004話.異世界のお菓子
「何を食べてるの?」
「異世界のお菓子」
魔法ランタンから出て来た妖精は、とんでもない言葉を言い放った。
「異世界?異世界って魔神がやって来た世界の事?」
「違う。魔神達がやって来たところとは別の世界」
「食べてるのは、その世界のお菓子?」
「そう。異世界のおじさんが食べなってくれたんだ」
そう言うと魔法ランタンから出て来た妖精は、透明な袋に入ったお菓子を差し出した。
「まだあるから食べる?」
ペリエと鍵妖精のキー、それに仲間になったばかりのダークエルフのシルキーが差し出されたお菓子を手に取る。
「その透明なびにーるっていう袋を破いて中のお菓子を食べるんだよ。お菓子は、崩れやすいから注意して」
お菓子は、透き通った透明な袋にくるまれていて、それをゆっくりと開けてお菓子を取り出す。
そしてそれを口の中へと放り込むと、ほのかな甘さと香ばしさが口の中いっぱいに広がる。
「美味しい。今までに食べた事のない味」
「これをくれた異世界のおじさんってどんな感じだった」
「見た目は人族と同じだよ。でもこことはちょっと違う感じの世界」
鍵妖精のキーとダークエルフのシルキーは、話す事もなく黙々とお菓子をほおばっている。
「このお菓子。すごく美味しい」
「でもどうやって異世界に行ったの」
誰もが思う疑問をペリエが問うてみる。
「僕が封印されていたランタンの中に異世界に繋がる扉があるんだ。そこを通ると行ける」
思わず顔を見合うペリエと鍵妖精キーとダークエルフのシルキー3人。
「異世界のお菓子を食べるとなんだか力がみなぎるんだよね」
唐突に魔法ランタンから出て来た妖精は、自身の頭の上に大きなバケツに入りきらない程の水の塊を出して見せた。
「僕は、水属性の妖精だからこうやって水を使った魔法が使えるよ。でもまだ封印がとかれたばかりだから元の力が殆ど使えないや」
妖精は、そう言うと頭の上に作り出した水の塊をひょいと誰もいない宿営地の端へと投げた。
”バシャ”。
水の塊が地面に落ちる音が響く。
「お菓子も食べたしそろそろ寝る」
異世界のお菓子を食べ終えた妖精は、そう言うとそそくさと自身が封印されていた魔法ランタンの中へと入っていった。
「お菓子、美味しかったね」
「あの様なお菓子を異世界人は食べているのか。少し驚いてしまった」
「僕のランタンには、異世界と繋がってる扉なんてなかったのに・・・」
異世界のお菓子を食べた3人は、それぞれの言葉を残して夜の宿営地で眠りに入った。
ちなみにペリエが野営に使っている幕は、おとなふたりが何とか入れるくらいの大きさだ。
元々、ペリエと鍵妖精のキーのふたり旅だったので、旅の仲間が増えるなど考えもしていなかった。
ダークエルフのシルキーは、妖精と共に旅をしているペリエを信頼しているのか狭い幕の中で共に寝起きしても問題ないとそそくさと寝に入ってしまった。
あまり若い?女性の隣りで寝た事のないペリエにとって少々荷の重い夜を迎える事になる。とはいえ、鍵妖精のキーもペリエと共に寝ているので実際は3人で同じ幕の中にいるのだ。
寝に入ったダークエルフのシルキーは、着ていたローブを脱ぐとなぜか肌の露出が高く豊満な胸を強調する様な軽装な服をまとっていてた。そこに薄い毛布にくるまって寝ているので、胸のふくらみがどうしても目に入ってしまう。
そんな女性が隣りに寝ているというのに若い男の子にそれを意識せずに眠れと言うのも無理がある。
なんやかんやでペリエの寝不足の日々は当分の間続くのであった。
さて、朝になり幕を畳んで次の街へと向かうペリエ達。
ペリエは、街で呪いをかけられた武具を安く買いたたき、呪いを解いた武具を高く売って旅費を工面していた。
それがシルキーの騒ぎでゼブラの街では出来なかったのだ。
