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アンカー級宇宙船

 全ての始まりは高校二年の秋だった。俺とレイとセイジの三人は紅葉で色付き始めた森の中、ある一隻の宇宙船を発見した。この森の中にある広大な草原にその船はまるで誰かの帰りを待っているかのように存在し、遠くから一見するとその船は大昔に海洋船に取り付けられていた錨という道具の様な形をしていた。


 気がつくと俺たち三人はあの船に導かれるかの様に足を船に向けて歩いていた。なぜ、ここに宇宙船が置かれているのか。三人揃って考えることは同じだということだった。


「ワタル、あれは見るからにアクア社のアンカー級民用船だな。でも所々改造が施されているようにも見える」


 船好きのレイが興奮した様子で俺に話をする。彼によると、あの船は二十年以上前にアクア社という有名な造船会社が主力製品にしていた物で船好きの間では愛好家が多いのだそうだ。


「で、なんでそんな物がここにあるんだ? 」


 不思議そうにセイジがレイに尋ねた。俺もかなり不思議だった。なぜこんな誰も来ない田舎の森の中に一隻だけ宇宙船が置かれているのか。俺たち三人は納得の行く結論が出せなかった。


 俺たちは船体の真下までたどり着いた。よく見ると船体のあちらこちらにサビができていて、だいぶ傷んでるようだった。つまり、この船は誰かが使わなくなったから不法投棄した物なのだろうと俺は考えた。


 俺とセイジが船体を見回している一方で、レイは何かを探しているようだった。彼は隈なく船体を覗いている。

すると、何かを見つけたようで喜んだ表情を浮かべた後、手招きして俺とセイジを呼び出した。俺たちはレイの方へと着く。彼は船体に取り付けられている何かの装置類を指さした。


「見て。これで船内に入れる」


「入るって、おいマジか」


「これで何かあったらどうするんだ? 」


「良いから、良いから」


 俺とセイジはレイを制止する。だが、それも虚しくレイは楽しげにスイッチを押した。そして、船は大きな装置が動く音を鳴らし、同時に煙を吐き出しながら、出入り用のスロープを展開した。


「お前ってやつは」


 セイジが呆れたような顔をして一言呟いた。俺も心の中では同感だった。


 こうなれば、中を隈なく見てみよう。俺とセイジはそう考えてレイの勢いに身を任せて船内へと入った。中に入ってすぐの通路を見ると内装は外側に比べて損傷や汚れらしきものは少なく、想定していたよりかは綺麗な状態だった。俺たちはまず、入ってすぐ正面に掛けてあった船内図を確認した。


「なるほど......、個室が四つに、ラウンジが二つ。操縦室と機関室がそれぞれ一つか」

「どうやって探索するんだ」

「三手に別れるのはどうだろうか? 」


 俺たちはセイジの提案で三手に別れて探索を始めた。俺が個室四つを、レイが操縦室と機関室を、セイジがラウンジ二つを見ることにした。


 俺は通路を渡って個室が並ぶエリアへと向かった。エリアにたどり着くと左右それぞれ二室ずつ個室が並んでおり、俺は右手前の部屋の扉を開けて、中へと足を踏み入れた。


 確認すると人一人が衣食住をするには問題がない広さと設備を備えていた。服を四着はしまっておけるクローゼット、最寄の放送電波をキャッチして映してくれるモニター、冷蔵庫に電子レンジがあり、更に風呂、トイレ、洗面台もあった。


「まじかよ」


 俺は思わず独り言を呟いた。その後、この部屋を出て残り三室も確認する。どの部屋も先ほどと同じ設備が整えられていた。


 三手に別れてから二十分が過ぎて俺たちは合流し、それぞれの収穫を俺、セイジ、レイの順で話し合うことにした。


「個室四つは全て綺麗な状態だったぜ。モニター、クローゼット、冷蔵庫、レンジ、トイレ、風呂がどの部屋にも備えられてた」


「こっちのラウンジ二つは、片方には何も無かったが、もう一つの方にはコンロや、シンクがあったからここで料理とかをしていたんだろうな」


「僕は機関室と操縦室を見てきたけど、あちこちの装置が劣化していて、このまま動かすことはできないと思う」


「なるほどな…… 」


 二人の話を聞いた後、俺は一言呟いて情報を携帯のメモアプリに書き込んだ。こういう新しい発見は何かの記録に残した方が良いと聞いたことがあったから、書き込んでおいたのだ。


「……やっぱり、この船は捨てられた物だよな」


 俺がメモをかきこんでいるとセイジが小さめの声で呟く。俺もレイもセイジの分析に納得はしていたが、俺には一つだけ気がかりがあった。俺はそれを口にすることにした。


「なあ、この船が捨てられたという事には納得している。だけど、一つ引っかかることがあるんだ」


「なんだよ」


「どういうこと? 」


 セイジとレイが尋ねてきた。俺は一呼吸置いてから、また話しはじめた。


「それはな、なんでここに捨てたんだよって話。ここは、今、俺たちがいる森の中でもそんなに木々が生えていないから上空から見るとすぐに見つかるぞ。コソコソと捨てるためにここに置いたのだとしたら、意味がないんじゃ無いかってな」


「…… 確かにな」


 セイジが同意する。レイも同じ意見らしく、俺に向かって首を頷けていた。俺たちは更に十分以上かけて船内を見回りながらなぜここに置かれたのかの理由を熟考したが、結論は出なかった。



 船内の窓から外を見るとだいぶ日が傾いてきたようだったので、俺たち三人はそれぞれの家に帰ることにした。今日は本来ならばこの森の先にある山まで行って中腹まで登山をする予定だったが、その道中で船を見つけたため、この状況となっていた。


 俺たちは船を降りて、状況を発見前の状態に戻した後でもと来た道へと歩きだした。


「これは、どうする? 警察に突き出すか? 」


 少し歩いてからセイジがそう言って足を止めた。確かにこの船をどうすべきか考えていなかった。


「しばらく様子をみるのはどう? もしかしたら勝手に見つかるかもしれないし」


 レイが提案する。彼にはまだ船を調べたいという欲があったのだろう。俺もまだこの船には興味があったので賛同の意味で頷いた。


「じゃあ、しばらくは言わないでおくか…… 」


「それでいいと思うぜ」


 俺たちは宇宙船にもう一度目をやった後、再び歩きだした。空は既に暗かった。


 


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