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下宿(2)

 俺たちはエドに連れられた勢いで彼の運転する車の中にいた。時間帯は既に夜の七時となっており、辺りはとても暗く、町の中心部からも少し外れた道を走っている。目的地はエドの自宅で、車に乗る前に聞いた話だと、今からあと十分はかかるとのことだった。


 車内はしばらくの間静かだったが、ふとしたタイミングでエドが一息をついて、運転を自動モードに切り替えて話を始めた。


「なあ、君たちは家出でもしてきたのかい? 」


 その通りだった。俺たちは今、家出をしてこの車の中にいる。どうして見抜けたのだろうか。


「…… どうしてわかったんですか? 」


 気になった俺がエドに尋ねた。すると、彼は少し微笑んだ様子で答えてくれた。


「なあに、簡単なことだ。君たちのような子を大勢見てきたからね。私には直感的にわかるのだよ」


 俺たちはその答えの真意がその場では、よく分からなかったが、何か、自分たちが大事にすべきことを受け入れてくれるような安心感をこの紳士は俺たちにもたらしてくれた。


『自宅前に到着しました』


 またしばらく無言が続いていたが、車の人工音声が、アラーム音と共に目的地への到着を告げ、車が停車した。目を窓の外に向けると、前方には大きな格子状の門が立ち塞がっていた。


「待ってろ。今、門を開けるから」


 エドがそう言って車から降りて門の方まで向かった。レイは少し驚いた表情で、


「これが、おじさんの家? 」


 と問いかけた。エドが門の横にある装置を操作し終えると、門が自動でゆっくりと開かれはじめる。彼は自動車のキーを操作すると、自動車の方もゆっくり動きはじめて、門の向こうへと走る。


「ようこそ! 我が家へ! 」


 彼は大きな声をあげている。俺は呆気に取られて少し混乱した。レイもセイジも同じ思いだったらしく、セイジは少し小さめの声で


「マジかよ…… 」


 と呟いていた。


 門をくぐった先には二つの建物が建っていて、一つは豪華絢爛の言葉が似合う大昔の建築様式が取り入れられている手入れの行き届いた大屋敷。もう一つは、大きなガレージの様な建物で、周囲には様々な工学部品が散乱していた。


 車から降りて大屋敷の中へと入ると、一人の老男性が立っていた。格好からするに召使いのようだった。


「お帰りなさいませ、エドワード様」


「ただいま。アルフレッド」


 アルフレッドはエドの脱いだジャケットを手に取ると何も言わずに去っていった。


「今のは私の召使いのアルフレッドだ。さて、ご飯にするとしよう。彼にご飯の相談をしてくる」


 そう言ってエドもアルフレッドと同じ方向へと歩いていき、この場には俺たちだけになってしまった。


「なんか、とんでもねえことになったな」


 セイジが小声で俺とレイに話しかけた。俺とレイは共感の意で大きく頷いた。これから俺たちはどうなるのだろうか。そう考えている間にエドが戻ってきた。


「こっちに来たまえ、さあ今からご馳走だ」


 戻ってくるなりエドは手招きをしながらこう言った。俺たちは昼から何も食べてなかったこともあって、彼についていくことしかできなかった。


 しばらく歩くと、これまた豪華な部屋へと案内された。広めの空間に綺麗に整えられた大きなダイニングテーブルが一つと、豪華な装飾の施されたイスが左右合わせて十席ほど並べられ、壁には価値のありそうな大きい絵画が掛けられている。俺たち3人は横に並んで座る。エドは俺たちと対面できるように斜め前に座った。それから程なくして、アルフレッドがご馳走を人数分運んできてくれた。


「さあ、ゆっくり食べてくれ」


「いただきます…… 」


 エドに言われるがまま、俺たちはご馳走を口へと運ぶ。とても美味しい。気がつくと、料理を口へと運ぶ手が止まらなくなっていた。


「君たちのデバイスを直すのに時間がかかりそうなので、しばらくここに泊まるといい。必要なことがあったらアルフレッドに聞いてくれ」


 食事が一通り済んだあと、エドはこう言ってくれた。俺たちは断る理由もなかったので彼にレイのデバイスを渡して、アルフレッドに部屋へと案内してもらった。部屋へと入ると、やはり部屋はとても広くて、俺たち三人がしばらく滞在する分には困らない環境だった。


「なあ俺たち、とんだ所まで来ちまったな」


 部屋に荷物を広げ、三人それぞれシャワーを浴びたあと、いざ寝ようとした時にセイジが少し楽しげにこう言った。


「だね」


「そうだな」


 レイと俺も同感の言葉を愉快げに言う。直後、俺たちの間で爆笑が起こった。


「俺たちの街からまさか、ここまで行くことになるなんて」


 俺が笑いながら呟いた。すると、どういうわけか笑いながら俺の目から涙が出てきた。


「おい、ワタル大丈夫か? 」


「大丈夫」


 俺は笑い泣きながらセイジの心配に対して“大丈夫”と言ってしまった。心のどこかでは大丈夫じゃなかったはずなのに。この時の俺は感情を整理しようにもできなかったし、どんな感情なのかもをうまく言葉にはできなかった。レイとセイジはそれを汲み取ったのか何も言わずにいてくれた。俺が一通り泣き止んだタイミングでドアをノックする音がした。


「はい」


 レイが応じるとドアの向こうからエドがやってきた。彼は少し優しい表情で話をはじめた。


「明日の朝、君たちを連れていきたい所がある。良いかな? 」


「…… 良いですよ」


「良いですが」


「構いませんよ」


 特にここでやることを決めていなかった俺たちは、エドの提案に乗ることにした。

むしろ、この地でやることができてありがたかった。


「じゃあ決まりだ。では、おやすみ」


「おやすみなさい」


 三人揃ってエドに挨拶をした。彼はそれを聞くとドアの向こうへ去っていった。俺たちは一日動き回って疲れていたので、程なくして部屋の明かりを消してベットに入った。


 窓から月がよく見ていた。

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