問題は、妖精達の食べ物である。妖精達は、ことのほかよく食べる。大人数人分の食べ物などあっという間だ。
今までは、鍵妖精のキーひとりだったからどうにでもなった。だが、もうひとり妖精が増えさらにダークエルフのシルキーまで増えた事でこの旅の仲間は、食い扶ち換算で4人以上となる。
それを食べさせるとなると呪いがかけられた武具の売り買いでどうにかなるのかと不安が心の中を駆け巡るペリエ。
そこである事に気が付いた。
「そういえば、妖精さんの名前ってなんて言うの」
ペリエが背負う大きな鞄の上でくつろぐ妖精は、それにこう答えた。
「人族の言葉では、発音できない名前だから何か名前を付けてよ」
「いいの?」
「まあ、新名くらいに思っておくからさ」
そしてペリエが思いついた名前は”ルリ”。
ルリ(瑠璃)。妖精が封印されていた魔法ランタンは、濃い青と淡い水色が絶妙な配色で光る不思議なものであった。
それを現す言葉としてルリ(瑠璃色)が丁度良いと思ったのだ。
「じゃあ”ルリ”さんで」
「分かった。今日からリルって呼んで」
ペリエが背負う大きな鞄の上で揺られながら妖精ルリは、のんびりと白い雲が浮かぶ空を眺めていた。
街道を次の街に向かってあるいているとシルキーが何やら後ろを気にする素振りを見せ始めた。
「どうしたの」
「追手のようです。それもかなりの数です」
そう言うとシルキーは、弓を手に持ち街道の脇に立つ木々のひとつにささっと上ると姿を消してしまう。
「僕達は、どうしたらいいと思う」
ペリエの呑気な言葉に鍵妖精のキーが周囲を警戒する素振りを見せながら答える。
「確かに10人くらいの人族がこっちに向かって来てる。それもかなり殺気立ってるみたい」
「やっぱりゼブラの街から来た追手かな」
「普通に考えたらそうだよね」
ペリエは、街道の脇に立つ木々と腰よりも高い草むらの中に入り身を隠しながら様子をうかがう。
そして追手らしきものたちがペリエ達を本当に追って来たのかも分からないにもかかわらず、戦いが一方的に始まってしまった。
もうお分かりだと思う。ゼブラの街に入る手前の宿営地でダークエルフのシルキーがペリエ達を追って来た冒険者風の男達を次々に弓で射殺した光景を。
それと全く同じ光景が目の前の街道で起きていたのだ。
ペリエと鍵妖精のキーが草むらから街道を覗き込むと、既に5人程の男達が倒れていた。
男達は、盾を構えて矢から身を守っているのだ。それなのにシルキーが放つ矢は、見当違いの方向から飛んで来る。
さらに男達は、それなりの防具を装備しているにも関わらずシルキーが放った矢は、あっけなくその武具を貫通していく。
「魔術師なにをやっている。物理防御と魔法防御を!」
「もうやっています。あの矢は、物理防御壁も魔法防御壁おも貫通しま・・・ぐえ」
魔術師は、最後の言葉を言い初前にシルキーの矢で胸を射抜かれそのまま街道に倒れ込んだ。
「くそ。撤退だ。撤退し・・・」
男は、盾を構えながら街道を後ずさりしにがら仲間に指示を出した。だが、それに呼応する仲間の返事はない。
振り向くと10人もの部隊が自身ひとりになっていた。
「うっ、嘘だろ」
男は、必死に盾を構えながら後退を試みた。だが、既に胸や腕にも矢が刺さっていて歩く事すらままならない。
やがて歩く事も出来なくなった男は、この部隊の最後を見届けるかのように空を見上げたまま動かなかうなった。
戦いが終わった事を見極めたペリエと鍵妖精キーが草むらから恐る恐る出ていくと、木の上からダーク絵ウルフのシルキーが音もなく降り立った。
「こいつら殺気立って来るから思わず矢を射かけてしまったではないか」
未だに矢を構えたままのシルキー。対して街道に倒れている10人は、誰も身動きすらしていない。
