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遠出

 目が覚めてふと窓の外を見るとまだ外は暗かった。何時だろうかと思い部屋の壁にかけられた時計を見ると時刻はまだ朝の5時くらいだった。一体何時間しっかり眠れたのだろうか。レイとセイジに目を向けると二人はまだ眠っている。とてもいい寝顔だったので、俺は二人をそのままにして部屋の中にある洗面台へと向かった。


 洗面台にたどり着いて、顔を洗う。それが俺の朝の日課だった。顔を洗い終えてタオルで拭いていると、ふと気になったことがあった。今、俺たちが出て行った地元はどうなっているのだろうか。それが気になった俺はデバイスですぐに検索をかけた。検索結果はすぐに出た。町のニュースサイトを見ると、大見出しに“町内高校の生徒3名が行方不明”の記事が見つかった。様子を見ると町内は俺たちの件でかなり騒いでいるようだった。町長までもが捜索に力を入れているのだという。俺はこの記事を読んでもなんとも思わなかった。だが、二人がどう思うかまでは俺には想像できなかったから、俺はレイとセイジにはしばらく黙っておくことにした。


 そうしていると、ドアを叩く音がした。俺が応じてドアを開けるとそこにはエドが立っていた。彼は機嫌良さそうに挨拶をした。


「おはよう」


「おはようございます」


「これから朝ご飯だ。二人を起こしてダイニングまで来てくれ」


 俺は頷いてそれに応じた。すると彼はすぐに向こうのほうへと歩いていった。ドアを閉じた俺はすぐに服を寝巻きから着替えて、二人を起こした。二人はとても眠そうだったが、なんとか準備を整えて部屋を出た。


「なあ、今日はエドがどこかへ連れて行くって言ってたよな。どこへ行くんだろうな? 」


 ダイニングまで歩いているとセイジがそう言った。確かにエドはどこへ連れて行くつもりなのだろうか。俺たちは歩きながら少し考えてみたが行き先は全く思い浮かばなかった。後で冷静に考えるとそれもそのはずで、俺たちはこの星に何があるのかさえ詳しく知らずに来ていたからだった。ダイニングへと着くと、すでにアルフレッドがテーブルに朝食を並べてくれていて、エドも席に座って俺たちを待っていたようだった。


「おはよう諸君。今日はかなりの長いドライブになるから、今のうちに好きなだけ食べておけ」


「ありがとうございます」


「では、遠慮無く」


「いただきます」


 エドの挨拶にそれぞれ返しを入れると、俺たちはすぐにご飯を口に入れた。


 二十分ほどかけて食事を済ませた俺たちは、少しの手荷物を持って屋敷内の庭に出て、エドの車へと乗った。


「では、行くぞ」


 そうエドが言うと、車の自動運転装置が作動して、設定された進路を走り始めた。屋敷が少しずつ遠くなっていく。よく見るとアルフレッドが手を振り続けている。


 俺は開いた窓から入ってくる外の空気が少しだけ美味しいと感じた。


 車を走らせはじめて一時間が経過した。エドが連れていきたいという場所まではもう一時間はかかると車のナビシステムが教えてくれたので、俺たちはエドとまた話をすることにした。


「エドの屋敷って元々誰の家だったんですか? 」


 セイジが一つ疑問を尋ねた。エドはこれまでと変わらない様子で、


「あれは、私の祖父が建てたものだ。そろそろ築五十年は経つかな」


 と返したが、


「これまでどんな発明をしたんですか? 」


 そこにすかさずレイが新たに質問をした。俺はよくわからなかったが彼はレイの質問にもしっかりとした答えを出してくれたのでレイは納得しているようだった。


「ワタルはエドに聞きたいことあるか? 」


「ああ、そうだ、そうだ」


 セイジが俺に話を振ってきた。レイも相槌を入れている。俺は少しだけ考えた末に一つ気になったことがあった。


「昨日、“君たちのような子を大勢見てきた“と言っていましたけど、どういうことですか? 」


 俺が聞いたあと、エドの表情が少しだけ変わった気がした。さっきまでとは車内の空気が違う。


「私は若い頃、金にモノを言わせて旅をしたんだ。まだ人の手が及んでない星とか、衛星とかにな。目的はロマンを追い求めるためで、その時に多勢の同志たちと出会った。彼らと交流が深くなっていくうちに彼らの昔も知るようになった。すると、中には家出したからずっと旅をしているという連中がいたりしたものだ。仲間にアリスという女船長がいるのだが、彼女なんかもそうで…… 」


