破られた約束と守られた約束
恐らく腐れ縁?というものを書いてみたかった、はず。
因みに元サヤの話ではありません。
「ミシェル、お前との婚約を破棄させてもらう!」
卒業記念パーティでの事だ。
今は遠く遠い記憶だ。
彼はどうしているだろうか?
幼い日の私が泣いている。
ずっと一緒にいると約束したのではないの?
もう彼の声は聞こえない。
*****
そう、そのパーティにて、王太子であった婚約者アーカンテ殿下と、彼の側近、彼らを侍らせる少女によって、私、リメンバース侯爵令嬢ミシェルは、婚約破棄と断罪を受けたのだ。
冤罪であったのだが、彼らは用意周到で、拘束された私はそのまま国外追放になった。
宰相であった父は怒り、私と同じく国を離れ、国は少し荒れた。
国を回していたブレインがいないのだ。
当たり前よね。
そして悪い事に、王太子を溺愛する国王は、彼の愛し子との結婚を許してしまった。
彼以外の兄弟がいれば、挿げ替えも出来たかもしれないが、彼は一人っ子だ。
だからわがままを許してしまった。
そして次世代の国王と王妃になった彼らだが、その時代に移る前から情勢が芳しくない。
清らかな少女だったものは、淫蕩を尽くし、ドレスや宝石に埋もれて、華々しいパーティを開く開く開きまくる。
その裏で気に入らない相手はどんどん排除していった。
奔放な王太子は彼女に追随し堕落していった。
そして内乱が起きて、かつて燃え上がる運命の恋は、その城さえも燃やしていった。
*****
「あっつ!」
私は勝手知ったる城の中にいた。
それは何故か?
約束の為だ。
「あーいたいた」
アーカンテの側には誰もいなかった。
淫蕩な王妃はお気に入り達と逃げてしまったようだ。
王を護るべき騎士も側近もいない。
人徳?というべきか、傲慢暴虐を尽くした彼に侍るものなど居ない。
いや、辛うじている。
「ははっ!ざまぁ!!」
ケラケラとアーカンテを嘲笑ってやる。
私にも色々あったのだ。
冤罪も屈辱だったし、一度は平民に落ちた身だ。
(まぁ父が隣国に来たので、すぐにスカウトされ爵位を得たのだけとも)
下からの出発は苦難の日々だった。
婚約者であった頃はメンタルを、平民になった頃は肉体を、酷使しながら熟してきた。
どちらがいいか、どちらも嫌だし、どちらも苦痛だった。
恋する暇もなかった。
する気もなかったけど。
積年の恨みを笑い飛ばす。
この男はもう駄目だ。
戦火で朽ちてきた材木や石材に足腰を潰されていた。
叫ぶ気力も尽きていたようだ。
朧気な瞳で、ぼんやり私を見上げている。
私はその傍に座り込んだ。
「私を、笑いっ……にき、た……のかっグッ!」
苦しそうに息を吐く彼の髪の毛を撫でる。
薄汚れた顔もハンカチで拭ってやる。
「違うわ?私、約束を果たしに来たの」
そうか、彼は。
「忘れちゃった?」
「まぁ、いいわ。
国外追放だっけ?
もう、国の形してないじゃない。
王様はこんなんだし、王妃もいないし、騎士も、側近もいない。
民は貴方を敬いはしない。
形骸化した何かがあるだけよ。
だから、帰ってきたの。
貴方の側に、ね」
不思議そうに見てくるアーカンテ。
悲しいなぁ。
「約束、したのよ」
*****
初めて婚約者として紹介された幼き日、彼は私にいったのだ。
ずっと傍にいてください。と、死が私達を頒かつまで一緒に、と。
*****
私は忘れられなかった。
あの時のトキメキも、初恋も。
遠ざけられ蔑ろにされ、婚約破棄され、国外追放されても。
好きだったから。
私の恋は蝋燭のような、フッと掻き消えるようなものではなかったみたい。
線香のように、ボソボソとじわりじわりと、尽きず消えず身を焦がしているみたいに、彼は心の中に残り続けた。
私は婚約破棄で、色々失くした。
婚約者としての立場も、次期王妃として頑張ってきた教育の成果も、家に置いてきたドレスや宝石、そして母国も。
それでも1つ残ったのだ。
彼への想いが。
捨てきれなかった約束が。
*****
「私は全てを捨ててきた。たった一つの約束の為に」
まだ、解らない。といった顔で見ているわね。
「選んだの、一つを、一つだけを」
私はずっと見てきた。
貴方の苦悩も、苦痛も、逃げてしまった責務も、甘やかされ絆され籠絡されてくその様も。
私が国に入れなくなった後の、暴落も衰退も。
確かに私は待っていた。
貴方が立ち上がる日を。
賢王となり、貴方に尽くす日を。
そんな日は来ないとわかっていたとしても。
*****
「貴方を愛しているの」
私も彼の隣で寝転んでみた。
幼き日に、王宮の庭園にて共に寝転んでみた、あの日の様に。
もう貴方が思い出せなくとも。
「だから、約束を果たしに来たの」
アーカンテの手を握る。
「ずっと一緒にいようね、っていう約束を」
もう、貴方は喋らない。
「大事だったから、大切だったから」
ボロボロになっても、クタクタになっても、砕かれた想いを掻き集めて。
そうしたら、こんな事になっていたのだけど。
「愛しているの、諦められなかったの、許せなかったし、辛かった。ソレデモ貴方は消えなかったし、消せなかった」
どうすれば良かったのか解らない。
どれだけの事をわかっても、最適解が見つからない。
グルグルうだうだモヤモヤ、全ての負が私に乗っかかる。
「愛してたの、愛していたの」
ああ、私は……
その言葉が紡がれる前に、私は、私達は瓦礫に圧し潰されていった。
*****
*****
目が覚める。
「今度は、間違えない……」
私は己の小さき手に誓う。
まだ見ぬ婚約者の為に。
死に戻りの前日譚?的な話でした。
最後の独白は、彼なのか彼女なのかハッキリさせてません。
どちらでも良いのでぼかしました。
頭にあったのは、婚約破棄された令嬢が死に際の元婚約者の元に現れて、一緒に死んであげるわ。と手を繋いで眠るシーンでした。
某進撃の奴でもそうですが、崩落に巻き込まれて生死不明でありながら明確な死の描写である、瓦礫に埋もれていくシーンは心に残りますね。
上のシチュだけのストーリーなので、死に戻り後の話はありません。