007話.監視と逃亡
この街の領主である男爵が街への逗留する代わりに食事と宿泊先を確保すると言って来た。
だが、そんな甘い言葉には裏がある。
ペリエ達が通された部屋の扉がノックもなく突然に開かれると多数の武装した兵士が入って来た。
その光景に驚き言葉もなくただ眺めるペリエ達。
「まあ、あれだな。私もただでこの街にいて欲しいなどと無粋な事は言わんさ。それなりの報酬を出そうではないか」
男爵の顔は、さっきまでの紳士的な表情から悪だくみを思いついた悪徳領主のものへと豹変していた。
「つまり僕達にその提案を断る事はできないと言う事ですか・・・」
「まあ、そういう事だ。私の目には見えない・・・その妖精とやらがどんな存在なのかは分からんが、少なくとも断ればそっちのダークエウルフはさておき、小僧のひとりくらい地下牢に閉じ込めるくらい簡単だ」
ペリエ達の後ろに居並ぶ兵士達は、腰にぶら下げた剣に手をかけている訳ではない。だがいつでも剣を抜ける態勢である事は、武闘に疎いペリエにでも分る。
さらに兵士の中には、小さな杖を持つ魔術師が何人も含まれている。恐らくペリエが魔石を手に取り呪いを発動する前に魔術師の魔法が発動し剣士達の剣が喉元にあてられるであろう。
「分かった。でも条件がある。僕達の宿泊先は、城壁の上でいい。いつも宿営地で使っている幕の方がなれている」
ペリエの提案に眉を顰める男爵。
「ほう。随分と質素だな。てっきりこの街で最も高級な宿の最も良い部屋に泊まらせろとでも言うかと思ったが」
「この街は、敵軍に攻められている。いつまた敵が来るか分からない。そんな状況で高級な宿に泊まっていたら敵を発見できない」
「そうか。懸命な判断だ。だが、お前達を信用できん。監視の兵士を付ける」
「好きにすればいい」
男爵とペリエの会話は、それで終わった。
多数の兵士に囲まれたペリエ達は、使い慣れた幕が張ってある城壁の上へと戻った。
そしてつかず離れずで数人の兵士が絶えずペリエ達を監視している。
「ペリエ殿。男爵の要求を素直に飲んでしまったが、あれでよかったのか」
ペリエと共に城壁から川の向こう側を見つめるシルキーが釈然としない顔で話しかけてくる。
「まあ、僕とシルキーさんのふたりならいつでも逃げる事はできます。それよりも僕の荷物と妖精さん達の魔法ランタンを隠されでもしたら厄介です」
「厄介?」
「はい。妖精ルリさんは、異世界の食べ物で強くなっています。異世界の食べ物を手に入れるには、妖精ルリさんが封印されていた魔法ランタンを介して異世界に行かないと手に入りません」
「そうであった」
「下手に荷物を隠されたり魔法ランタンを壊されたら僕達も妖精さんもこの先がありません」
「確かに」
「逃げる事はいつでもできます。ですが、それは今ではないと思います。それでもし逃げるとすれば・・・」
ペリエ達は、城壁の遠くで監視する兵士達の事など気にする事なく、逃げる算段を話し始める。そして話は、食料と金を取れるだけ取ろうという悪だくみへと変わっていく。
それから3日程経ったが敵軍が攻めて来る様子はない。ただ、川向うの森の中に敵軍が陣を張っている事は、偵察部隊により知らされていた。
その間、ペリエ達はどうしていたかというと・・・。
妖精達が街の食糧庫から美味しそうな食材を次々と拝借し、城壁の上に張られた幕の上で食べていたのだ。
人族の目には見えない妖精。彼らが鍵のかけられていない食糧庫から食べ物をくすねて来る事など寝言をいうくらい簡単だ。
さらに高級食材が保管されている食糧庫の鍵は、鍵妖精のキーが簡単に開けてしまった。
食材を管理している調理人は、度々無くなる食材に疑問を持ったが、鍵をかけられた食糧庫に誰かが入った痕跡はない。
疑問に思いつつも朝に昼に夜に好き放題に食料をくすねる妖精達にやられっぱなしである。
そして戦費を預かる経理部門が置かれた領主の館。
そこにも妖精達が夜な夜な入り込んでは、分厚い扉とこの世界の最高の技術で作られた鍵で守られた金庫から金貨をくすねていた。
いくら経理部門の前に武装した兵士を配置しても妖精など見えないのだから意味がない。
