009話.風の魔神
街の近くの丘の上から炎上する街の様子を見守るペリエ達。
街の近くを流れる川の向こう側から侵入を果たした隣国の部隊は、次々に街に侵入していく。
街中で城壁の上で街の外でいくつもの部隊に分かれ、投降する街の守備隊の武装解除を行っている。
「まさか僕達が逃げたから負けたのかな」
「そもそもペリエ殿と妖精ルリ様がいないとはいえ国境の川を越えて敵国に侵入したのは、辺境を守る領主が自らが判断して行った事だ。それをペリエ殿の責任だと感じる必要など無い」
ダークエルフのシルキーが真顔でそんな事を言い放つ。
すると新しく仲間になった土属性の妖精が丘の上に魔法で横穴を掘り始めた。穴を掘った跡が残らない様に地表に生い茂る草をそのままに器用に掘っていく。
穴は丘の上から横方向に伸びていき、膝を付いて入れる程度の広さである。その穴の中に入り辺りの様子を伺うペリエ達。
魔神は、街の上空をったり来たり何かを探している様に見える。
その魔人が何かを見つけたのかこちらに向かって飛んできた。
「まずい。穴を掘るのをやめて!」
穴の中でじっとするペリエ達。穴を掘るのをやめ固まった様に動かなくなる妖精。
丘の上空に飛んで来た魔神は、空から地上を見下ろして何かを探している。
しばらくすると近くの森や点在する別の丘の方向へと移動していった。
空に目線を泳がせ魔神の動きを探る妖精とペリエ達。
「まさか僕達を探してるのかな」
「魔神の動きは、そんな風に見えるね」
「でも僕達を探す理由って何?」
「簡単さ。川を渡って来た数千の部隊を僕が水魔法で溺死させたんだ。その魔法を使う者を探さないとまた攻撃されかねない」
鍵妖精キーの言葉に妖精ルリが答える。
確かにキーの水魔法により川を渡る部隊の殆どを溺死させた。さらに街の城壁にまで到達した敵部隊は、シルキーの矢で射殺した。
ところがいざ街を攻め落としたら、そんな魔術師もいないし弓使いの姿もない。
普通に考えれば、街の外で次の攻撃の機会をうかがっているとしか思えない。
「恐らくだけど魔神は、街を攻撃した部隊が負けたから来たんだと思う。そうでなければ街を占領するために最初から魔神が出て来るはず」
妖精ルリがそんな話を終えると妖精達を集めて何かを話始めた。
ペリエには、妖精達の言葉が分からない。そんな妖精達が何かを真剣に話しそして会話が終わる。
「ちょっと街に偵察に行ってくる。街に魔神がいると僕達もここから逃げる事もできないから」
「分かった。でも危険な事はしないで」
「了解!」
ペリエに笑顔で軍隊風の敬礼を返した妖精ルリ。そのあとに新しく仲間になった土属性の妖精も続く。
「キーは、ここに残っていて。食料の調達の時に鍵を開けられるキーがいないと日々の楽しみがないからね」
「了解!」
鍵妖精のキーも軍隊風の敬礼を返す。
そして妖精達は、穴から低空飛行で街へと向かった。
「妖精様は、大丈夫でしょうか」
「少なくとも僕よりも強いし、何とかなるよ」
シルキーの言葉に根拠の無い言葉を返すペリエ。だがこの中で最も弱いペリエからしてみれば、頼りになる妖精達がもし負ける事があれば、それは己の死をも意味する。
大した言葉ではないがその言葉には祈りの様なものも含まれていた。
木々や草むらの中を低空で飛行するルリ達。
ときたま上空を飛ぶ魔神の姿を確認して木陰に身を隠してやり過ごしていく。
そして街の城壁までやって来た妖精達。
「見つかったか?」
「いえ、ですが捕虜達がおかしな事をほざいています」
「なんだ」
「はい。それが我らの陣営に攻撃を仕掛ける前に逃げたと・・・」
城壁の上で兵士が部隊長らしき指揮官に報告をしている。その場面に出くわした妖精達は、城壁の影からこっそりと聞き耳を立てはじめた。
