず涙がぽろっとこぼれる。
その時だった。
スマホが一瞬、ブルッと震えた。朱美かと思い、急いで取り出して確認する。
「……なによ、これ」
一件のメールが届いたという通知だった。
だが、なぜか送信者の表示箇所がブランクになっていて、メールアドレスの表示すらない。
件名:『選考委員会よりお知らせ』
予選無事通過、おめでとうございます。
貴殿におかれましては、次のステージへとすすんでいただくことが可能です。
もし、次ステージへの昇格を辞退される場合は、お手数ではございますが、本メール受信1時間以内に、本メールへご返信をお願いいたします
(……こんなときに、一体なんなのよ)
ただの迷惑メールか、と悪態をつきながら、私は画面の表示を落とした。