「10人全員殺ったの?」
「はい。殺気をまき散らして来たのですから、私達を殺す気だったのでしょう」
「でっ、でももし僕達を追って来た人達じゃなかったら・・・」
シルキーは、この状況でまだそんな呑気な事を言うペリエを、思わずかわいそうな人を見る目で見つめていた。
「ペリエさん。よくそんな心ずもりでここまで旅をしてきましたね。そんな事ではいつ殺されてもおかしくないです」
「でっ、でも・・・」
「今この世界は、魔神達が支配しています。人族の王国は、4つの陣営に分かれて戦い殺し合っているんです。そんな世界を旅している以上、自身もいつ殺されるかも分からないと自覚しておかないと」
シルキーは、街道に倒れている男達の懐をまさぐると金目のものを集めはじめる。
「死んだ者には、申し訳ないという気持ちは私のもありますが、だからといって私がかわりに死ぬ気はありませんから」
街道に倒れている者達の懐を探り終えたシルキーは、集めた金をペリエに差し出す。
「私と妖精様の食事代がかかるのですよね。少ないですが、これで次の街で食料を買いましょう」
ペリエは、差し出された金を黙って受け取った。自身も追って来た者達を今まで何人も殺して来たし、そういった者達の懐から金を奪って来た。
シルキーは、黙って街道に倒れている男達を草むらの中にひきずっていく。
それを見ていたペリエも慌てて手伝い始める。
元々、旅人も馬車もあまり通らない街道である。人が殺されたところで騒ぐ輩などいなやしないのだ。
男達の躯を草むらに隠したペリエ達は、また街道を次の街へと向かう。
ここから次の街までは、歩いて3日はかかる距離にある。そのため例の如く街道沿いにある宿営地で今日も野営を行う。
宿営地に到着したペリエ達は、背負った大きいな荷物を降ろすと野営用の幕を張り、周囲の森から枯れて乾燥した枝を集め焚火を始めある。
いつもの代わり映えのしない塩味のスープとパンで空腹を満たす食事が始まる。
既に飽きた食事だが腹が空いていれば食べられる代物だ。
そして妖精達がスープの入った鍋を空にした頃、妖精のルリがペリエにこんな事を言い出した。
「お湯を沸かして。それも熱いやつを」
ペリエは、妖精がお茶でも飲むのかと思い言われるがままに焚火の上にポットを置き湯を沸かし始めた。
妖精ルリは、皆が見るなかで見た事のない器を取り出すと何かを始めた。
そこからただよう匂いは、ペリエが今まで嗅いだ事の無い匂いだ。
「ルリさん。それって・・・」
「これ。異世界のおじさんがくれた食べ物。”かれーめん”て言うんだ」
妖精リルは、またまたとんでもない事を言い放った。
ペリエが使っている幕は、ツエルト(三角テント)をイメージしていて生地は厚く重く、雨が強いと漏るしょぼいものです。
魔法ランタンのお話を少し。
ランタン自体は、ローソクのカメヤマで売っている"筒灯り"という製品です。
ただ、ランタン自体にLEDとか光る機構はなく単なる入れ物です。
そこにローソクやLEDライトを入れて使いますが、LEDだと昼白色、昼光色、電球色にしか光りません。
もうひと工夫しないと写真の様な不思議な光を放つ様にできません。
実際にキャンプで4色の魔法ランタンを並べて使っていますが、実に綺麗です。
当然ですが私以外のキャンパーさんで持っている人は誰もいないのでオンリーワンな感じです。
キャンプ場で4種の魔法ランタンを見かけたら、それは恐らく純粋どくだみ茶だと思ってください。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
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