 話はそこからさらに続いた。エドが若かった頃、ティーンエイジャーが家出した末に旅人か海賊になることが続出したそうだった。エドは高校生三人きりで離れた星からやってきた時点で家出の類だと気がついていたそうだ。気がつくと俺はエドの観察力に思わず感銘を受けていた。


「ロマンってどういうことですか? 」


 話が一区切りしたところでレイがまた質問した。エドは屋敷から持ってきた水を一口飲んでから話をしてくれた。


「私の場合は人間がまだ発見できていない資源を自分の手で見つけることだった。私は途中で諦めてしまったが、同志たちや海賊は今も探し続けている。私は惑星アマゾネスに新しい資源があること自体はつきとめたが、実際に現物を手にすることまではできなかった。懐かしい」


 最後の一言には言葉通りの意味や悔しさ、諦めなどのいろいろな含みがあるように俺は感じられた。エドの本質が知れた気がした。目的地まではさらにあった。今の会話でも三十分程しか時間が経っていなかった。しばらく俺たちは何も喋らなかったが、そうしているうちにまた三十分ほどが経ち、遂に目的地へと到着した。


「さあ、着いたぞ」


 エドはそういうと、ドアを開けて外へと出た。俺たちも続いて外へと出た。ここはどこなのだろうか。少し冷たい空気が体に当たって寒かった。


 ついた場所は、見渡す限り草原だった。一見すると何もなかったが、遠くの方を見ると、何かが直立していることに気がつく。


「ここはな、ソールズベリーと呼ばれてる街の中心から二十キロは離れた場所で、もう少し歩いた場所に遺跡があるんだ。遺跡と言っても、地球にあった物のレプリカだが」


 エドが現在地の説明をゆっくりした速さで歩きながらはじめる。俺たちは彼の歩くスピードに合わせてついて行った。ソールズベリーという街もまた、かつて地球にあった街の名前から来ていて、観光業で経済を回していると彼は教えてくれた。


「ここには人間が住むまでは何も無かった」


 エドが感慨に浸りながら話を少しずつ切り出していく。彼は何かに思いを馳せているようだった。話が続く。


「半世紀以上前にコンピューターの技術的特異点が起こった。その結果、多くの技術が見直された上、全く新しいものも発明された。その末に人類は惑星環境をテラフォーミングする技術とワープドライブエンジンを手に入れて宇宙開拓を始め、多くの人々が新天地を求めてあちこちの星へと移っていった」


 エドの話は学校のいつかの授業で習ったものだった。もともと地球には七十億以上の人間が住んでいたが、宇宙進出が始まると徐々に住人は減っていき、今現在地球に住んでいるのは一世紀前と比べて半分にも満たない数だという。俺は何か壮大な物語を現実に見ている気分になっている。つい一週間ほど前まで地球の片田舎に住んでいた俺にとって今の世界は現実味が無く、人が本当に宇宙で暮らしているも実感が湧かななかった。だけど、今こうして宇宙を飛んで、人が宇宙で暮らしているのを見て、この時は言葉では表せなかったが強い思いが俺の中を駆け回っていた。


「さあ、歩いているうちに着いたぞ」


 いつの間にか目的の場所へとたどり着いた。前方を見るとさっき遠くで見た直立している何かがとても近くにあった。よく見ると、巨大な石を立てているだけの簡単な造りで、同じ物が円を描くように何個も並んでいる。


「これはストーンヘンジという物で、地球にあった遺跡の複製だ」


「すごい…… 」


 俺たちはこの壮大なストーンヘンジを見て、思わず息を呑んだ。


「どうして、複製をここに建てたんだ? 」


 セイジが気になることをエドに尋ねた。確かになぜ、複製を建てる必要があったのだろうか。


「確かに、気になる」


「俺も」


 レイも気なっているようだし、俺も思わず同意していた。エドは俺たちになんと言えば納得してもらえるのかと考えているのようだった。しばらく同じ場所で立ち止まって無言が続く。時は少しずつ進んでいくがエドはなかなか答えてくれない。冬の風がさっきと変わらない強さで吹きつけている。

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