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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

史実や小説には書かれない悪役の裏話。



暗い王城の廊下を共もつけずに足早に進む。


本来ならまだ安静にしていないといけない妊娠初期。まだ国民達には発表していない。

第一王子である息子は今頃、最高級の物に囲まれた部屋で可愛い寝息を立てていることだろう。

そして、愛すべき陛下もまたきっと何も気づかないふりをして寝ているに違いない。


完璧に整えられた庭園を横切り東屋に着くとそこには女がいた。陛下の女。側妃や愛妾にすらなれない身分の女。王家に嫁ぐ時に一緒に実家から連れてきた私の侍女だった女。


陛下の火遊びには気付いていた。妊娠中や出産直後に陛下の閨の相手が出来ない間の繋ぎでだろう。そう思えば我慢できた。自分は今、次世代の治世を担うものを育み守り生み出すことが一番大事なのだ。下手な貴族の娘では派閥や政治的問題になる。ただの侍女ならいいだろう。そんなことで目くじらを立てていれば周りに侮られる。そう我慢してきたのだ。


「陛下?」


不安そうに愛らしい声で誰何する侍女。


「ごめんなさい、貴女の意中の方ではないの。」


暗闇から姿を現す私を見てまるで幽霊でも見たかのように顔を真っ青にして震えだす侍女に「きっとこういうところが愛らしいと庇護欲をそそられるのでしょうね。」と自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。


「それで?」


「妃殿下!!大変申し訳ございません!!」


「あら、どうして謝るの?」


「…それは」


「陛下と関係を持ったこと?それとも種を宿したこと?ねぇ私が気付いていないと思った?どうするつもりだったの?」


「ひっ!へ、陛下が側妃として迎え入れるから心配いらないと…その、でも、わたし陛下を愛しているんです!!」


あらあら、嫌ね。これではまるで怖い悪役と勇気を振り絞って立ち向かう少女みたいじゃない。


「あら、そうなのね。でも、おかしいわ。だって陛下からそんなこと聞いてないもの。」


「そ、それは…」


「妊娠を告げてから一度も会いにだって行ってないでしょう?」


「陛下はお忙しいだけで…」


「おバカな子。貴女、今まで私の傍で何を見てきたの?重要な書類にサインする以外政に関わったことがないのにどうして忙しいの?はぁ、そんなことを話すために来たのじゃないのに…がっかりよ。」


「貴女が実家の力を使って国内を牛耳るから…!」


「力のある家の娘が王家に嫁ぐのは当たり前でしょう?それよりも今後のことについて話に来たの。まず一番に貴女は側妃にはなれない。子供は堕ろして貴方もここから離れなさい。生活に苦労しないよう、私の妊娠中に陛下の閨を務めた報酬として年金は出します。ですが、他言無用です。」


「そ、そんな…何故…」


「理由は二つよ。王位継承権がある子供が他にいれば国が混乱します。担ぎ上げる旗印があればきっと国は割れます。その時に一番被害を被るのは国民です。我々王族は混乱が起き最悪の場合クーデターが起きようと良くて一生幽閉、最悪処刑ですが、国民は違う。彼らの生活は荒みます。明日も生きねばいけない国民達が苦しむのです。貴女のそのお腹の子のせいで。」


あぁ出来る事ならこんなこと言いたくはなかった。だって胎教に悪いもの。あとで美味しいハーブティーでも飲んで気分転換しなければ。


「そして、もう一つ。貴女を案じています。」


「わたしをですか?」


「えぇ、貴女は私が実家から連れてきた大切な侍女よ。姉妹のように育ち、いつでも傍にいてくれた。侍女にするには勿体ない程に美しい貴女が陛下に見初められて少し誇りに思ったものよ。」


「な、なら!」


「知っていて?この世にね、庶子を産んだ女を揶揄する言葉はたくさんある。娼婦、淫乱、売女。でも、孕ませた男を揶揄する言葉はないの。貴女は美しい。貴女が将来一人で子供を産み育てているのを見れば、男は自分にもチャンスがあると勘違いするでしょうね。美しくも誰にでも身体を任せる女だと。女は貴女の美しさを妬むでしょう。誰も貴女を助けない。そんな地獄がこれから待っているのよ。そんな地獄で子供を産み育てる覚悟はある?その地獄を子供に見せる覚悟は?」


別に彼女だけのせいじゃないとわかっているのよ。でも世間一般の人たちは納得しない。この世にはそういった状況で子供を育てる女性はたくさんいるのも事実。陛下だって悪い。だけど、そんなこと言える人がこの世にいると思う?