「逃げたとはどういう意味だ。脱走兵という事か」
「いえ、何でもこの街にやって来た冒険者というか傭兵団だそうです」
「傭兵団?ではそれなりの数なんだな」
「それが捕虜達は、興味深い事を言っています。傭兵団に妖精がいたらしいのです」
「いたらしい?らしいとは何だ」
「ご存じだと思いますが我ら人族に妖精は見えません。その存在すら認識が出来ません。ただ、その傭兵団にダークエルフの女がいたそうです」
「ダークエルフ。そうか、あいつらは精霊や妖精を神として崇めていたな」
「はい、傭兵団の団員数は、たった4人だそうです。ただ、その中に妖精が2体いるという話です」
「分かった。その話は、私が魔神様に報告する」
兵士は、部隊長に敬礼をするとその場を去っていく。
部隊長の横で報告を聞いていた副官は、兵士の報告の中にあった妖精という言葉をにわかには信じられずにいた。
「隊長、まずいですね。城壁までたどり着いた者達が矢でことごとく射殺されています。その事からダークエルフが居たという事実が分かります、ですが・・・」
「問題は、その妖精の方だな」
「はい。妖精は魔神様により全て封印されたとお聞きしております」
「恐らく水魔法を使ったのは妖精だ。我らの部隊は、あの水魔法で半分以上や殺られたからな。恐らくあれでも本気ではないだろう」
「あれで本気ではないのですか?」
「私も古い文献を読んだだけだが、妖精にもよるが魔神様に匹敵する力を持っている者もいるらしい」
「まさか、それほどの力を。妖精は、我らには見えません。もしかしたら既にこの場所にいるかもしれません」
「そうだな、ここは魔神様に頑張っていただくしかない」
隊長とその副官は、数人の兵士を引き連れ街を占領した部隊の本部へと向かった。
その話を城壁の影から静かに聞いていたルリ達。
「僕達の事がばれたみたいだね」
「いずれはばれると思っていたけど、ちょっと早すぎるかな」
妖精達は、城壁を去りペリエ達が待つ丘へと戻っていく。
魔神が空を飛び何かを探す中、ここから歩いて移動すればいずれは見つかる可能性がある。
では、精霊神殿に行く時にやった様に妖精ルリの魔法ランタンの中に隠れて妖精ルリが魔法ランタンを持ってこの場を去ればよいのではないか。
そう考えたペリエは、その事を妖精ルリに話してみた。
「う~ん。それは問題があるんだ。魔法ランタンにペリエ達を入れる時にかなりの魔力を使うんだ。その瞬間、魔神に魔力感知で見つか可能性が高い」
丘の上の横穴の中で地面に直接座りながら腕組みをして考え込む面々。
「まあ、少し状況が変わるまでここで時間をつぶそう。もしかしたら魔神も諦めて帰るかもしれない」
妖精ルリの言葉に他の意見も出なかった。
仕方なく横穴の奥に野営で使う幕を張り交代で見張りをする事にした。
昼に夜に魔神は、空を飛び何かを探す。さらに小部隊に分かれた兵士も街の周囲に頻繁に偵察に出ていた。
「これだと魔神に見つかる前に兵士達に見つかりそうだね」
「ああ、下手に戦いになり魔法でも使えば、それこそ魔神に見つかってしまうな」
丘の上の横穴の小さな出入口から様子をうかがうペリエとシルキーが小声で話す。
数日が過ぎても魔神は、相変わらず街の周囲を飛び何かを探している。相当な用心深さである。
さらに数日が過ぎた頃、妖精ルリが興味深い事を言い出した。
「異世界のおじさんが面白い事を教えてくれた」
そういってペリエ達の前にある物を出した。
「これが異世界のらいたーという火を付ける道具。そしてこっちが小麦粉が入った袋」
「小麦粉?あのパンを作る材料の?」
「そう。これで魔神に攻撃を仕掛ける」