しかも鍵妖精のキーにしてみれば、こんな金庫の鍵などお菓子を食べながらでも開けられるのだ。
ただ、金庫から持ち出した金貨は、兵士の目に見えてしまう。
見回りの兵士の目を盗み窓を開けては、少しずつ金貨を運び出す妖精達。
この物語の妖精達は、少々手癖が悪いがそれもこのすさんだ世界を生きていく上で必要なのだ。
敵軍が動きを見せない間、街を守る軍勢に動きがあった。
この街の領主である男爵の元にこの地方を統括する伯爵が援軍を送って来たのだ。その数ざっと6000人。
とはいえ伯爵の正規兵は1000人程度。それ以外は、やはり他の街や村から集められた領民である。
軍を率いる軍勢の長は、伯爵の長男である。何度か戦場に赴いた事はあるが実際に軍勢を統率するのは、伯爵が付けたお目付け役の参謀達だ。
参謀の言う事に頷き許可を出すだけの存在。そんな彼が次期伯爵になるための実績作りにと派遣されたのだ。
そして敵軍の攻撃に耐え殆ど損害が出なかった事を褒めたたえた伯爵の長男は、事もあろうか敵軍に向かって進撃するという暴挙に出た。
いさめる参謀達の言葉に耳を貸さず、普段ならお飾りとしてただいるだけの軍議に積極的に参加し発言に発言を重ね、味方の軍勢を賛美し敵の軍勢を卑下した。そして全軍を進軍させる事がとんとん拍子に決定された。
あきれる参謀達だったが敵軍の倍以上の数である軍勢であれば、後れは取らないと確信したようで一戦交え敵を蹴散らし、そして速やかに撤退するというお花畑な作戦が立案された。
そんな作戦の要というか軍勢の先頭に立たされる事となったのがペリエ達である。
ペリエ達も街を守るために戦う事はやぶさかではない。だが敵に向かって闘いを挑むとなれば話は別である。
ここでペリエ達は、この舞台から降りる覚悟を決めたのだ。
明日の早朝にも部隊の半分がこの街から川を渡り国境を越えて敵軍が陣を張る森へと進軍する手はずとなっていた。
ペリエ達は、明日の進軍を前に使い慣れた幕をたたみ、男爵が用意した宿へと宿泊先を移した。
監視役の兵士達も宿屋について来たが、ペリエが持つ魔石の呪いにより簡単に眠りについてしまう。
そして城門を守る兵士達もペリエ達が部隊の先頭に立ち、戦う事を知っているので城門を簡単に通してしまう。
この辺りは、男爵の兵士達の意思の疎通が出来ていないというか、いろんな事がガバガバである。
夜の闇の中、街道を歩き街が見える小高い丘の上で幕を張るペリエ達。
焚火で湯を沸かし異世界のおじさんから貰ったという「かれーめん」に熱い湯を注ぎ入れ無数の灯りが揺れる街をながめながら「かれーめん」をすする。
「私達がいなくなったのが知られたら軍は動かないのではないですか」
「無理だよ。もうあれだけの数が明日の朝に動くと決まったら止められない」
「それは確かにそうですが・・・」
「僕や妖精さんが居なくても負ける事はないと思うよ。欲さえ出さなければ・・・」
「欲ですか・・・」
「そう、敵軍をせん滅するとか敵の街を攻め落とすとかね」
シルキーの言葉にペリエがそっけなく答える。
そして夜が明ける前にペリエ達は、幕をたたみ街が見える丘から姿を消した。妖精が封印されているという魔法ランタンがあるという廃墟となった精霊神殿を目指して。
それと時を同じくしして街から軍勢が川を渡り始める。その部隊の先頭にペリエの姿は無い。
街道は徐々に細くなり山間の道を進んでいくと小さな村が姿を現した。
村の周囲は、石を積み上げ隙間を土で埋めた簡単な壁で囲われていてところどころ壁は崩れている。
そして木で作られた簡単な扉があり、それが村と外界とを隔てる境界であった。
「誰か・・・いますか」
壊れかけた木製の扉をそっと開けて村の中を覗き込むペリエ。
村の中は、誰も住んでいない廃墟となった家が軒を連ね、その先に村を守るはずの壁が無残に崩れた光景が広がっていた。
「誰かいません・・・ね」
「随分と前に廃墟となった村だな」
「そうみたいですね」
「それにしても村を守る壁が壊されてますね」
「地面を見ると何かが這いずった跡も見える。これはかなり大きい」
シルキーが目線を向ける先には、確かに地面を何かが這いずった跡が幾重にも残っている。
