表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

脳筋

余計な隙を見せたばかりに、宰相がワシを監禁しおった。

何ゆえワシがこんなところ(執務室)に閉じ込められねばならんのだ。

まったくあやつはわかっておらん。


今年も武闘会の季節を迎えておる。

このときをどれほど待ち焦がれていたことか。

日々鍛錬を積まねば、筋肉は衰えるのだぞ。


「鍛錬よりもやることが山積みになっております。どうかお早く決済いただけますようお願いいたします。」


お主、慇懃無礼という言葉を存じておるか。

その手に持っておるのはなんじゃ、ロープではないか。

ワシを縛り付けるというのか。


「陛下、玉座の座り心地がよろしくありませんか。しっかり腰を据えて決裁書の処理をお願いします。」


おい、ワシはこの国、獣王国の王バルガンなるぞ。

その王を椅子に縛り付けるとは何事じゃ。


「陛下、今年も武闘会の季節がやってまいりました。」


分かっておる。それゆえこんなところに居る場合ではないのだ。

筋肉は嘘をつかんのじゃ。日々鍛えねばならん。

早くこのロープを解かんか。


「武闘会を開催するためには会場となるコロシアムはもちろん、参加する選手たちや観戦する者たちの宿、食事をする場所、あらゆる施設をフル動員しなければなりません。通常の宿や食堂などでは圧倒的に足りません。早くこの決裁書にサインをいただかないと対応できなくなります。」


そんなものお主が許可を出せばよいではないか。


「何を仰いますか。ここは王都にございますぞ。陛下のお膝元で、陛下の許可なしに勝手に店を出したり、人を呼び込むことなぞできません。」


ワシが許す、お主の裁量で何とかせい。


「生憎我が獣王国の制度では、宰相の許可ではダメなのです。」


そんな制度なぞ捨ててしまえ。


「お忘れですか陛下。そのように仰った先々代の国王陛下を御諫めするために、この制度を我が祖父が制定したことを。」


お主、爺様の代にまで遡ってワシにこのような嫌がらせをしておるのか。


「とんでもございません。陛下の臣であるわたしは、陛下の安寧のため日々努めております。」


ワシの安寧を望む者が、何故ワシを椅子に縛り付けるのだ。


「陛下の安寧を求めるために、臣である私がお助けするのは当然ですが、陛下御自身の努力も必要なのです。」


こやつめ、どこまでワシの邪魔をするのだ。


「さあ陛下、決裁書はまだまだございますぞ。この山一つが武闘会関連ではございますが、こちらの山に通常業務としての決裁書、嘆願書モロモロがございます。陛下、時間は待ってはくれませぬ、有効に使ったその先にこそ極楽が待っております。」


お主、一体ワシにどうせよと言うのじゃ。


「朝から晩まで筋肉筋肉言ってる暇があるなら、さっさと決済処理をしてくださいということです。」


こやつめ、小さい時からワシのことをネチネチと攻め立てておったな。

そんなことだから嫁に逃げられるのだ。娘はだいぶできた者のようだが。



「陛下、よろしいのでございますか? 何でしたら私の方から王妃様にご報告申し上げますが。」


それだけは止めろ。よいか、それだけはならん。

奥に戻ってからもアイツに攻められてはタマらん。

ワシは王をやめるぞ。


「王子殿下はまだ幼うございます。殿下が戴冠を迎えるにはだまだ時がかかりましょう。陛下、頑張ってください。」


この野郎、だんだん本性を出してきやがったな。

いいから、ワシに筋肉を。

鍛錬のない人生など、塩を振っていない兎の肉ではないか。

そんな味気のないものはいらん。


「味気のない人生を送らぬよう、職務に励まねばなりません。よく言うではありませんか、楽あれば苦あり。逆もしかりでございますぞ。」


こやつめ、苦し紛れに何を言っておるやら。

そんなことでは獣王国の宰相なぞ勤まらんのではないか。


「よろしゅうございます。私以外に陛下を御諫めし、職務に支障をきたさない者がいるのであれば、喜んでこの職を明け渡しましょう。」


待て、お主何を言っておる。


「代わりの者がいるのであれば、いつでも私は城を去りましょう。嫁の里に行って嫁を連れ戻してきますので。」


あれ、何故お主が辞める話になるのだ。


「陛下が先に仰ったことにございます。お主には宰相は務まらんと。私はいつでも職を辞しますぞ。」


ちょっと待て。それではこの書類の山はどうなるのだ。


「そのようなもの、陛下なり代わりの宰相が処理すればよろしいのです。職を辞すれば私には関係ございません。」


そんなことできるわけがなかろう。さっさとこれを処理するがよい。


「それは初めから申し上げている通り、陛下の仕事でございます。何卒早く済ましてしまうようお願いします。」


致し方あるまい。早々に処理してやろう。




こうして獣王国の王都では、日々職務が遂行されていく。

聊か脳みそが筋肉だと言われている獣王の日常であった。


それでいいのか、獣王国。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