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王の煩悶

辺境伯であるガイラスより信じられない報告が上がってきた。

獣人の奴隷取引を潰したこと、インフェルノウルフを撃退したこと。立て続けにだ。

子供の頃は余と共にこの城で育ち、成人してからは忠実な家臣として余に仕えておるが、奴は我が親友と言ってもいい。

友とは言っても、馴れることもなく時に厳しく余に諫言してくることもある。また変に誇張することもなく事実をそのままに捉え、何が本質なのかしっかりと見極めのできる男だ。


そんなガイラスの報告であるから、嘘であることはあり得まい。

キチンと時系列に、分かりやすく整理されている報告書だ。


獣人の子供たちをフォレストウルフから守り、エルフや魔人と共に子供たちを保護し、インフェルノウルフをヴォルフ大森林に撃退した若者。

それほどの者が冒険者登録していなかったということも不思議ではあるが、一人でこれだけの働きをしたということにも驚きである。


そして、獣人の子供の中には狐人族の子がおったそうじゃ。エルフの森に住まうという希少種の狐人族にもしものことがあれば、エルフや獣王国は黙っておるまい。


人攫い共め、我が国を戦禍に放り込みたいのか!

テルステット共和国の現大統領は奴隷を解放したいと意気込んでおるが、なかなか成果が上がっておらんのが実情だ。

大商人を中心とした元老院の抵抗があるのだろう。容易に想像できる。

あの国の奴隷制は、その元を辿れば古代文明にまで遡ることになる。どれほど根深く厄介なことであろうか。


我が国では建国王、アルバート様の英断により奴隷制を廃止しておるが、他のヒト族国家では制限があるにしてもまだ奴隷制が残っておる。

まぁ、我が国が成った時に隣の獣王国から大分援助があったらしい。

獣王国としても、隣国が奴隷に積極的な国であるのは望ましくなかったのであろう。


とにかく一歩間違えば我が国が戦争に巻き込まれるところであった。

その奴隷取引を潰してくれた者には感謝しかない。


しかしガイラスも大変であったろう。立て続けにガルーシャの森に災禍が訪れるとは。

まさかインフェルノウルフが現れるとは、思ってもみなかった。


ヴォルフ大森林の魔物についてはなかば伝説と化しているが、インフェルノウルフについてはエルフの言い伝えが残っておるからの。

インフェルノウルフの体躯を以てしても越えられぬ谷に誘い込んで、何百人というエルフが魔法を降らせて撃退したと聞く。


強力な魔法を使うエルフでも、討伐できなかった魔物。

そんなものが我が国の平原に現れるなど想像もしたくない。


もしインフェルノウルフがガルーシャの森から出てくれば、平原の多い我が国では防ぎようがなかったであろう。

文字通り亡国の危機であった。


そのインフェルノウルフを被害を出さずにヴォルフ大森林へ撃退したのだ、どれほどの感謝を示せばよいのか見当もつかん。

これほどの功績を上げた者への褒美となれば、領地に爵位が順当であろう。更に我が娘の婿とするのもよかろう。

果たしてそれだけで足りるのか?

そして、それらを欲しがるのか?


ガイラスからの報告では、そういうものには興味を見せなかったようだ。

出世や金には興味がないということは、既に金を持っている商人なのか。それであれば後ろ盾などを欲しがるハズだ。

ラインバッハ家の後ろ盾にもさして興味を見せなかったというから、商人でもないかもしれん。


こ奴はいったい何者なのだろうか。


金、地位、名誉に対して欲が薄いということは、さしたる野心もない者に思える。

そんな者がいるのだろうか。


また困ったことに、この者にはエルフと魔人の協力者がいるという。

先ごろ懇意にしている獣王から便りがあったが、どうやらこの者達は無事に目的地である獣王国に着いたようだ。

だが、保護した子供たちはそのまま連れて旅をしているという。

親元へ返したのではなかったのか?


更に、子供たちは獣王の友人として遇されたようだ。

なんと羨ましい。

獣王には同じ年頃の娘がおり、娘共々友人になったと便りには書いてあった。


我が子たちは皆、既に成人を迎えてしまったからのう。

どうやって我が友人としたらよいか………


違う、そうではない!


この恩人へどうやって報いるべきか。

そして獣王の便りに書いてあった、恩人の協力者であるエルフの女王の孫と魔王国の元公爵にも感謝の念を示さねばならん。


だが考えれば考えるほどこの恩人たちをそのままにしておくのは勿体ない。

さすがに女王の孫や元公爵はムリだろうが、この恩人だけでも臣下とすることはできないだろうか。


だがのぅ、そもそも彼の者が欲しがる物を用意できない以上、臣下なぞ望むべくもない。


だぁ~、どうすればよいのだ!


そうだ、ガイラスはナイフを渡したそうじゃな。

同席していたギルドマスターがガイラスに忠告したようだが、渡された方はナイフの価値を分かっていなかったようだ。

やはり後ろ盾というものも、さしたる褒美にはならないと思われる。


それでも国境ではそのナイフを警備兵に示したようだ。

使いどころは心得ているのか。

だが、どこまでそれを望んでいるのやら……


彼の者にとって褒美としての意味が薄いのかもしれんが、聖剣を渡そうか。

我がガイン王家は、元々はイシュベルク神聖帝国から出た家だ。

古くから伝わる聖剣・魔剣が何本か宝物庫にある。


その中でもエクスブリナーとカラドローグは兄弟剣として伝わる聖剣だ。

兄弟共に手を取り国を開くと言われた剣を、彼の者と我が王家が持つことで我らの仲も盤石となろう。我が意は伝わるハズだ。

その兄弟剣の内、カラドローグを彼の者に渡そう。


我が友情の証として渡せば、受け取ってもらえるのではないだろうか。

しかしそれを重荷と思われたらどうなるだろうか。

受け取ってはもらえないかもしれん。

だが、領地や爵位のような褒美がダメなら、我が友人として遇するのは悪くないと思う。


彼の者を我が友人とすれば、獣王が友人とした小さき者達も友人となってもらえよう。

うん、余もやればできるではないか。

恩人に褒美を渡し、尚且つ友人を増やす。

一石二鳥ではないか。


彼の者が我が国を訪れた時、是非ともこの城へ招待しよう。

獣王国の王都を出たあと、彼の者はどこへ向かったのだ?


そう言えば獣王から便りにはまだ先があったな。あ奴は基本脳筋だが、仕事は卒がないからな。

なんと、武技であの獣王をも圧倒したと言うのか。人魚の島へ向かったとあるが、どういうことだ。

ああ、女王の孫がいたな。エルフと人魚は友好的な関係だと聞いている。それで向かったのか?


そう言えば、人魚の島の近辺で魚が捕れないと騒ぎになっているらしいが、我が王都の海でも同じように不漁が続いている。

これは何か関係があるのだろうか。

何事もなければよいのだが……


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