「貴女だけが悪いとは思わない。夢を見ることも、人を愛することも悪いとは思わない。」


「それなら!何が悪いのです?愛のない結婚に虚しさを感じていた陛下を癒し寵愛を頂いた私が何故そんな目に合うのですか?」


必死の形相で涙を堪えながら叫ぶ侍女に思わず笑ってしまう。愛は人を狂わせるって本当ね。これで城中の聞き耳を立ててる使用人たちも簡単に話を聞くことが出来るわね。


「ふふふ、貴族や王族の結婚をなんだと思っているの?これは契約なのよ?平民なら。ううん、下級貴族なら違うかしら。私達貴族や王族はね、貴女達の税金で生かされているの。そして民を守るために金を使い威厳を守るの。贅沢?違うわ、それぞれの領の特産を売る為に、価値のある領に見せるために金を使い経済を回し同盟を結ぶ。ボロボロのなんの旨味もない領じゃ誰も興味を持たないでしょう?美しく着飾り少しでも領に、国に還元するために私達は契約するの。平民にはあるプライバシーだって私達にはないわ。全てを監視されているの。妊娠だってそう。幸せな家族を作る為じゃない。これは義務なのよ。何も知らない人たちに子供はまだか?なんて言われて…それでも私達は義務を果たすためにこうしているの。それで、貴女は陛下に側妃にと言われて喜んでいるみたいだけど…側妃が何か気付いていて?」


「それは陛下の御心を!」


「あらあら、そんなのは愛妾の仕事よ。側妃には義務が生まれるの。私、正妃の補佐なんかも入るわね。その為に予算が降りるわ。貴女、外国語はいくつ話せて?貴族の嗜みは?貴族の会話の裏を読み、情報を得て国に尽くすことは出来て?子供だって一人じゃ駄目よ?まぁ、産んだところで正妃の子供とじゃ扱いも変わるけど。愛妾は陛下の寵愛だけを得て他に目移りしないよう監視もつくわ。貴女は確かに今美しい。でも十年後、二十年後貴女の美しさは色褪せない?妻がいても他の女に愛を囁く男が自分だけを愛し続けると本当に信じられる?さぁ、もうお行きなさい。外に馬車を待たせているわ。」


現実を淡々と続ける私に真っ青だった顔は白くなり最後は震えながら立ち去る侍女だった女。


あぁ、私本当に彼女は気に入っていたのよ。美しい、庇護欲をそそる姿に上手く隠しているつもりの野心。彼女は気付いてないけど私は知っていたの。彼女のお母様も彼女と同じ人種だって。貴族家のメイド時代に当主の御手付きになり孕み産んだ子が彼女。王族との婚約が決まっている娘がいる家で務めるなら身辺調査くらいするに決まってるじゃない。面接に来た彼女をこっそり見た時、思ったの。彼女が欲しいって。だって、気になったの。蛙の子は本当に蛙なのか。

うふふ、彼女には影をつけないと。彼女がいる限り私は自分の立場を更に安泰にする為に努力をしなければならない。目的が出来るって素敵よね。さぁ、まずは私の愛しの息子に素敵なお嫁さんを見つけなきゃ。国の為に頑張れる家格の高い私みたいな娘を探さないとね。それからお腹の子の性別によるけどこの子にも素敵な伴侶を。念のためあともう一人は欲しいわ。女の子なら国外にも出せるし、そうすれば国は更に安泰だもの。そうなると更に私の政務の時間が減るから陛下には側妃を取ってもらう方がいいかしら。そうね、反対派閥から一人取ればバランスはいい?あぁ、考えることがたくさん。どうしましょう。


「妃殿下、本当によかったので?彼女はきっと堕ろしませんよ。」


暗闇から現れたのは次期宰相と名高い男。陛下の不祥事を一緒に揉み消すことが多いこの男はずっと聞いていたようだ。まぁそうでしょうね。だって、あの侍女だった女は今までで最大の陛下の不祥事だもの。


「まぁ、こんばんは。随分と遅い時間だけどまだいたのね。あまりお仕事のし過ぎは体に毒よ。」


「妃殿下、今は大切な時期でしょう。さぁ、お体に障ります。」


「えぇ、そうね。それに私が動けなくなれば政が滞りますもの。うふふ、ねえ、私更に地位を安泰にする策がたくさん出てきましたの。」


「それは、素敵なことで。ですが、今は休息です。部屋まで送ることは叶いませんが、貴女の事です。個人で雇っている影が今も守っているのでしょう。さぁ、お戻りください。」


「うふふ、はいはい。それではお休みなさいませ。」


さぁ、明日どんな噂が回るかしら。きっと私は怖い怖い魔女のような王妃で健気な美しい侍女を嫉妬で城から追い出したとかかしら?うーん、なかなかいいわね。だってそんな怖い王妃である私に文句を言う人間はいないでしょう?人が何を言おうと変わらないものがある。それは、私は王妃で、この国の最高の女で国母であること。例え、悪役のように扱われ恐れられたっていい。それで、私の政が上手くいくなら。



これは、史実や小説には書かれない悪役の裏話。



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