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プロローグ
(こんなはずじゃなかった……!)
息を切らせながらも、俺は必死で走った。
ぶっちゃけ、もうどれだけ走ったかわからない。久しく運動なんてものをしていなかった体にはかなり堪える。足はとうの昔に限界を迎えていて、筋肉は悲鳴を上げ続けている。
「はぁっはぁっ……っ、はっ…」
ふと、小さなビルとビルの間に、人一人分なら何とかはいれるかな?という小さな隙間を見つけた。
(……そうだ、ここなら)
辺りをキョロキョロと見回して、誰も俺のことを気にしていないことを確認すると、隠れるためにそのまま、隙間の中へと入っていった。
(大丈夫、大丈夫。ここならきっと、問題ない)
ゆっくりと息を吸い込み、静かに音を立てないように、細心の注意を払って息を吐く。
あまり余裕のないその隙間で、俺は壁に背中を軽く預けると、何度かの深呼吸のあと、静かに目を瞑った。
「……あと少し。あと少しで、手に入る」
そう呟いた俺は、思わずこぼれそうになる笑みを、ぐっと堪えた。
「よし」
そして俺が背中を壁から離したその時だった。
ガシャン
何かの壊れる音と共に、俺の意識は永遠に戻ることはなくなった。