「小麦粉でですか?」
「そう。小麦粉で!」
不思議な事を言い出した妖精ルリ。そして何を言っているのか全く理解できないペリエとシルキー。
「もし失敗したらここから逃げるから準備だけはしておいて」
黙ってうなずくペリエとシルキー。妖精ルリは、笑顔で話しているがその話を聞くペリエとシルキーの表情は、は決して笑ってはいなかった。
次の日の朝。まだ朝靄が立ち込める街中で突然に水魔法がさく裂した。
魔法を放ったのは、妖精ルリである。
この街を占領する敵兵士が宿舎に接収した領主の館がルリの水魔法により破壊され崩れていく。
「てっ、敵襲。皆、起きろ。先頭準備だ!」
慌てる兵士達が戦いの準備をする間もなく、床が壁が崩れていく領主の館。
そこに現れたのは、風魔法を得意とする魔神だ。
「ほう、妖精か。お前が我の軍勢を殺った張本人か」
魔神は、人族よりも少しばかり背が高い。
だが羽が生えている訳でもなく頭に角がある訳でもない。皮膚の色も人族と大差ない。人族だと言われても誰も疑わない。
空から現れた魔神は、地上に降り立つと弱い風を全身にまといながら妖精ルリに近づいて来る。
「ひとつお願いがある。僕達妖精は、羽が生えているけど飛ぶ事はあまり得意じゃない」
「ほお、初耳だな。ならば地上で戦いたいという事か」
「そういうこと」
「いいだろう。お前の魔力量からして私に勝てるとは思えんが、私に戦いを挑むそのその気概だけは褒めてやろう」
魔神は、魔力感知により妖精の総魔力量を見抜いていた。それにより妖精ルリの力が取るに足りないものだと見抜いていた。
その言葉を聞いたルリは、片方の口角を上げてにやりと笑みを浮かべた。
「とても弱い僕に合わせてくれてありがとう」
「だが、お前に全てを合わてやるとは言っていない」
そう言い放った魔神は、先ほどよりも体にまとう風の強さが強くなっていく。
魔神に対して水魔法で作った水の塊を投げつけるルリ。だがその程度の魔法が魔神に通用するはずもない。
「私の風の防壁は、物理攻撃も魔法攻撃も通用せんぞ」
さらに体にまとわりつかせた風の防壁を強くさせた魔神。
その時、魔神が歩く地面に小さな穴が開いた。そこから白い粉が噴き出し魔神の足元から体にまとわりつかせた風の防壁の中を白い粉が舞っていく。
「なっ、何だこれは!」
魔神の周囲を小さな竜巻の様に風の防壁が囲う。
その防壁が一瞬にして白く濁り周囲の視界を遮る。
地面の穴から噴き出た白い粉。その穴から今度は、金属製の棒がにょきっと姿を現しその先端で火花が飛ぶ。
ドンッ。
その瞬間、魔神の体を守る防壁があろうことか爆音を響かせ大爆発をおこした。
防壁は、魔神を攻撃から守る。だが防壁そのものが爆発する事など想定していない。
黒煙が立ち込め周囲の建物も爆風で半壊する。
魔神は、爆発の黒煙の中から姿を現したが全身が真っ黒で髪の毛はチリチリと燃えていた。
口から鼻から黒い煙を噴き出し、皮膚が真っ赤にただれている。
「なっ、何をした妖精!」
魔神は、ダメージを追いながらも妖精に向かって地を響かせる程の大声を発した。
子供の頃に見たニュースでは、まだ日本に炭鉱がいくつもありました。
そこでこんな事故があったと記憶しています。
粉塵は、石炭の粉でなくてよいらしく小麦粉でも何でもよいそうです。
試した事も見た事もないですが怖いですね。
ふもとっぱらキャンプ場で3回目の冬キャンプをしてきました。
氷点下10度も覚悟していましたが、思いのか暖かく氷点下1.7度でした。
富士山を見ながらのんびり冬キャンプもいいです。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/