「かなり大きな魔獣に襲われた様に見えますね」
「かなりの大きさだ。それに数も多いと思う」
村は、山間部に位置していて日が傾きかけたばかりだというのに、既に山陰に半分ほど沈んでいる。
「このまま引き返しても魔獣に背後から追われるかもしれません」
「ここにいても魔獣に襲われるかな」
するとペリエが背負う大きな鞄の上でのんびりと昼寝をしていた妖精リルがむくっと起き出した。
「この足跡は・・・巨大な蛇・・・かな」
そんな言葉を発した妖精ルリ。
周囲の木々が風に揺れてざわめいている。だが、それとは違う何かが這いずる音が遠くから聞こえて来る。
「あ~。来ちゃったね。山の向こう側にいるけど間もなくここに来るみたい」
その言葉にシルキーが弓を構えて周囲警戒し始める。
「シルキー。その弓では勝てないと思う。今の僕の水魔法でも恐らく無理。だけどやり過ごす事は出来ると思う」
妖精ルリは、そう言うとペリエとシルキーを廃墟となった小さな家の中に招き入れる。
「ペリエ。今から僕の水魔法でこの魔法ランタンを見えない様にする。でもそれは錯覚によるもので、魔法ランタンはそこに存在する」
妖精ルリの言葉に耳を傾けるペリエ。
「そしてここにやって来る魔獣をやり過ごす」
「魔獣をやり過ごすんだね。それは分かった。でも魔法ランタンを水魔法の錯覚で見えない様にするのは分かったけど、それだと僕達はどうすればいい」
ペリエが疑問に思ったのは最もである。魔法ランタンを魔獣から水魔法で見えなくしたところで、ペリエとシルキーが見えなくなる訳ではない。
「それはね。こうするの」
そう妖精ルリが言った瞬間、シルキーの視界が突然歪むと何処かに吸い込まれる様な感覚に襲われた。
何が起きたのかも分からず思わず腕で顔を隠してしまうペリエ。
いくばくかの時が経ち吸い込まれる様な感覚が無くなり周囲を恐る恐る見渡してみる。
そこに広がっていたのは、森であり湖であった。
日が落ち周囲はかなり暗い。だが月の明かりの様なものがうっすらと周囲を照らしている。
ペリエが立つ横には、シルキーがいてペリエの肩の上には鍵妖精のキーもいる。
「ここは?」
その言葉に答えたのは、妖精ルリである。
「僕の魔法ランタンの世界にようこそ」
「魔法ランタンの世界?」
「そう、ここが僕が封じられていた魔法ランタンの中に僕が作った世界だよ。
妖精ルリは、ペリエの周囲を飛んで得意げな顔を見せた。
「ここで待っていて。僕が魔法ランタンを精霊神殿に運ぶから」
そう言って姿を消した妖精ルリ。
まさか運んでいた魔法ランタンの中に森と湖が広がっている事など知らなかったペリエ。
妖精の力の一端を垣間見た瞬間であった。
魔法ランタンの中には、妖精ルリが作り出した世界が広がっていました。
このお話は、異世界SideとYouTubeのキャンプ動画の中で展開する現世界Sideに分かれています。
異世界Sideは、PCの前で考えながら書く事ができます。
対して現世界Sideは、キャンプに行かないと撮影が出来ません。
さらに撮影後も編集作業があるので以外と時間を要します。
こういった事をやる人がなかなかいないというのは、これが原因かもしれませんね。
現世界Sideのお話は、手の込んだ事をやっている訳でもなく手の込んだ編集をしている訳でも無いのですが、それでも編集に不慣れな事もあり進みが悪いです。
とはいえ、キャンプに行かないと現世界Sideのお話が進まないので、面倒だからキャンプに行かないという訳にもいきません。
YouTubeでキャンプ動画をUPされている方々が毎月の様にキャンプに行っていますが、あれって結構大変です。
まあ、美味しいお酒を飲んで美味しいお肉を焼いて食べて焚火をしているだけなら楽なんですけどね。
異世界Sideで主人公達は、街から街への移動は徒歩で途中に野営をしています。
筆者もキャンプ(野営)をして現世界Sideのお話を進めています。
つまりふたつの世界で同じ様な行動をしていいるのです。
なので現世界Sideについては、もう少しお待ちください。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/