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告白の結末

 国分が告白できるよう気を遣って二人きりを演出した翌日。何か特別なことがあった気分の虎太郎だが、学校はいつも通りやってきて、学生たちを強制的に日常へ引き戻す。


 日常に戻るため無理やり意識を切り替えた虎太郎だが、昨日の虎太郎は異常だった。

 家に帰ってから部屋にこもって一人で過ごすというのはいつものことだが、心のうちがざわついて落ち着かないという様子だった。


 告白は成功しただろうか。そもそも国分が言っていた取り合うとはどういう意味か。自分は玲那を好きなのか? はたまた玲那が自分を好きなのか、いやいやそんなわけがない。と頭の中がごちゃごちゃして、落ち着かず異常なテンションで過ごしていた。

 おかげで寝不足となり、今にも死にそうな顔で学校の机に突っ伏している。


「おっす秋山! 大丈夫か?」

「国分か。元気そうだな……」

「ん? まあ、それが俺の取り柄だからな」


 朝から活発な国分を見て、死に体の虎太郎は眩しそうに目を細める。


「なぁなぁ、昨日の結果聞くか?」

「っ!?」


 目の前の席に腰掛けた国分は虎太郎の耳元で呟いた。その言葉に、虎太郎はガバリと体を起こした。蘇生の魔法でも使ったのかと思うほど機敏な動きに、虎太郎自身も少し驚いている。


「……気ぃぃぃぃぃいいいになるぅぅぅぅううけど、」

「けど?」

「いや、やっぱりいいわ」

「あ、逃げた」

「逃げてないし」


 聞かずとも結果は明らかだ。と昨日までは思っていた虎太郎だが、国分の落ち込んでいない様子を見るとどっちかわからなくってくる。告白が成功したのか、答えを聞くことが怖いと感じている。


(怖い……?)


 なんで自分は国分と玲那の関係に対して恐怖を抱いているんだ? 結果がどうであれ、国分との関係は変わらない。それは国分が言ってくれた言葉だ。ようやくできた友達。その関係が変わることを恐れている?

 否。


(神谷との接し方が変わるのが、怖い……)


 自分の感情を言葉にして理解した虎太郎は、言い表しようのない羞恥心に駆られて勢いよく机に突っ伏した。

 そのまま寝不足なことを言い訳にして爆睡をかます。月曜日が振替休日のため、火曜日である今日は図書当番がないことも幸いし、放課後まで国分と玲那の話から逃げ延びた。問題を先延ばしにしただけだが、そのつけは思いの外早く回ってくることに──。


「やっほー! 元気?」

「げっ……」


 無事に放課後の学校から抜け出し一人で下校している虎太郎の背後から、走って追いついてきた玲那が声をかけた。


「げってなんだし」

「毎度後ろから来るなよ。暗殺者か。びっくりするだろ」

「びっくりって感じの声じゃなかったけど」


 不満そうに目を細める玲那はそのまま虎太郎の横に並んで歩く。

 虎太郎は昨日のこともあってか、いつも以上に玲那との距離を気にして落ち着かない。


「昨日さ……」


 通りから細い路地の住宅街に入ったところで、玲那が徐に語り出した。

 話の入り方にどきりとした虎太郎は身を強張らせ押し黙る。


「打ち上げ楽しかったね!」

「(なんだよ、びっくりさせんなよ)……そうだな」

「わっ! 秋山もああいうの楽しいって思えるようになったんだ! 良かったー!」

「なんか失礼なこと言われてる」


 いつもの調子で話す玲那を見て少しだけ緊張が解れた虎太郎は、ほっと息をついた。


「昨日ね、国分に告られた」

「ぶふっ!」


 と思ったのも束の間、弛緩した空気の中で何事もないかのようにいきなりぶっ込まれ虎太郎は咽せて吹き出した。気管に入ったのか、玲那に心配されるほど咳が続く。


「……悪い、変なとこ入った」


 体に異変が出たおかげか、幾らか心の準備ができた虎太郎は呼吸を整えて玲那と向き合う。今度は逃げずにしっかりと聞くつもりだ。


「告白の答え、どっちだと思う?」

「えぇ……(なんでそんなこと聞くんだ?)どっちなんだ?」

「どっちだったら、いい?」

「えぇぇ……」


 すぐに答えを明かされず戸惑いの声を漏らす。


「まだ返事してないのか?」

「ううん、返事はしたよ」

「え?」

「その返事が、秋山的にはどっちだったら嬉しい?」

「そんなの……!」


 答えられるわけがない。国分の友達としては成功することを願うべきだろう。だけど、それを言うのは嘘をつくことになる。だから、


「いいえの方が……ゴニョゴニョ」


 羞恥心と本音がせめぎ合い精一杯の答えが虎太郎の口から漏れた。


「……ぅぇ」


 自分から聞いておきながら虎太郎の回答が予想外だったのか、玲那は照れた様子で顔を赤く染め、虎太郎と反対方向へ思い切り顔を背けた。


「そ、そうなんだー……」

「……」


 互いに掛けるべき言葉が見つからず気まずい沈黙が流れる。沈み切るにはまだ時間が残された日の光が二人の影を伸ばす。二人の距離と同じだけ隙間が空いた影も気まずそうに黙り込んでいる。


「じゃあ、俺ここだから」

「あー、うん……」


 結局なにも話せぬまま虎太郎の家に辿り着いてしまい、気まずい空気を背負ったまま別れの時間となる。


「あ、秋山! またね!」

「……おう。また明日」


 玲那が重たい空気を払拭するように溌剌とした声で、ひまわりのような笑みを浮かべて手を振っている。それに釣られて、虎太郎も自然と笑みを溢した。

 虎太郎の姿が扉の向こうへ消えると、玲那は熱くなった顔を押さえながらその場にしゃがみ込んだ。


「変に思われたかな……」


 玲那と同じように、扉の向こうで虎太郎はへたり込むように座っていた。


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